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株式アナリストに聞く、楽天の評価(後編)
 
 本誌創刊号発行の直前、大手仮想モール、楽天(本社・東京都目黒区、三木谷浩史社長)の2000.12期中間決算が発表された。そこで前回の予告通り、ウィット・キャピタル証券の荒木正人氏に同決算への見方や楽天株のバリュエーション(評価)、また多様化していく仮想モールの最新動向などについて話を聞いた。(聞き手は本誌・縄田昌弘)


――中間決算の内容についてはどう見ているのか。

 売上高が11.2億円、経常利益が2.7億円で、増収増益の基調は変わっていない。どちらとも150%を超える高い成長率を維持している。新規出店数は月間400店舗近い水準で推移しており、新規出店数に占める退出店舗の割合も6月で見ると2.3%と、4、5月ごろに比べると下がっている。
 三木谷社長は退店数が少ない点をもって出店企業の満足度は高いとしているが、私はそう単純には考えない。私のリサーチによれば、平均的な小売業の場合、出店企業は出店料だけではなく、広告宣伝費、さらに、人件費を含めて計算すれば、年間1億円程度を売り上げないとコストをペイしない。それだけの売り上げを上げられていない企業であっても、「先行投資だから」という理由で、出店を続けているのが現状ではないか。

――下期以降の株価動向をどう見ているのか。

 一時300万円を割り込んだが、その後戻してからは300万円の水準でしばらく動かないだろう。ウィット・キャピタル証券ではレーティングを5月26日に710万円で「売り」にし、8月14日には330万円で「保有」に戻した。それ以降、300万円前後で推移している。現在も「保有」は変えていない。しばらくは300万円前後で推移すると思う。

――楽天の他にモールとして注目しているところは。

 例えばネットプライス<http://www.netprice.co.jp>だが、同社はオープン当初に5,000近い店舗を集め、話題になった。興味深く見ているのだが、楽天とは違ったモールのビジネスモデルを持っている。つまり、ネットプライスの場合は出店といっても、出店企業と同社の間にリンクを張っているだけで、その場合は月額出店料が1万7,000円だ。楽天のように受注に必要なシステムをASP(アプリケーション・サービス・プロバイダー)方式で提供するサービスの場合は月額3万円。楽天は5万円なので、それに比べると安い。
 三木谷さんはASPじゃないとダメだ、といった趣旨のことを言われているが、必ずしもそうではないのではないか、と思っている。出店企業によってはASPの部分はいらない、集客の部分だけでいい、というところもそれなりの数がいるはずだ。そしてASPが必要な企業には月額3万円で提供するといったようにサービス内容を分けているところが面白いと考えている。
 1万7,000円の場合は基本的にはリンクを張るだけだから、これは出店側から見た場合、集客手段としての“モール”ということだ。集客手段として見た場合には、例えば、インターネット広告との経済性の比較になる。つまり、1クリック=120円とすると、142クリックないとペイしない計算になる。ネットプライスが、各出店企業に対して、それだけのアクセスを集められるかどうかが成功のカギになるだろう。
 ちなみに、楽天市場への出店企業の内、約80店舗がネットプライスにも出店している。つまり楽天のシステムを使いながらネットプライスにリンクを張る形で出店している。
 アプリケーションは受注システムだけであって、バックオフィスとはリンクしていないので、基本的には楽天と同じだと思う。問題は、そのようなシステムが有用な企業は限られるということだ。オンラインでの売上高がそれ程大きくはない中小企業、あるいは、少アイテムで事業展開をしている企業である。
 もう1つ面白いところがあるのだが、それはトライコーンが運営している「バイヤーズ<http://buyers.firstnews.com>」だ。例えば日本酒を買おうと思って検索をすると、販売している店舗がいくつか出てくる。そこでさらに“産地はどこで、辛口で、値段はいくら程度”といった細かいニーズをEメールで送る。そうすると、そのニーズが検索ではじき出された全ての店舗に伝わり、各店舗は消費者のニーズに合う日本酒を探し、その結果をEメールで返答する。
 もし、消費者のニーズに対して返答ができるのにも関わらず、返答をしなかった場合には、場合によっては退店させられることになる。いろいろな意味で消費者側に立ったモールの在り方だと思う。このモールでの競争力は店舗数になる。店舗数が少なければ、消費者のニーズにこたえられないからだ。現在は約3,000店舗であるが、5,000店舗が出店を申請しているようだ。

――モールの在り方も変わっていくということか。

 ネットプライスでも言っているが、やはり今後はある種のエンターテインメント性が必要になってくるのだろう。
 楽天のようなモールはブランド力のない店舗の集まりである。ブランド力があれば、わざわざモールに入る必要はない。今後は、ブランド力を持った店舗が増えていくと思う。

――バリュエーションに関してはどうか。荒木さんはeベイ(米ネットオークション大手)との比較において、楽天の株価には割安感はないと指摘されているが。

 バリュエーションについては、マーケットプレイス(市場)を運営しており比較可能な企業という意味で、米ネットオークション事業大手のeベイを挙げている。株価の動きが激しいので、その時々で状況は異なってくるが、私が試算した時点では株価売上高倍率、株価粗利益倍率共に3倍程度の開きがあった。これは、株価収益率に見る日米株式市場の間のバリュエーションの差(試算時点で日本の45倍に対して米国は29倍)を勘案しても、楽天の株価に割安感はないと思う。
 ただ、新規出店は短期的にはまだまだ増えると思うし、8月から事業化した従量課金型ビジネスの「楽天共同購入」システムが出店企業、楽天の双方の収益に貢献する可能性があることなども考えれば、現時点ではレーティングは「保有」とするのが妥当だと思う。とはいえ、「楽天市場」自体の価値は、出店企業が“繁盛”することと結び付いているわけで、今後、出店企業がどの程度売り上げているのかなどに関するデータ開示が行われることを強く望みたい。

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