2010.12 無料公開記事      ▲TOP PAGE


出版社の“通販ニーズ”を形にする

博報堂DYメディアパートナーズ 出版事業推進部部長 半田勝彦氏




近年、急激に活発化し始めた“出版社の通販”。そこには、雑誌の実売数の落ち込みなどで従来の「広告・実売」という収益モデルが崩れたため、“新たな収益源”として定着させたい思惑がある。ただ、有力なコンテンツと一定の読者を既に確保しているなどのアドバンテージはあるものの、ノウハウのない通販に足を踏み入れるのは相応のリスクも付きまとう。出版社の強みを活かした「ローリスク」な通販モデルとは何か。博報堂DYメディアパートナーズの半田部長に話を聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)


我々は雑誌の “特性”を知っている

出版社は多角的にビジネスができる

――まず、サービス開始の狙いを教えてください。

雑誌は実売と広告が二大収入源ですが、今は下降気味です。そこで、違う売り上げ――我々はそれを『新収益』と呼んでいるのですが、それを出版社さんと一緒に作るやり方を模索したことが発端ですね。我々はこれを『出版360度モデル』と呼んでいます。要するに、これまでのように広告と実売だけではなく、全方位にわたってビジネスをする、ということですね。出版社はコンテンツホルダーなので、多角的にビジネスができます。で、その中のひとつに通販事業があるという考え方です。
現在、ネット販売はマーケットも拡大しており、百貨店などが苦戦する中でも順調に伸びていますので、そこへ乗り出せないか、と考えて生まれたのがこの「TAKARA‐BACO」です。

――どういうサービスなのですか。

出版社に「ECをやりたい」というニーズがあるのは知っていましたが、これまではシステム投資が負担になっていました。倉庫を借りる必要もありますし、人もお金も非常に負担になるので、なかなか気軽に乗り出すのは難しいですよね。それならば、こちらでサイト構築やコールセンターなどのカスタマーサポート、物流までフルフィルメントを全部用意しますよ、と。メーカーとの商品の仕入れ交渉も請け負います。編集部側で「これを売りたい」というリストをアップしていただければ、あとは我々が担当します。これらを無償で使っていただき、その代わり、物販の利益からレベニューシェアさせていただく、というサービスフレームです。出版社にとっては初期投資なしでECを開始できるのが大きなメリットだと思います。

――サイトの見せ方などにも関与しているのですか。

基本的には、すべて我々がプロデュースするという方針です。どういう商品をプッシュするべきか、などまで編集部と話し合いながら進めます。見せ方は、通販ページが切り離されるよりも、特集と連動するなどコンテキストが合っているほうがいいですね。「編集部セレクト」のような見せ方もアリでしょう。いずれにせよ、ストーリーがあるほうが読者の購買意欲も高くなりますから、編集の一環として作る、という姿勢でやることが大事だと思います。

――カスタマーサポートなどの部分は例えばコールセンターを御社で用意するのですか。

「TAKARA-BACO」にはパートナー企業がいるので、そこに委託する形で展開しています。物流面は、やはり「TAKARA−BACO」パートナーの別の企業にお願いしています。消化仕入れが基本なので、受注が入ったら発送する形ですね。商品によっては限定品などで買取りになるケースもありますが、そうした場合は編集部と相談しながら進めていく形になります。

――受託からサイト開設までどのぐらいの時間がかかるのでしょう。

最短でおよそ3カ月ですね。実は、商品のセレクトが最も時間がかかる部分なんです。

――収入の分配比率は?

契約上言えませんが、一定の率を決めてやっています。


大事なのは部数よりも“影響力”

――これまでの実績は。

今は「Pen」や「MISS」など4誌に「TAKARA−BACO」を採用していただいています。例えば「MISS」は最近開始したのですが、雑誌が好調で広告出稿も順調なので、「これでECをやったらいけるんじゃないか」と思い、こちらから話を持ちかけさせていただきました。「TAKARA−BACO」は成果報酬型なので、売れないとビジネスになりません(笑)。なので我々としても「売れる」と思った雑誌にお声掛けさせていただいているところですね。

――やはり部数が多い雑誌の方がECをするうえではいいのでしょうか。

部数がたくさん出ているからECに向いている、というわけでもありません。部数が多いほうが確かに有利ではありますが、雑誌自体に影響力がなければやはり駄目です。逆に、たとえ少ない部数でも「モノが動く雑誌」がECには向いていると思います。

――広告代理店がこうしたサービスを展開する強み、というのはあるのでしょうか。

まず、どの雑誌がどのぐらいの影響力を持っているか、ということが、日頃の雑誌広告ビジネスの中で分かっていることでしょう。例えば、「MISS」などはいい例ですが、最近広告がどんどん入っていますし、紹介するアパレルブランドの商品もすごく売れていて、ブランドにとっても影響力のある雑誌になっています。そういうことが我々は肌感覚で分かっているので、お話を持っていきやすい、ということがありますね。
それと、雑誌を作るイロハを知っていることもポイントです。例えば誌面とサイトを連動させるうえで、誌面のスケジュールはどうなっているのか把握していなければなりません。また、誌面のキモがどこにあるのかも把握していないと駄目ですが、我々は出版社さんの考え方も日頃のお付き合いで分かっているので、普通の通販企業よりも近い部分で協力できると思います。

――スムーズな連携ができる、と。

ええ。それともう一つの強みは、このサービスと広告を連動させることでより期待に応えられることです。つまり、クライアントが広告を出しつつ商品を販売する、という形が作れるわけです。そうすると雑誌に広告を出す理由にもなりますので、我々としてもそこまで広げていきたいですね。実際、こうした動きはすでに徐々に始まっています。

――雑誌が通販をするうえで、向いている商材などはあるのでしょうか。

客単価が低いほうがモノが動きやすい、というのはありますね。それと、限定品。例えば編集部とメーカーでデザインを相談して作ってみるとか、別注のカラーを作ってみるとか。先行販売もモノが動きやすいです。

――これまで実績を作ってきた中で見えてきたことは。

売れるやり方と売れないやり方、というのが進めてきた中でだんだん分かってきましたので、今後はそこを体系的にしていき、コンサルティングできるようにノウハウを蓄積していきたいですね。


出版社は“顧客と直接やり取り する世界”を知ることが重要だ

今後は“アプリ化”で表現力を高める

――今後の戦略は。

電子出版との連動を考えています。例えば電子雑誌を読んでいてiPad上で商品をタップすると、買い物カゴに飛んでその場で買い物ができるような形です。電子書籍はダウンロード課金だけではなかなかビジネスになりづらいと思います。ECも含め、多角的な収益構造にしていかないと、今後は投資だけで重くなっていくのではないでしょうか。我々は電子書籍のソリューションも用意しているので、今後はセットで販売していきたいと思っています。

――具体的には?

テキストや写真、商品データなどを管理画面上で入れてもらうと、自動的に電子出版が生成されるサービスが基本となります。これは動画や位置情報との連携もできます。アプリケーションの開発から一緒にやっていくイメージですね。出版社の持っているコンテンツをどうプロデュースしていくかは我々の得意分野なので。

――アプリで提供していくのですか。

いろいろやり方はあると思いますが、一回の作業でマルチデバイスに落とせる仕組みを考えています。通販特集を実施した雑誌がそのまま電子化され、タップすると「TAKARA‐BACO」で構築したサイトに飛んでいく、というイメージですね。もちろん、ご要望に応じて普通のケータイやPCでも対応していくつもりです。

――実現するうえでの課題は。

例えばファッション誌の場合は権利許諾の問題がありますが、それがクリアになれば動き出せます。そうすると動画なども使えるので表現力が上がり、ユーザーの購買意欲もあがると思います。また、デジタル化すればソーシャルメディアとの連携も可能になりますので、ユーザーにツイッターで紹介してもらったり、などの連携もできるでしょう。アプリは埋もれてしまい勝ちですが、出版社は自らプロモーションができるのが大きいです。電子出版を絡めると、飛躍的にサービスの幅が広がるんですね。それら全てを「TAKARA‐BACO」の範囲でやるかは未定ですが、統合的なサービスとして提供していくつもりでいます。

――アプリ化は具体的にはいつごろ実現しそうですか。

今は単に権利許諾の問題を待っている状態ですので、そこがクリアになればいつでもできます。おそらく今年度中には整理できるはずなので、来期にはもう動き出しているでしょう。これに関しては、雑誌だけではなくテレビ番組やラジオなど、いろいろなアプリができると思っていますので、「TAKARA−BACO」でも例えば新聞と組んだらどうだろうかなど、雑誌を基点に横に広げていくつもりです。


あくまで「柱のひとつ」として

――雑誌での今年度の受託の目標はいかがでしょうか。

初年度は6〜7誌ぐらいでしょうか。今後は広げるよりも、むしろ電子出版を絡めるなどして深堀りすることに注力していくかもしれないですね。あと、雑誌以外のメディアとも組んでみたいので、新聞社と組んだ通販というのも考えているところです。早ければ今年度中には実現できるでしょう。

――出版社通販の現状についてはどう見ていますか。

出版社は、コアビジネスはやはり雑誌を売ることですので、通販が主役になるわけではないと思います。むしろ、媒体の価値が高まって本が売れる、といういい循環を作るために通販があるのではないでしょうか。我々としてもそういう認識でお手伝いできればいいなと思っています。ECが収益の柱の一つになれればいいのでは。デジタルコンテンツやサービスの販売などもいわばECだと思いますので、広い意味で、今後は収益の柱になっていくのではないでしょうか。
そして、それを行っていくことによって読者のデータが取れ、データベースが構築できます。それを分析することで、編集にフィードバックするとか、広告のセールスに使うとか、そういうことが可能になるわけです。電子商取引の先にあるデータベースビジネスが、出版社にとっては今後重要になるのではないでしょうか。 
出版社は、ある意味ではこれまで「BtoC」のビジネスをやっていなかった、とも言えます。ですから読者の実像をデータとして持ちづらかったと思います。だから直接、顧客とやり取りする世界を体験することが今後は重要になっていくでしょう。我々としても、そこをサポートさせていただき、次なるビジネスを一緒に作っていければいいと思います。

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