2010.10 無料公開記事      ▲TOP PAGE


消費者庁がネット取引の研究会を発足

――来春めどに対処策を提言






オークションやモール巡るトラブルに対処

 「インターネット消費者取引研究会」(以下、ネット研)は、今年3月に閣議決定された「消費者基本計画」に基づいて発足した。来年3月までに月1回ペースで計8回の会合を行い、審議を受けて「規制的手法」「事業者による自主規制」「消費者教育」の観点から対処策を探っていく。
 消費者庁がネット研を立ち上げた背景には、ネットインフラの整備と共に市場の参入障壁が低下し、新規参入が容易になる中で、ネットの匿名性≠竍非対面性≠ニいった特徴を悪用した事業者が増えてきたことがある。
 例えば、ネットオークションや仮想モール、ドロップシッピングにおける取引では、本来、消費者である個人が事業者に近い性格を持ち、システムの提供を行う運営事業者を含め複数の事業者が関与することから、責任の所在があいまいになり、トラブル解決の制約となっているケースもある。こうした状況に行政サイドとしても忸怩たる思いがあるようで、「一部の運営者は個別の店舗に指摘してほしい≠ニ、取り合わない事例も少なくない」(同庁政策調整課)と、打つ手がなかったのが実情だ。国民生活センターの調べによると09年度の「インターネット通販」「インターネットオークション」に関する相談件数は約14万件に達しており、年々、増加傾向にある。こうしたトラブルの対処策を練ることになる。

アジア圏でトラブル共有ネット構築か

 中でも、政策調整課の肝煎りで進められることになりそうなのが、海外の仮想モールや通販サイト、音楽配信サイトを通じたトラブルの対処策だ。
 欧州では海外サイトを通じた消費者トラブルに対し、29カ国が参加する「ECC-Net」と呼ばれる消費者トラブルの共有ネットワークを構築しており、08年度の実績で62,000件の相談件数が寄せられている。消費者庁ではネット研と並行して、すでにこうした仕組みの調査を開始。「欧米の取り組みを参考に実証実験を行えるレベルまで高められれば」(政策調整課)としており、次年度4,500万円の予算を要求している。将来的にアジア圏内でネット取引に関する消費者相談の国際ネットワークの構築を視野に入れているようだ。

法改正など具体的な方向性は皆無

 ただ、あまりに幅広い分野に審議が及ぶため、政策調整課自身、「具体的な政策提言を出さなければと考えているが、正直、結論ありきではない」と、明確な方向性を示せないでいる。ネット研の発足自体、庁内では「どのような方向性でまとめるのか考えているのか≠ニいう指摘があるのは事実」(消費者庁関係筋)としている。
 8月18日に行われた第1回会合で各委員から示された論点も「携帯電話のオンラインゲームでは課金の仕組みが各社異なることがトラブルの温床となっている」(長田三紀委員)「未成年者保護の法制度が不十分。個人情報保護の問題もある」(町村泰貴委員)など、さまざまな論点が示されている。
 特に、「決済代行業者、カード会社にも悪質な取引を行っている加盟店の監督義務がある。規制や罰則がなければ防げない」(河村真紀子委員)との発言でクローズアップされた決済代行業者の問題は、「日本のカード会社は加盟店審査を非常に厳密に行っている。海外のカード会社と契約する決済代行業者に関するトラブルが多いが、国内法の及ぶ範囲外」(島貫和久委員)と、入り口の議論で行き詰まりをみせた。
 こうしたつかみどころのないやり取りがされたことに対し政策調整課では「論点が分散する問題意識は持っている」としつつ、「2、3回目の会合まで当面はあえてテーマを絞らずフリーディスカッションを行う中で論点を詰めていきたい」(同)としている。

事務局の取り組み姿勢に疑問も

 種々雑多な意見が飛び交うネット研だが、論点が絞りきれない背景には、事務局を務める政策調整課の取り組み姿勢に原因がありそうだ。
 同課は、その名称通り、関係法令が多岐に渡ることから1省庁で対応できないすき間事案≠ヨの対応することを主な役割としている。今回のネット研でも特商法を消費者庁と共管する経済産業省、電気通信法を所管する総務省がオブザーバーとして参加しているのはそのためだ。
 また、規制法を持ちながら、トラブル拡散を放置する省庁があった際、他省庁や庁内の法執行部門に対して法執行の要請を行う権限もある。逆に言えば、特定商取引法や景品表示法、健康増進法の執行部門である「表示対策課」や「食品表示課」と性格が異なり、そもそも法改正の必要性など明確な問題意識を持っていないことが指摘される。
 当の政策調整課も「何法の何条では対応できないので改正すべき≠ニ、法令から紐解いていく手法は取り組みやすいが、それでは従来と変わらない。消費者がどのような問題に直面しているのかという視点から俯瞰的に見ながらやれることを考えていきたい」(同)としており、このことがネット研の議論を散漫なものをしている1つの要因と言えるだろう。

法規制強化には慎重に対応

 ただこの会合、結論として規制的な手法が導き出される可能性は低そうだ。
 第1回会合においても委員から「特商法による規制は行き着くところまで来ている。あとは執行力を高めるのみ」(岡村久道委員)「ネット取引の発展は消費者利益につながる」(関聡司委員)、「規制一辺倒ではいけない」(町村委員)と、無用な規制をけん制する指摘する声が出ているほか、政策調整課も本紙取材に対し「規制を念頭に置いたものではないことははっきり示してほしい。理念が先行しているが消費者問題を類型化して整理し、自主規制でどこまで行えるのか、もしくは規制的手法が必要なのか均衡点を探りたい」と念を押しているためだ。
 一方、事業者による自主規制を推進する上でも課題は多い。ネット市場にはいまだに発言力や加盟企業に一定の拘束力を持つ業界団体は存在しておらず、今年2月、ヤフーや楽天が中心となって立ち上げた「eビジネス推進連合会」も目立った活動は見られない。ネット研でもヤフーと楽天は個別に参加要請されており、業界団体の体を成しているとはいえないだろう。政策調整課では「ルール遵守の姿勢をサイトなどで示すことは差別化につながるため、自主規制という手法も有効に働くはず」とするが、中小事業者のコスト負担を考えれば、容易に自主的な取り組みの実効性が上がるとは考えにくい。1つの事案をとっても複数回に渡る議論を必要とする案件ばかりであるのは明らかであり、来春までに一定の結論を見出すことができるか当面は不透明な状況が続くことになりそうだ。

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