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好機必ずつかむパワー

楽天

三木谷浩史会長兼社長



 約30年前。三木谷浩史楽天会長兼社長(写真)は野球児の道を断念した。三木谷氏が米国から帰国した当時の国内は、“ON人気”でプロ野球を目指す少年たちが急増。校内100人強の野球部員を見て、「レギュラーにはなれない」と判断した。

 新規参入する“市場の可能性”を最優先する姿勢は、経営者の今と変わらない。インターネット市場の可能性を確信して7年前に楽天設立。3年で株式公開し、相次ぐ大型買収の末、次の一手に球団経営の可能性を示す。
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 球団合併による経営側と選手側の確執で揺れる球界。一方、現時点で残された1つの新規球団の枠を巡り、ライブドア堀江貴文社長兼最高経営責任者と三木谷氏のどちらが球界入りするのか、国内の注目が集まる。 

 両者が球団の本拠地を申請したのは同じ宮城県。「心情的には先に申請したライブドアに来てもらいたい」(仙台市民)との声はある。ただ、「堀江氏は初動から間違っていた」(ネット業界関係者)と早くも堀江氏劣勢を決め付ける声も聞こえる。 

 揺れる球界に突如名乗りをあげた堀江氏。旧態依然とした球団経営陣とネットベンチャーの新旗手という図式は、新風を巻き起こさんとする鮮烈な印象を世論に与えた。しかし、その初動が球団経営側の“敵”に映った可能性は否定できまい。 

 三木谷氏は「プロ野球の参入はない」としつつも、数カ月前から球界入りの可能性を模索。9月24日の新球団設立発表の席で、奥田碩トヨタ自動車会長など大物財界人十数人を後ろ盾にしたことを明かした。表と裏の顔を巧妙に使い分け、「球団経営側の支持を得ること“こそ”重要」と考えていたのだろう。

 堀江氏は楽天の経営を「綱渡り」と評する。確かに、大型買収と株式市場からの資金調達を繰り返す経営は、そうした側面がある。その一方で、「綱渡り」が途絶えないのは、最大級のチャンスをかならず掴み取るパワーを表わしている。 

 最大手ネット宿泊予約と大手ネット証券の買収にせよ、一瞬の判断に迷い、後手に回れば、その好機を逃す。スピードを伴う的確な判断が、「綱渡り」を支えている。 

 全くのノーブランドから起業。最大手ネットメディアのヤフーを脅かすブランドにまで成長させた。球団経営を生かしてネットとリアルの融合を実現させれば、ヤフーさえ凌駕しかねない。 

 ただ、新市場の参入が成功し続けるかは分からない。最終赤字続きの損益状況やネットとリアルを含めた大企業の存在が、今後の経営に大きな影響を与える可能性もある。球界入りが実現するかも現時点では分からない。

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 当の三木谷氏は球界入りについて「勝算は?」との記者の質問に「勝算がなければやらない」と一言。これまでと同様に、新規参入の“市場の可能性”はあると判断した。(週刊「通販新聞」2004年10月7日) 
(島田昇)


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