2011.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE


パフォーマンスの向上が収益を生む

ジェフ・クラッツ●Keynote Systemsサービス担当上級副社長 




通販サイトのページ表示速度を計る“パフォーマンス計測”。ユーザーにストレスのない買い物環境を提供することは離脱を防ぎ、機会損失の減少につながるため、ネット販売事業者にとっては重要な施策のひとつと言える。ただ、日本ではまだSEOに比べるとあまり重視されていないのが現状で、世界各国でパフォーマンス計測を展開しているKeynote Systemsのジェフ・クラッツ副社長によると、諸外国に比べ意識の開きがあるという。パフォーマンス計測の重要性や日本での戦略をクラッツ氏に聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)


日本のほとんどのサイトはパフォーマンスを重視していない

潜在的に売り上げを喪失しているかもしれない

――なぜパフォーマンス計測が重要なのでしょうか。

Eコマースにとって重要なものは何かと言ったら、やはりコンバージョンレートですよね。どれぐらいのユーザーが集まり、どれだけ最終的なコンバージョンに結びついたか、ということが非常に重要です。で、ユーザーが『このサイトで買おう』となったとき、遅くて使い勝手が悪いとかそういう経験をしてしまうと『ここでなくてもいいか』となり、もうそのサイトには行かなくなるかもしれません。ですからサイトが遅い、ということは、潜在的に何百万もの売り上げを喪失している可能性があるわけです。調査会社の統計によると、1秒ページの表示が遅くなるごとに、13%のPV、7%のコンバージョンが減ると言われています。そういう観点からすると、パフォーマンスをあげることは非常に重要なことだと言えるでしょう。

――機会損失を生んでいるかもしれないわけですね。

そうです。ですが、日本のほとんどのEコマース事業者は、ページのデザインや何を売るかには執着しますが、サイトのパフォーマンスそのものに関してはあまり注意を払っていません。SEO対策でコンサル会社にお金を払ったり、自分でやってみたりして、検索エンジンで上位に行くことはとても気にされますが、アクセスしてくるユーザーがどれぐらいのページ速度で見ることができるか、ということについてはあまり気にしていらっしゃいません。オンラインでものを買う流れを見ると、モバイルだったらキャリアの回線を通らなければならないし、その先にはデータセンターがあって、データセンターの中にはEコマース運営者のサーバーがあるわけです。こういった一連の経路を辿って最終的にモノが買えるわけですから、お客様に快適に買い物をしていただくことを考えた場合、全体を見なければいけません。回線も、データセンターの部分も、最終的なサイトのアプリケーションも、全体を通してエンドユーザーの買い物体験につながっているわけです。

――パフォーマンスはどのように計測するのでしょうか。

キーノートは現在、全世界で275拠点の計測の拠点を持っています。日本ではウェブに関してはNTTとKDDI、モバイルではソフトバンクとドコモに持っています。コンピューターの数は3000台です。パフォーマンスを計測するというと、ブラウザのアドオンなどを使われていることが多いと思いますが、そうではなく、ファイアーウォールの外から計測して、実際のお客様が体験しているパフォーマンスの表示速度を計測する、という仕組みになっています。

――他社サービスとの違いは。

当社の場合は、まず計測するのに実際の機器を使っています。また、シミュレーターではウェブキットを使っています。ウェブキットとは、昨今ほとんどのスマートフォンで使われている基本的なツール群のことで、これにより正確に、実際のユーザーと同じ環境で計測結果が出せるわけです。例えば他社の場合ですと、コンピューターにデータ通信カードなどを入れてファイアフォックスのブラウザで計っています。3G回線は使っているかもしれませんが、これだとブラウザは違いますよね。もちろん、ガラケーだとさらに違ってしまいます。そういう部分で正確性がまったく異なります。


継続して計り続けることが重要

――日本のEC事業者はパフォーマンスについての意識が低いのでしょうか。

それは、各国の計測記録をもとに説明しましょう。私どもでは、各国の売り上げトップ4の、モバイルサイトを持っている企業のパフォーマンスを計測したインデックスを持っています。イギリスやデンマーク、アメリカ、ストックホルム、東京などをピックアップしており、日本はアマゾン、ベルメゾン(千趣会)、ニッセン、楽天などのスマートフォンサイトで計測しています。日本は東京で、一番人気のあるiPhoneで計測しています。
これによると、例えば2011年7月の記録ですと、非常に速いところはドイツのサイトで、スマートフォンでアクセスして4秒でページが出ています。日本のアマゾンはどうかというと、アメリカのアマゾンより少々遅く、7秒かかっていますね。楽天を見てみると、そこから一気に10秒ダウンしています。ニッセンはもっと遅く、22秒。ベルメゾンは49秒かかっています。これをご覧いただけば、どれだけニッセンや千趣会がビジネスで収益を逃しているかご想像つくと思います。こういった情報はキーノートを使い、実際の端末を使って計測しない限りは分かりません。また、我々は単純にデータを提供するだけではなく、データを通してどこに問題があるかを見極めてお客様のビジネスがより発展するようにお助けしています。

――データを渡すだけではなく、コンサルのようなこともされるわけですね。

そうです。

――例えば、自分のiPhoneを使って個人が手作業で計測するのとどれほどの違いがあるのでしょう。

まったく違います。手作業ですと、まずヒューマンエラーが発生します。そして、例えば複数人が並んで計測しても、人によって操作のスピードは違いますよね。統計としてデータを取る場合、正確性というのは非常に重要なのです。大事なのはリピートで、継続して計り続けることが大事なのです。そういう理由で、以前は手作業で計っていたお客様も、キーノートに移行されることが多いです。


大事なのは全体最適化でバランスを取ることだ

来年はスマホ閲覧が爆発的に増える

――日本に本格的に進出されるのはいつごろからなのでしょうか。

それはもう、今この時点からです(笑)。ただ、来年が日本にとって非常に重要な年だと考えています。来年にはデスクトップとノートPCを合わせた数よりも、スマートフォンでのウェブの閲覧が増えると予想されています。現在も、モバイルで買い物をするお客様は多いですが、来年にはもっと爆発的に増えるでしょう。
キーノートシステムが創業した1995年当時は、ネットもコンテンツはそれほどリッチではありませんでした。デバイスもPCだけでしたし、有線LANで繋げていました。で、現在の日本の状況を見てみると、まずネットワークは大丈夫。商売の範囲は、楽天など一部を除きほとんどのお客様は国内のみで商売されています。ただ、そこには問題がないとしても、お客様がアクセスしてくる環境はデバイスも通信方式も非常に多様性に富んでしまっていますよね。今はそれらについても考えないといけません。

――では、今後はよりスマートフォンに注力していくのですか。

キーノートとしては、スマートフォンもPCも両方に注力していくつもりです。最近、いろいろな事業者がPC用のサイトとスマートフォン用のサイト、それぞれ分けて立ち上げられていますので、両方とも大事だと思っています。キーノートの場合は、インターネット経由と3G回線経由のパフォーマンスを一覧表示することができます。例えば、自分のサイトには問題がないけど、3G回線はどうだろう、とか、インターネットは駄目で、サーバー側に問題があるな、などを発見することができるのです。


世界展開にこそ需要がある

――日本ではどれぐらいのシェアを獲得できると見ていますか。

パフォーマンス計測はヨーロッパやアメリカではデフォルトのサービスで、統計データから何をしなければならないのか分析する重要性をお客様は分かっているので、そういうノウハウを日本でもぜひ普及させたいと考えています。キーノートの計測分野のマーケットシェアはナンバーワンで、全世界で2800社ほどお客様がいます。日本ではまだ100社に達していませんが、計測の重要性は日本においても変わらないと考えています。
昨今、ユニクロも楽天も海外展開を積極的に図られています。日本の商品を求める海外のお客様相手に商売をして収益を上げていこう、というのが今後の流れだと思いますが、それをやるためには、海外のお客様に対して素早くページを表示させて快適にお買い物をしていただかなければなりません。そこにこそキーノートの需要があると考えています。世界展開していこう、と決めたとき、例えばアメリカのお客様ならAT&Tとかベライゾンとか、アメリカの端末からアクセスしてくるわけですね。そうなったらドコモの端末でどうとか言っている場合ではありません。全世界でどういう端末が使われていて、それで計ったらどうなのか、その部分に注力して品質を確保する必要があるのではないでしょうか。

――海外展開される事業者がメーンのターゲットになるのでしょうか。

海外展開される方もされない方も、両方です。なぜかというと、スマートフォンのサイト作りでまだベストプラクティスが出来上がっていないからです。実際に計測していないので、スマートフォンのパフォーマンスがどうなのか、そこを事業者の方々はご存知ありません。意外と遅いということを知らないのです。だからまずはその部分で役に立てるのではと考えています。

――想定しているターゲットは。

業種としては、Eコマースや金融、ポータルなどをターゲットにしております。エンタープライズ系だけではなく、オンラインゲームや動画配信などもアクセス数は非常に多いので、そういった業種の方々の役にも立てると考えています。ですが、Eコマースこそ当社の大事な顧客層であると認識しております。事業者の規模に関しては、すべてのウェブサイトを持つお客様がターゲットになり得ると思っています。


日本の通販サイトは総花的だ

――日本のEコマース市場についてはどういう感想をお持ちになりましたか。

日本のEコマース市場は海外の市場となんら変わりがないと考えています。サイトの感想ですが、世界的な傾向と比較して言いますと、日本のEコマースサイトは非常に総花的で、コンテンツがたくさん盛り込んであり、ページが下にどんどん伸びていくので重く、そしてとても凝っています。日本のEコマースサイトは、そこを改善する必要があると見ています。

――では、どういったサイトが良いサイトなのでしょう。

世界的な傾向で見た場合、どういうサイトが良いサイトかというと、ページが短いサイトです。1ページの中にいろいろ盛り込むのではなく、このページにはこの商品、という見せ方をするわけですね。だからできるだけナビゲーションに注力しています。日本のサイトは、デザインには非常に注力していますが、それがユーザビリティに結びついているかというと、そうでもありません。全体最適化が大事で、バランスを取っていくことが重要だと思います。ですので、キーノートのサービスをお使いいただいて、パフォーマンスを向上させることで、何百万、何千万という売り上げをより稼ぎ出せるようになればいい。そのお役に立つことが我々のミッションだと考えています。

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