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上流にアプローチし"物流"を作る

青 浩司 NEXDG 代表取締役社長




物流大手の日本通運とネット関連事業を手掛けるデジタルガレージの合弁会社でネット販売支援事業を行うNEXDG(ネックスディージー)が6月1日に設立された。日通およびDGの強みを活かし、ネット販売企業にどのようなサービスを提供していくのか、日通営業部課長から社長に就いた青浩司氏に、話を聞いた。(聞き手は本誌・後藤浩)


顧客企業の悩みに着目したサービス

――日本通運(以下、日通)とデジタルガレージ(同、DG)の合弁で設立しました。本格的なサービスの展開は10月からですが、現在の状況をお聞かせください。
 
「電子店長」というサービス名が決まり、現在システムの構築を進めながら、営業活動を進めているところです。「電子店長」では、通販を行う企業が抱えている様々な課題に着目し、その解消につながるサービスを構築しています。

――ネット販売を行っている企業が抱える悩みとは。

 例えば、BtoBの事業者が新規事業としてネット販売を始めようとした際、どこから手をつければいいのか分からないというのもそのひとつ。また、既にネット販売を行っている事業者でも、サイト来訪者数が伸びない、あるいは自社サイトや仮想モールへの出店など複数のサイトを運営していてサイト上の理論在庫と実在庫の調整業務に忙殺されているといったこともあります。そうした課題に対して、日通とDGが持つ強みを融合し、マーケティングから物流、決済までのサービスを提供していこうと考えています。当社の事業ドメインは、ネット販売の支援システムをASPで提供することですが、ただフルフィルメントで、物流代行や決済代行なども対応して欲しいという要望があれば、必要な機能を提供することもできる。事業者の悩みは、それぞれ異なりますから、フルラインでなければサービスを利用できないという形ではなく、機能ごとにバラ売りで提供できるようにするつもりです。

――具体的なサービスのイメージ、特徴を教えて下さい。

ネット販売を行う企業は上流のフロント部分でいかに集客力を高めるかということを考えています。この部分はDGが得意とする分野ですので、DGと連携しSEOやSEMといったサービスを提供していく。また、マーケティングツールとして注目されている「ツイッター」の機能も標準装備する予定です。既に「ツイッター」連携をしているサービスは幾つかありますが、当社では「ツイッター」の本家本元とも言えるDGから、優先的にサービスを提供してもらうことも考えている。そうなれば、文字通り1to1をキーワードにしたマーケティング支援もできるわけです。これは当社の強みですし、事業者にとっても大きなメリットになるはずです。

――物流の部分については。

サイトを複数運営している場合の在庫管に対応したサービスがひとつポイントになりますね。従来のサービスは、フロント部分とバックヤード部分のデータ連携に課題がありましたが、「電子店長」では、双方のデータ連携をシームレスな形にし、現場の実在庫とネット上の理論在庫を特定の時間に同期化を図る仕組みを提供していく予定です。基本的には、物流のアウトソースの受け口として日通のインフラを提供していくという形になります。実際、日通では、スポットで明日からキャンペーンをやるという場合でも対応できるツールがたくさんありますし、海外から日本に入ってくる個人輸入のネット販売支援サービス「アットホームエキスプレス」を展開している。既に欧米からの商品に対応できる体制はできていますので、海外向けのサービス展開をしやすいというのも特徴のひとつと言えるでしょう。

――決済の部分は。

日通には日通キャピタル、デジタルガレージにもイーコンテクストカンパニーという決済を手掛けるグループ企業がありますが、「電子店長」では、両社の決済メニューを足し合わせ、顧客企業が必要とするものを提供できる環境を整備していこうと考えています。

――企業側からすると利用料金も気になるところですが。

利用料金の詳細は、まだ固まっていませんが、顧客企業の発展に合わせてコストを変動費化できるよう、月数万円のASPの基本利用料金と従量課金を組み合わせた形にしようと思っています。


ターゲット3000社にアプローチ

――サービスを利用する企業に対するフォローも重要になってきますね。
 
サービスを売りっぱなしにするのではなく、操作説明会やサイトへの誘導策の勉強会のようなものを開催していくつもりです。実は、NEXDGの本社を恵比寿(東京都渋谷区)に置いたのも、そうした展開を考えてのことです。また、DGではセミナーや勉強会を頻繁に行っており、そこで当社のサービスを紹介する、あるいはセミナーに参加した事業者さんを当社にお呼びして商談をするといった相乗効果も図れるでしょう。

――「ツイッター」はマーケティングツールとして注目されていますが、まだ活用方法が分からない事業者も多いと思います。この部分の対応は。
 
DGと連携しながら対応していくことになると思います。DGでツイッターの使い方事例のようなものをまとめているシーンも見ましたので、そうしたものを共有させてもらいたいですね。

――日通でも、「DMF」というフルフィルメントサービスを展開しています。NEXDGが提供するサービスとの違い、関係はどのようになるのでしょう。
 
「DMF」は、顧客企業の要望を受けてから色々な機能を組み上げていくという、いわば注文住宅のようなサービスです。ただ、ネット販売を始めようと考えている顧客企業は、すぐにでもサイトを立ち上げたいという要望が強く、標準的なパッケージが必要となっていました。これは日通が提供するサービスのひとつの盲点になっていたのですが、NEXDGでレディメイド型のサービス作り、対応していくという形になります。当社が日通にサービスを納品し、「DMF」のブランドで顧客企業に提供するというOEM的な展開も出てくのではないかと思います。

――そうすると、営業活動も日通と連携していくのですか。

 手法は幾つかあると思いますが、既に日通には顧客企業があり、実際に日通からの紹介もあります。BtoBのビジネスをされてきた事業者が、トップダウンでBtoCのネット販売を検討するという傾向があり、サイトの構築や物流、代金回収の方法が分からないため、日通の本社営業に相談するというケースが増えています。そこから当社のサービスに誘導するという流れができつつあり、実際、6月の会社設立前後の数週間で数十社から話がきています。

――ターゲットとなる企業は。

当社のサービスに一番ヒットするのは、サイトを複数運営し物流は内製化している企業だと考えています。複数のサイトを運営している事業者の場合、受注情報の管理や在庫管理に振り回されるという実態があり、営業のアプローチも、そうした企業がメーンになります。実際、サイトを複数展開し日通の顧客データベースにない企業を3000社程度ピックアップしてアプローチしているのですが、企業の話を聞くと、サービスを導入したいというところが多い。このほかに仮想モールを卒業して、すぐにでも自分のサイトを作りたいと考えている企業がターゲットになりますね。

――サイト立ち上げまでの期間はどのくらいになるのでしょう。
 
システムの設定やカードの審査などフルフィルメント部分のサービスを考えると、恐らく1カ月半から2カ月くらいになると思いますが、機能を単品で利用する場合にはリードタイムがもっと短くなります。

顧客企業の視点は上流に向いていた

――日通が物流関連以外の企業と提携して合弁会社を作るのは非常に珍しいケースだとお聞きしましたが、DGとの提携に至った経緯は。
 
確かに日通としては珍しいケースです。周囲の印象としても日通は歴史が長く安定感がある会社、DGは歴史が浅く革新的な会社。その意味では、本来、混ざり合うことのない企業同士だと思われるかも知れません。ただ、実際には、お互い決済ビジネスを手掛けるグループ会社があり、そこで勉強会を行うなど間接的に接点があった。まず、これが日通とDGが提携に至ったひとつのきっかけですね。両社が組むことで、お互いに不足していた部分を補完でき、従来にはないサービスを提供できるというメリットがあるわけですが、日通側としては、従来主戦場としていたビジネス分野から、さらに上流の部分にアプローチできることが大きいですね。

――というと。

日通では、ネット販売企業向けに在庫管理や出荷・配送、決済、回収などを得意分野にしてサービスを提供してきました。いわばバリューチェーンの特定の部分に焦点を当ててビジネスをしてきたわけです。ただ、サービスを提供していくなかで、顧客企業の視点がもっと上流の部分にあるということが分かってきた。つまり、マーケティングなどに顧客の視点が向いていたわけです。ただ、日通単独で、その中に入り込むことは難しい。そこで上流の分野を得意とする企業と組めば何かできるのではないかと考えていた時に、決済関連のグループ会社を通じ間接的な接点があったDGが非常に魅力的なサービスを行っていたわけです。

――「ペリカン便」事業がJPエクスプレスに移管されたことも、DGと連携する背景にあったのでしょうか。
 
「ペリカン便」云々というよりも、全般的な傾向としてモノが動かなくなっていたということがあります。今まではモノをつくってから、輸送や保管など多段階の物流が発生していたのですが、ITが発展しネットで商品を安く購入できるという状況が進むなかで、従来日通が手掛けてきたビジネスがどんどん中抜きされていたわけです。NEXDGとしては、ネット販売をやりたいと思っている企業のビジネスの拡大につながるサービスを提供し、市場に貢献していきたいと考えています。それによって、物流が発生するような流れを作り出すことができれば、親会社である日通の活性化にも寄与するはずです。

――親会社である日通の今後の事業展開を考える上でも、NEXDGが果たす役割は大きいですね。
 
私自身、日通という会社の将来というものに危機感を持っていて、色々なことにチャレンジしなければならないと考えていました。ビジネススクールに通っていた際にも、同期と話をしていると、大企業で色々なことにチャレンジをしているところが沢山あった。一方で、若い頃からベンチャーで社長業をしている人もいました。大企業は、営業や経理、人事など色々なパートの組織で成り立ち、社員もそのパートの中だけで定年までやっていける。それが大企業のいいところです。ただ、今のように将来が不透明で経済が停滞している時期には、それは非常に危険なことだと考えています。ネットの分野では、まだ経営の素人のようなものですが、日通の組織に揺らぎを与えるためにもNEXDGで色々なことにチャレンジし、ネット販売を企業の事業拡大に貢献していきたいと考えています。
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