2001.3 無料公開記事 ネット販売2001.3
 
動き出したブロードバンドの主役、光ネットワーク

 xDSLやCATV(有線テレビ)などのチャネルを通じたブロードバンド(広帯域)ネットワークの導入や実験が始まる中、NTT(日本電信電話)が敷設を進めてきた光ネットワークの本格的な運用を前にした動きが、徐々に表面化し始めている。昨年12月、NTT東日本とNTT西日本は東京23区および大阪市内の一部エリアを対象とし、最大10メガBPSの高速光インターネット接続試験サービスを開始。また1月には光ネットワーク上でのサービスを検討する「光サービスアーキテクチャコンソーシアム」が正式に設立された。3次元空間の表現や動画像の再現などを容易にするこの大容量ネットワークは、場合によってはネット販売ビジネスを大きく変える可能性がある。
 東京・武蔵野市にある「NTTサービスインテグレーション基盤研究所」。ここには今、「光コマース」と呼ぶ、光ネットワークを使ったコマース(商取引)に関するデモンストレーション用のセットが設置されている。現在は常時オープンにしているわけではないが、準備が整った段階で一般に公開する計画もある。「(設置しているセットは)光コマースでどのようなことができるのかを分かりやすく示したもので、実際にはさらにいろいろなことが研究されています」。中を案内してくれた光コマースサービスクリエーションプロジェクトのプロジェクトマネージャー、齋藤孝文氏は話す。

「サーチ&バイ」からの転換

 同研究所の展示スペースに設置されている一般家庭のリビングスペース。壁面の中央には大きな液晶のフラット画面が飾られている。リモコンを操作すると、多数の商品やホームページなどが同時に1つの画面上に登場、それらを簡単な操作により「人気度」「価格帯」などの条件で比較したり吟味することができるようになる。イメージを具体化するためフジサンケイリビングサービス(ディノス)などがカタログや商品の情報などを提供しており、それによってショッピングのアプリケーションは構成されている。
 購入を検討する候補商品――例えばソファ――が決まると、さらに検討するため、シミュレーションを行うことも容易だ。自宅の部屋を映した画像を取り込んである別の画面を呼び出し、そこに先のソファを「置いてみる」といった形だ。それにより、このソファが部屋に似合うか似合わないかを判断できる。
 さらなる情報やアドバイスなどが欲しい場合は、リモコン操作で「店員」を呼び出せばいい。同一画面上に別の「窓」が開き、オペレーターが画面に登場、「対面販売」のようなイメージで細かな注文や問い合わせなどに応じてくれるはずだ。
 これらはあくまで、光ネットワークで実現可能なアプリケーションの代表的なものを形にしたものだ。このほかにも、いろいろなことがネット販売においても可能になる。「例えばその1つとして、あらかじめユーザーの体型情報などを入力、衣料品購入時の着せ替えシミュレーションを行えるような研究なども進めています」(齋藤氏)。
 言ってみれば、光ネットワークではある意味で、従来のネット販売ではあくまで将来的な可能性の範囲にとどまっていたものが容易に実現することになる。しかも大容量でのデータのやりとりになるため、ユーザー側にとっても待ち時間によるストレスはなくなるだろう。
 ただ、それよりも前に重要なことがある。「最初に探したいもの、買いたいものをあらかじめ決め、それを検索するというのが現在のインターネットです。ですが、(光ネットワークになれば)あらかじめ決めるのではなく、最初にたくさんの情報を集めておいて、そこからゆっくり楽しんで選ぶことが可能になります。ネットとの付き合い方が変わってくる可能性があります」と齋藤氏は説明する。
 つまり、今までのネット販売は最初に欲しいものありきの「サーチ&バイ(探して、買う)」というのが基本的な形だった。言い換えれば「カタログをパラパラめくり、それを楽しみながらいつの間にか商品の注文につながっていくような、従来型の通販のエッセンス」は、そこには求めにくかった。だが、光ネットワークでは、そうした「通販型」のネット販売を提供することが期待できることになる。
 例えば、単に画面上でウェブサイトを呼び出すだけではない、別の使い方も考えられよう。通販企業がサーバーにある程度の大きさのカタログの情報をすべて落とし込んでおけば、それをユーザーが自宅の端末に、“迅速に”すべて落とし込む。後はゆっくり、楽しむことができる――こんなことも将来的には可能になるかもしれない。

商用化のためのプロジェクト

 冒頭に記したように、この光ネットワークを一般に「商用化」していくためのプロジェクトも稼動を開始した。幹事会社として参画しているのはインテル、シャープ、ソニー、大日本印刷、ディーディーアイ、日本電気、NTT、日本放送協会(NHK)、ノーテルネットワークス、日立製作所、松下電器産業といった企業。現状は一部を除き、「基本的にはハードウエア関連のところが集っています」(齋藤氏)。
 というのも、当面はハードウエア面の整備が必要となるからだ。例えば、同じ光ネットワークでも10メガBPSの能力であれば、「何とか、既存のパソコン端末でも対応可能」(同)だが、100メガBPSの世界になると、「今ある端末では、とてもではないですが対応し切れない」(同)からだ。そこで、こうした大容量時代に対応できる端末を開発していく必要が出てくる。
 むろん、最終的には各家電メーカーなどがそうした役割を担うが、その前に規格などの面で主要な企業がある程度の合意を形成しておく必要がある。現状の「光サービスアーキテクチャコンソーシアム」は、そのための場という側面もある。
 端末と同時に、情報を画面上に再現し、各種操作を行うためのブラウザー(閲覧ソフト)も独自に必要となるだろう。ハードウエアの場合と同様、既存のパソコン用ブラウザーでは大容量ネットワークに対応し切れないからだ。齋藤氏は具体的なことはこれからとしているが、そうしたデファクト(事実上の業界標準)となるようなブラウザーも、コンソーシアムの念頭にはあるようだ。
 コンソーシアムでは今後、このような光コマースのほか、放送や出版、音楽、エンターテインメントといった分野を対象にした「光コンテンツサービス」や、医療、福祉、環境、公共といったジャンルを網羅する「光コミュニティーサービス」といった3つのカテゴリーについて、今後の可能性を探っていく考えだ。
 関係各社ではこれから、このような取り組みを一般に向けてもアピールしていきたい考え。中でも光コマースは潜在需要が大きいカテゴリーと考えられるため、一般への周知だけではなく、確実に主役の1つとなり得る通販業界やネット販売企業などとの積極的な交流や、アイデアの交換などを進めていくことを期待したい。

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