2002.6 無料公開記事 ネット販売2002.6
 
連載 「ネット工房」― 舞台裏をのぞく
「作ってから売る」のではなく「売ってから作る」サイト「たのみこむ」

たのみこむ http://www.tanomi.com


ユーザーからアイデアを募り、一定の受注が確保できたものを商品化する「限定受注生産」を行うのが、エンジン(本社・東京都港区、奥田裕久社長)が運営するサイト「たのみこむ」だ。同社のビジネスは「作ってから売る」のではなく「売ってから作る」もの。ネットが持つ双方向性をフルに活用して新しいビジネスモデルを提案する。


世の中にないものを作り出す、商品開発の「真骨頂」を追求。

 「たのみこむ」は99年12月に開設。同社の奥田裕久社長はテレビ番組の構成やマンガ原作を手掛けていたという経歴を持つ。発想力、企画力が問われる世界で培ったノウハウをネットの世界で具現化させるべく、同サイトを立ち上げた。
 同社のサイトの売りは「世の中に無い商品」を生み出していくこと。ユーザーとともに製品を開発し、それを販売していく形をとる。
 商品開発のスキームは<1>ユーザーからの商品企画案を受け付けるコーナーやスタッフのアイデアを基に商品企画を立案<2>ここで固まった企画案を商品案として「たのみこむ本店」に掲載<3>ユーザーからのオーダーが規定数に達した時点で商品化が決定――となる。商品の内容にもよるが、数十から数百個単位のオーダーが集まれば、製品化へと至るという。
 この後、商品案の仕様に基づいて、商品の製造が開始される。実際に商品がユーザーの手に届くには、携帯ストラップやぬいぐるみ、またTシャツなど製造へのスパンが短いもので約1ヵ月、時計やミニチュアモデルなどは半年近くの期間を要するという。
 実際に商品を完成させ、ユーザーへ届けるまでの間、サイトでは実際の商品開発の進行状況や裏話を随時紹介。時には、ユーザーに追加のアイデアを募集して、最終的な完成までのプロセスをユーザーと共有する。こうしたことで、ユーザーは実際に商品開発へと参加。開発にまつわる苦楽やストーリーを共有することで、商品への期待と愛着はさらに高くなるという。また、単なるショッピングではなくこうしたエンタテイメントを提供している点が大きな特徴といえるだろう。
 これまでに、商品化の候補にあがったのは450アイテム。開設以来、月平均で20個の新しい商品をサイトで提案していることになる。このうち、3分の1を実際に商品化。商品は全て、世の中に無かった「まっさら」なものであり、このペースは驚異的ともいえるだろう。
 製品化したのは、衣料品からお酒、また時計、ライターなどの雑貨。さらにミニチュアモデルやフィギュアなど非常に多岐にわたる。これらの製品は製造元との交渉から、製造・販売まで、ゼロからのスタート。
 しかし一方、実際に商品化が決定した時点では、既にオーダーをまとめているため、赤字や在庫のリスクはゼロ。ビジネスモデルとして特許を出願しているこの手法はある意味極めて合理的であるともいえる。

限定品だからこそ求められる完成度。細部にも徹底したこだわり。

 同社のビジネスは、世の中に無いものを販売するということ。
 しかし、限定生産だけに商品一個あたりの単価は高いものにならざるを得ない。またこうした製品を求めるユーザーはいわゆる「通」の人達。ニッチ市場よりさらに細かいピンポイントの市場ともいえる。だからこそ、中途半端な製品では一度でそっぽを向かれてしまう。
 このため、製品の開発には徹底したこだわりをみせる。
 例えば、日活との提携により商品化が実現した「エースのジョー」(俳優の宍戸錠さんが映画で演じたキャラクター)のフィギュアモデル(23800円)では、造型をフィギュアモデルの世界で最も高い技術力があるとされる「アルフレックス」に委託。宍戸さん独特の風貌を再現したほか、映画で使用していたサングラスや拳銃はもちろん、エースのジョーは炊飯器から立ち上る臭いが大好きであるという映画の設定に基づき、炊飯器のミニチュアを付属。マニアを唸らせるこだわりをみせている。また商品開発の過程で宍戸さんに商品をみせ、感想をインタビューするなどマニアを飽きさせない趣向を凝らす。
 こうした細かい商品開発は、ユーザーのリクエストにプラスアルファのアイデアを盛り込み、製品化するというスタンスをとっているため可能だという。

ネットからリアルへ。最終形は市場ニーズを掴むプロ集団目指す。

 こうしたピンポイントのニーズを組み上げる商品を展開し、現在、同サイトは、平均で月商約2000万円を記録する。
 既存のビジネスに加え、今後同社が注力するのは、企業から委託を受け、テストマーケやアイデア募集するなどのマーケティングコンサルタント業務。こちらでも着々と実績を築きつつあり、既に50社以上のクライアントを持つという。
 同社が最終的に目指すのは、マーケティングのプロフェッショナルとしての位置付け。ネット上のニッチ市場を追い求めるのではなく、一般の市場で爆発的なヒット商品を誕生させることを目標とする。そのため、今後は商品開発などで通販企業との積極的な提携など「ネットからリアルへの進出」を視野にいれる。

UP