2010.1 無料公開記事 | ▲TOP PAGE |
正社員を募集する楽天店舗をバックアップ 楽天が今年8月に行った「楽天市場」店舗向けの求人に関するアンケート調査では、回答した1008店舗のうち、「正社員を採用したい」とした企業が55%に上り、景気低迷下でもネット販売市場では人材採用に対するニーズが高いことが分かったという。 現在、「楽天市場」の出店店舗は3万店を超えるが、多くの店舗が従業員10人以下で運営しており、人材不足が売り上げ拡大に向けた阻害要因のひとつとなることも少なくない。 とくに、地方のネット販売企業では人材を募集しても求職者が集まらないケースがあり、一企業では採用できなくても、楽天の知名度で人材を確保しやすいのが新サービスの強みと説明している。 こうした全国の中小店舗に対して即戦力となる人材を紹介し、労働力の需給ギャップを埋めることで、各店舗ひいては「楽天市場」全体の活性化につなげたい意向だ。 ポイントは、やはりネット販売に特化したマッチングサービスに絞ってスタートしたことで、複数の業種業態の企業を一元的に紹介するサービスに比べ、ネット販売ならではの知識や経験をもった人材を店舗側が採用しやすいのが特徴となる。一方の求職者にとっても、ネット販売企業への就職・転職活動を効率的に行えるという点で、利便性はありそうだ。 求職者にはスキル育成プログラムを提供へ ただし、ネット販売に特化した人材紹介といっても、職種は多義にわたる。「楽天仕事紹介」の専用ページを見ても、募集職種はウェブ制作やシステム開発・運用といった高いITのスキルが必要なものから、マーケティングや顧客対応、物流・配送、商品調達・MDなどさまざま。 一方で、ネット販売業界には、必要なスキルや経験が浅い就労者も少なくない。このため、楽天ではネット販売に関連する知識や技能を学べる場として、出店店舗限定の教育機関「楽天大学」を設けているが、そのノウハウを求職者のスキルアップの教育プログラムとして2010年から活用する計画。教育を通じて質の高い人材を確保し、企業と求職者間のマッチング精度を高めるのに役立てたい考えだ。 登録者数と求人件数の需給バランスは? 楽天が始めた今回の事業は、求職者は楽天会員、運営主体が楽天仕事紹介、人材募集企業は「楽天市場」の出店企業で、すべてが楽天グループおよびその会員という"囲い込み"の構図で成り立っている。 しかし、サービスのベースとなる求職者の確保について、現状では楽天グループ会員へのメール配信などによる告知に限られており、実際にどれくらいの登録者を集められるかは未知数と言わざるを得ない。 一般的に離職者が少ないとされる時期にサービスを開始したことや、出店店舗にサービス開始のアナウンスもしていないようで、12月中旬時点では人材募集の件数も極めて少ない。今後、登録件数の拡大はもちろん、求人件数と求職者数との"需給バランス"がビジネスの成功を占うカギとなることは間違いなさそうだ。 今回の新事業について、店舗側では「システムの"汎用性"で楽天の出店店舗は拡大してきた。一部の専門職を除けば、楽天のグループ会員から人材を採用する理由はないのでは」との声も聞かれる。 楽天では08年5月、「楽天市場」の出店企業向けに「楽天物流サービス」を開始するなど、店舗の売り上げ拡大を側面から支援する事業を相次いで展開している。ただし、物流支援サービスについては自社で倉庫などは持たず、物流企業と提携してそのアセットなどをベースに展開しているのが現状とみられる。 今回の人材紹介事業は、楽天流の企業買収や事業提携の形をとらず、新会社を一から立ち上げてスタートしている。まずはネット販売専門の人材紹介事業で実績を積み上げ、その後は旅行サイトの「楽天トラベル」や、ゴルフ場の予約サイト「楽天GORA」の顧客企業向けにも水平展開して規模拡大を図る構想だけに、「第1フェーズでつまずくわけにはいかない」というのが本音だろう。楽天の新事業への注目度は高く、展開によっては他の人材紹介会社を巻き込む可能性を指摘する声もあるだけに、今後の動向に注目していきたい。【編集部・神崎郁夫】
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