2011.03 無料公開記事      ▲TOP PAGE


返品歓迎はネット販売に定着するか!?

─ジェイド、靴の通販サイト「ロコンド」始動






コストよりCS優先、独の投資会社が出資

自宅にいながら何度でも試着でき、困ったことがあればジェイドの「オンラインスタイルコンシェルジュ」に電話かメールで相談に乗ってもらえることは、消費者にとって大きなメリットだ。ただ、サイト運営者にはその分のコストが圧しかかるはず。
ジェイドでは、想定している返品率や損益分岐点などの指標は明らかにしていないが、「相当数の返品を受けるのは覚悟している」(秋里英寿代表)とし、あくまで顧客満足を優先する構えだ。
同社には、ネット業界専門のベンチャーキャピタルが出資し、日本では少ない「返品歓迎」のビジネスモデルを資金面でバックアップしている。
同社に投資するドイツのロケット・インターネット社は、これまでにも「グルーポン」の世界展開や、ドイツで返品OKの靴の通販サイト「ザランド」などを支援しているため、ザッポス流の事業モデルには理解がある。
また、商品の支払い方法をクレジットカード払いや、コンビニ決済でも前払いとし、入金確認後に発送作業を行うことで数カ月経っても入金がなく、おまけに返品されるという事態だけは避けるようにしている。

成長のカギは“御用聞き” 、3カ年で衣料品にも着手

ジェイドは、ザッポス流の“顧客感動サービス”の事業モデルを踏襲し、ブランドバリューと顧客満足度を高めるとともに、「日本ならではの“おもてなし”をネット販売で表現する」(秋里代表)としている。
そのためのカギとなるのが「オンラインスタイルコンシェルジュ」の存在だ。コンシェルジュに課すルールを極力少なくし、自己判断で顧客満足を高めるという。1人1人に自由になる予算を与え、顧客が満足する提案ができるようにする。多額のコストが発生する場合はスーパーバイザーに相談させ、判断を仰ぐよう指導している。
コンシェルジュは、サイズなど靴の詳細だけでなく、トータルファッションアドバイスなど、顧客のどんな相談にも答えるという。
同社では、メーカーや卸から商品を買い取り、全商品を自社のスタジオで撮影する。7つの角度で画像をズームする機能も設け、商品の素材や裏地、装飾などの細部まで確認できるようにしている。
また、埼玉県三郷市に設置した物流センターで商品を保管・発送。受注した商品は即日発送し、全国の消費者に翌日か翌々日に届ける。お届け用の段ボールは、返品を前提に2重構造のものを採用し、ヤマト運輸の着払い伝票も同梱する。
まずは靴で事業基盤を構築するが、早い段階でアクセサリーや雑貨、鞄などの取り扱いを始め、3カ年の中で衣料品もスタートする計画だ。

原則「定価」で販売、卸などは歓迎ムード

ジェイドは、自社で商品を仕入れて原則“定価販売”することで、卸・メーカーから理解を得ており、「ロコンド」に商品を卸している大手婦人靴専門商社シンエイの乙守俊秀副社長は、同サイトを「靴の小売りでブレークスルーになる」と表現する。
同氏によると、ファストファッションの台頭やリーマンショックの影響もあり、国内の靴・履き物市場は減少傾向を強めている。ただ、ここにきて百貨店で落ち込んでいた革靴などの販売に復調の兆しが出てきており、「ロコンド」の立ち上がりはタイミングがよいという。
地方の消費者にとっては新しい“売り場”ができ、しかもコンシェルジュが中心となったオンラインショッピングは「エンターテイメントに発展する可能性がある」(同氏)とする。
また、価格比較されやすいネット販売で売れるのはバーゲン品が中心というが、その点、「ロコンド」は定価販売を原則としているためメーカーや卸、専門商社の受けは良いようで、同サイトには国内外の500ブランドが参加を決めている。
ジェイドでは、靴の種類もカジュアルやスポーツ、革靴、高級ゾーンまで幅広く取り扱い、今春シーズンの最盛期には3万スタイル・40万足をそろえる計画で、「ネットでも靴が売れることを証明したい」(秋里代表)とする。

“返品歓迎”で差別化、今年中にゾゾを射程に

新客獲得などの手段として送料無料施策はファッション分野でも増えており、しかも、こうしたキャンペーン期間は長期化する傾向がある。一方で、「ロコンド」のように自宅で試着してもらい、返品歓迎のビジネスモデルが、すぐに日本のネット販売市場で“当たり前のサービス”になることは考えにくいが、だからこそ「返品歓迎」を他社との差別化ポイントとして前面に打ち出せる。
衣料品のネット販売で急成長を続けるスタートトゥデイでは原則、返品は受け付けておらず、いまのところ「返品OKとした場合、返品しない顧客にもどこかでコスト負担を強いることになる」という判断をしているようだ。
昨今、丸井が実店舗を活用してネットで注文した商品を実際に試着できる施設を作り、通販利用者の拡大につなげているが、これは有店舗ならではの強みで、ネット専業にはなかなか真似できない。
ジェイドは今年の目標として、「自社で在庫を持つファッションECリテイラーでトップの座を目指す」(同)としており、スタートトゥデイが運営する「ZOZOTOWN(ゾゾタウン)」などに照準を当てた高い目標を設定しているようだ。
いずれにせよ、“顧客感動サービス”を旗印に本格スタートしたばかりの「ロコンド」がネット販売市場で“台風の目”となるのか、業界の注目が集まりそうだ。


▲TOP PAGE ▲UP