2003.4 無料公開記事 ネット販売2003.4

インタビュー
「われわれが日本市場で期待している成果はもっと大きい」――
アマゾンジャパン ジャスパー・チャン社長に聞く



――この第4四半期に営業ベースで黒字化を実現したということですが、その要因は何だったのでしょうか。
「前期でブレークイーブンポイントに達したのは予測通りの結果でした。事業を開始した最初の段階ではともかく規模拡大を目指してやってきました。米国アマゾン・ドット・コムと同様に、商品のセレクション(品揃え)、価格面の充実、アベイラビリティ(商品調達)の強化にフォーカスしてきました。日本法人は当初、ブックスビジネスだけでしたが、ミュージックやDVD、ソフトウェア、ゲームにも拡張し、セレクションを充実させてきました。昨年11月にはマーケットプレイスも開始しました。
その中でも、大阪屋、ライラック商事といったベンダーと密な関係を築き、商品調達力を強化してきたことが大きい。当社サイドでも、そしてベンダーサイドでも常に在庫を準備できる体制を築いてきました。各ベンダーとはEDIで専用線を引いており、効率的に受発注のやり取りができています」
――商品調達という意味では、仕入れコストの圧縮はできているのですか。
「取次ぎを通して、販売量のボリュームが増えるほど、価格に割引率を反映しています。そういう関係性ができています」
――いつ頃からですか。
「当然そういう体制というのは最初から計画に入っていますが、立ち上げてすぐにではなくて、ある程度の実績を残してからです」
――書籍の正味(仕入れ値)を下げることは非常に難しいこと。それを実現できているということですか。
「当社の成長率が非常に著しいということもあり、ベンダーとの取引にはそういう要素を取り入れました。価格取引の体系が出来上がっており詳しいことは公開はできませんが、もちろんボリュームインセンティブという要素です。そしてベンダーとは年間を通じて仕入れ価格の交渉を行っています」
――今回の収益を出した理由の大きなポイントの二つというのは、1,500円以上の購入者への無料配送(フリーシッピング)による利用者拡大と、仕入れコストを下げて収益性を高めたことが大きなポイントになったと言えるのですか。
「それは重要なことですが、その二つに限ったことではありません。成長のスピードが一番大きなファクターだと言えます。その成長を前提にしたフリーシッピング、プライシング、商品セレクションの充実が大きな要因です。
それに世界規模で展開しているアマゾンブランドの存在が大きいと言えます。米国、英国、ドイツなどで海外展開していますが、それらの各サイトでテクノロジープラットフォーム、共通の技術的な基盤を持っています。そのコストをシェアすることによって、収益性にも大きなインパクトを出すことができています。
われわれが日本単独で事業展開する場合と、世界のアマゾンの中でインフラをシェアしている場合と、コスト要因というのは非常に大きく違ってきます。つまりそれだけコストが安くなり、アドバンテージがあるわけです」
――『マイストア』『マイページ』といったパーソナライズ機能はどの程度、売り上げに貢献しているのですか。
「実はこのパーソナライズ機能の存在は非常に大きいのです。決算の数字を見てわれながら驚いたのですが、パーソナライゼーションは他の海外サイトに比べて、業績に非常に大きなインパクトを与えています。
興味を持つ商品に対し他のユーザーが合わせて購入した商品、類似品、同じカテゴリーの商品を同時にお薦めするシミュラリティーの機能も日本のサイトではかなり効果的に機能しています」
――集客の部分でお伺いしたいのですが、アソシエイトプログラム(アフィリエイトプログラム)の規模は現在どのぐらいあるのですか。
「昨年7月の時点で1万サイト、昨年9月には1万5,000サイトを突破しました。それ以降もかなり順調に伸びています」
――アソシエイトプログラムと自社で集客した顧客の比率はどの程度あるのですか。
「はっきりとは言えませんが、今は拮抗しており、集客面ではかなり貢献していると言えます。他のアマゾンのサイトと比べても、日本のアソシエイトプログラムの伸びは結構高いと思います」
――日本市場での成果をどう見ているのですか。
「非常に満足していますが、そういった上で、われわれが期待している規模はもっと大きいのです。
アマゾンの企業理念というのは、地上で最も大きな商品ライン、消費者が望むものは何でも手に入るネット販売サイトを目指しています。その大きな期待と比べてみると、まだまだ遠い状況です」
――事業開始2年間を終えての一番の課題点と、それに対する施策は何でしょうか。
「今後、真のリテイラーになれるかどうかということが今後の課題です。例えば、アマゾンジャパンというとネット書店と思われがちです。もっと総合的な販売サイトを目指していきたい。商品カテゴリーの拡大はミッションとして取り組んできたのですが、今後ももっと増やしていきたいと考えています」
――もっと具体的にはどういう施策でしょうか。
「Eコマースの基本はセレクションの幅の大きさだと思います。お客様がサイトを訪ねてきて、欲しい物が見つからないと、他のサイトに行ってしまうことになります。だから商品のセレクションを広げることは常に課題になると思います。既にお客様のニーズに合う商品があれば、次は値段だったりデリバリー方法など利便性を向上することが重要になるでしょう。
同じセレクションの中でも、常にベストな形でサービスを提供すること。それはプライシングであったり、デリバリーであったり。今度は他社との競合において、どのようにそこを凌駕するかということになります」
――今後増やしていくのはどのような商品ジャンルですか。
「カテゴリーは広げていきますが、それが何なのかは今の段階では言えません。ヒントはアメリカ、ヨーロッパのサイトと比較して今は何が欠けているかを見ればお分かりになると思います」
――米国のサイトでやっているジャンルで増やすのか、日本独自でやっていくのですか。
「両方ともやりたいと思っていますが、オンラインの発達と、自分達で構築したノウハウ活用、その融合で今後の日本サイトが目指す方向性が変わってくるでしょう」
――これだけ売上規模が急激に拡大すると、バックグラウンドの強化が必要になる。物流、カスタマーサポートなどフルフィルメント部分の強化を考えていますか。
「固定的な投資をできるだけ最小限にして、効果を最大に生むということを心掛けています。例えば、米国では実施しているドロップシッピングと呼ぶ直送を行うことなども考えられます。当社の千葉の倉庫を経由せず、大阪屋などの取次ぎからお客様へ直接届けるというようなことです」
――物流の効率化、短縮化の余地はあるということでしょうか。
「今の制約要因は、倉庫のスペースにあるわけで、そういったところを最小限にすればそれだけ効率が上がるわけで、ドロップシッピングというのは一つの大きな解決策になります」
――カスタマーサポートは現状のままで十分なのですか。
「キャパシティーの問題はあまりありません。われわれが気付いたのは、日本のお客様はコンタクト率が低いということです。カスタマーセンターにはそれほど課題はないと見ています」



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