2003.1 無料公開記事 ネット販売2003.1

特集1 売れるサイトの条件

インタビュー・
アイ・エム・ジェイ

取締役副社長兼COO
村上 亮氏



潜在的なニーズ
――売れるサイト作りで最も重要なことは何ですか。

ターゲットを明確にすること、組織の中でネットがどんな位置付けになるのか――など色々あります。今でもこうした基本的な部分を押さえ、サイトが目指す“ゴール”までのグランドデザインが描けていないサイトもありますが、基本的にはこうしたコンセプト不在、位置付け不在というサイトは少なくなってきているのではないでしょうか。そういった議論は一巡した感があります。
――成功しているECサイトに共通している点は何ですか。
ネット上のコマースにおいては、ユーザーは安いものをいち早く買えることを重視していると世間的にはいわれています。それがネットの特性を生かしたコマースだと。価格の比較サイトや激安のサイト、オークションなどがそうです。しかし、私には本当にそうなのかという疑問があります。
商品バリューや購入プロセスに納得感、信頼感があれば、多少高くても購入したいという人は結構いますよね。安さだけではない付加価値を求めるマーケットは、いくつもあると思います。その潜在的なニーズの仮説に対し、的確なアプローチができているサイトは強いと思いますよ。

後発組は
アライアンスの必要も
――後発のECサイトが成功するために必要なことは何ですか。
商材によってケースバイケースですが、自社サイトで扱う商材だけだと限界があるので、他社サイトとコラボレーションするという手もあります。
例えば、パソコンなどは頻繁に購入するものではありませんよね。すると、他社の商品やサービスを使い、アライアンスを組むことは自然な流れとして出てきます。新分野参入の初期コストが小さいというメリットもあるため、今後はこうした動きも多く出てくるでしょう。
漠然としたニーズに
どう答えるか
――そのほかに今後のネット販売はどんなことが重要になりますか。
私の中では「漠ニーズ」と「目利き」が大きなテーマになっています。
――漠ニーズとは。
ネットにおけるユーザーの漠然としたニーズのことをそう呼んでいます。
明確な目的意識を持って、特定のサイトに訪れて購買行動を起こすというのは、明確な購買行動です。しかし、ブロードバンドユーザーが増えて常時接続が当たり前になってくると、ネットが身近になってきて、テレビほどではないですけど、ぼんやりネットを閲覧する人も増えてくると思います。そこで出てくるのが、不明確な、漠然としたニーズです。
ネットのサービスにおいては現状、ユーザーの漠然としたニーズに対して何をどうやって解決してあげるかということができていません。ネット上には情報がありすぎて、大抵のサイトは明確な目的を持ったユーザーであることが前提のサイトです。
しかし、ユーザーの中には「何か面白いことないかな」「逐一判断を迫られず、面倒なくガイドしてくれないか」と思いながらネットを使う人も多くいるはずで、これからはもっとそうしたユーザーが増えてくるのではないでしょうか。
――漠然としたニーズにはどうやって対応すればいいのですか。
パーソナルエージェント的なサービスが有効だと考えています。これを、私は目利きと呼んでいます。
例えば、仲のいい友達がいて、あそこの店のそばはおいしかったよと教えてもらったら、信用できますよね。しかし、コギャルにそんなこといわれても「本当にうまかったのか?」と思うじゃないですか(笑)。つまり、わざわざ足を運ぶのはリスクがあるので、価値観の比較的近い人からの目利きを通すことで、時間をかけるリスクを軽減できるのです。
もう少し具体的にいうと、旅行に行こうと思ったときにいくつかの雑誌で調べる人がいますが、基本的にはそれと同じようなことです。雑誌が一旦目利きしたものを、ユーザーが選んでいるわけです。ですから、いかに目利きの利いたサイトを作るか、そうしたサービスを提供できるかが、これからは重要になってくるでしょう。
これは、単に「安い」「早い」「なんでもある(網羅的)」といったベクトルとは全く別のベクトルで、消費者の価値観を横串に捕えるものです。ユーザーはとにかく無駄な動きはしたくないというのがあります。ですから、縦割りの商品やサービス構成で提案するのではなく、生活スタイルだとか、一定の許せるブランドイメージなどで提案することができれば、ユーザーの漠然としたニーズに対応できると思います。

バックエンド共有化の流れ
――どうすれば信頼できる目利きサイトになれるのですか。

雑誌みたいなものは実績があるので一定の信頼は得られるでしょう。一方、ゼロからそういったパーソナルエージェントを作ろうとすると、実績はもちろん、例えば口コミのようなバイラルマーケティング的な仕組みを考えたり、ユーザー認知・信頼度アップのための様々な策を講じたりしていかなければなりません。正しいアプローチだと思いますが、相応の時間はかかります。
もう一つ重要なことは、経験の付加価値化。
例えば、ネットイベントに参加して手に入れた商品は、購入者の中では価値が上がります。オークションで「途中はどうなっているのか?」をリアルに楽しみながら、やっと手に入れた商品などがそうですよね。そういった仕掛けもネットはインタラクティブ性に優れているので、購買プロセスをイベント化するということも有効なプロモーションの1つです。「モノそのものより思い入れ」です。
――目利きサイトは現状、どうして存在しないのでしょうか。
楽天のような仮想モールではある程度できています。しかし、大きなサイト同士がトランザクションを一括して受けるようなサービスはありません。なぜなら、ユーザー認証、課金・決済、物流のようなバックエンドの一連のファンクションを共有する必要があるからです。
あるいは、ルールに則してビジネスプロセスをユーザーオリエンテッドにしていこうという動きもあります。具体的には、XML化やシングルサインオン、または「Webサービス」の考え方のことで、バックエンドプロセスのスタンダード化(共通ルール化、繋ぎ込み、再利用化)を前提とした仕組みができあがってくることは間違いないことだと思います。
しかし、こうしたユーザーの横断的なニーズに答えられる仕組み、共通ルール作りは、産業や市場、もっというと「社会」から観た場合、明らかにメリットなのですが、一方では楽観できるほど簡単なことではなく、様々な課題はあります。端的ないい方になってしまいますが、理屈や概念だけではそう早く浸透することはない、ということで、一方ではまだ時間はかかる要因は残っています。具体的には触れませんが、これを早く推進するためには強いドライブ要素が必要だと考えています。
また、今お話していることは仮説であって、別な形で実現されるかもしれません。いずれにせよ、ネットはより身近な存在になりつつあり、漠然としたニーズは確実にあって、しかもそれが多数あるということに変わりはないといえるでしょう。

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