2005.3 無料公開記事    ▲TOP PAGE

本質問う進化する思考

ライブドア

堀江貴文社長兼CEO




 ケンカになるからやめた方がいい――。

 ライブドア堀江貴文社長兼最高経営責任者(CEO=写真)に、あるネットベンチャーの幹部が接見を求めると、ライブドア関係者はこう諌めたという。

 このネットベンチャー幹部は、業界関係者の集まりなどにはほとんど参加せず、独自の考えと判断を最優先させる。彼の性格と堀江氏の「なぜそう思うのか」と納得できない発言を徹底的に追及する姿勢とでは、口論に発展する危険性があるとライブドア関係者は考えたのだろう。

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 なぜペンとノートを使うのか――。取材する記者の商売道具にさえ、堀江氏の「なぜ」の追及は及ぶ。ペンでノートに書いたメモをもう1度パソコン(PC)上のワープロソフトで清書するのなら、最初からパソコン上で作業した方がいいのではないかという意味だ。 

 もう1つある。それは「なぜ今ある形にこだわるのか」という意味だ。記者と言えば「ペンとノートが商売道具」という固定観念がある。しかし、PCの軽量化と高性能化は進み、そのPCをつなぐネットワーク環境も格段に向上した。時代に則した変化対応の必要性を問う。

 ライブドアのプロ野球界進出表明を受け、「売名行為ではないか」とするマスコミ報道が相次いだ。確かに、ポータル(玄関)サイト「livedoor」のアクセス数はこれを機に倍増。堀江氏がメディアに露出したことの影響は否定できない。この“効果”を当初から予想していた可能性は、考えられないでもない。 

 ただ、現状の球界再編を巡るドタバタ劇は、「大阪近鉄バファローズ」の赤字体質に親会社の近畿日本鉄道が耐えられなくなったことがきっかけ。この状況の放置につながった閉鎖的な球界の経営体質が、球界再編の本質的な問題としてある。 

 堀江氏はその本質を突いた。「なぜ新参者が球団経営に名乗りをあげてはいけないのか」「なぜ新規参入が認められないのか」――。変化する時代に則した問いは、球界の構造さえ変えた。

 自著「100億円稼ぐ仕事術」の中で、堀江氏は「人間の進化は考えることで成り立ってきた。(中略)先進国の十分に教育を受けた人々が思考を放棄しているのは、理解しがたいことだ」と述べる。固定観念に捕らわれ、メディアが発する情報を思考せず、受動的に受け入れる人が多い現代社会への痛烈な批判にも取れる。 

 一方、ネットはこうした受動的なメディアの体質を変えつつある。ネット上の膨大な情報は能動的に選択しなければならず、そこで接触する人たちに向けた情報発信も必要だ。受動的な思考だけでは、ネットを十分に扱うことはできない。 

 さらなる進化を遂げて生活に深く入り込んでくるネットメディア――。この将来像は不透明だが、ネットの有効活用における原動力が“本質を問う進化する思考”であることは、変わらない。(週刊「通販新聞」2004年10月14日) 

(島田昇)


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