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ECナビが携帯電話事業に参入

──独自携帯は「顧客囲い込み」に使えるか?






価格比較サイトを運営するECナビが携帯電話事業に乗り出す。09年8月3日から独自の携帯電話端末を用意。価格比較サイトの登録会員向けにネット販売する。契約者には通話料など月間利用額に応じて、複数の通販サイトでの決済などに使える独自ポイント「ECナビポイント」を最大10%付与する。独自携帯電話に実装した専用アプリなどを通じて、利用者に対し独自ポイントの利用や流通を促進。既存事業の拡大に加え、将来的にはポイントで購入可能なデジタルコンテンツ販売に乗り出すことなどを計画する。
日常的に利用する携帯電話に自由な形で自社サービスを乗せられ、利用者に接触。自社サービスの利用を促せるというECナビのこの試み。パソコンなどに挿し、ネット利用などをできるようにする「データカード」ではよくある話だが、「携帯電話」を用いたのはあまり例がない。
ECナビによれば、キャリアからインフラを借りる形で「加入者は端末販売ベースで1〜2万人で儲けが出る」としており、参入リスクもさほど高くないらしい。であれば、ECナビと同じように一定の会員を持つ通販事業者にとっても顧客囲い込みやモバイル通販拡大策としても機能しそう。
とは言え、この不況下で4〜5万円はする携帯電話を購入させるのは難しそう。高い携帯電話の代金を支払ってもあまりあるメリットを、しかも利用者が納得する形で提示できなければ、せっかくの目論見も徒労に終わる可能性がある。今回のECナビの試みは通販実施事業者がそのあたりを見極める格好の試金石となりそうだ。

MVNOで参入
ECナビが開始する携帯電話サービスは「ECナビケータイ」。MVNO(仮想移動通信事業者)事業を支援するインフォニックスと連携。同社がKDDIや沖縄セルラーの回線を借り、そのプラットフォームをECナビが利用する方式で携帯電話事業に参入する。料金プランはauに準拠する。
ECナビは「ECナビ」のロゴが入った独自携帯電話端末を用意。運営する価格比較サイト「ECナビ」の会員(約250万人)向けに専用サイトで8月3日からネット販売する。サービス利用者には端末購入時に最大で5万ポイント(5000円分)と携帯電話の月額料金に応じて、最大10%(※8月末までの加入者に2年間。通常は3〜6%)の「ECナビポイント」を付与。子会社でポイント交換サービスを行うPEXを介し、複数の通販サイトでの支払いや電子マネー、現金などに使用・交換できる。携帯電話事業の収益は携帯電話端末や月額利用料金を同社とインフォニックス、KDDIなどでシェアする仕組み。ECナビはこの収益の一部をポイントの原資とする。

通販企業の参入の試金石に
携帯電話事業参入の狙いについて宇佐美社長は「携帯電話事業により、毎月定期的に収益を得られる」として安定的な収益が確保を最大の目的に挙げる。また、携帯電話に実装した専用アプリ「ECナビアプリ」経由でのECナビに関する情報提供による独自ポイントの流通拡大や今後開始する電子書籍や動画などのデジタルコンテンツ販売の基盤として活用する計画で派生する新たな収益源の獲得を進める。今後、2012年までに契約台数10万台を目指すという。
今回、ECナビが始めたMVNO方式による携帯電話事業の参入は今後、通販企業など一定の会員を持つ事業者にとって、顧客囲い込みやモバイル通販事業拡大の1つのツールとして期待できそうだ。ECナビの場合、サービス主体は同社だが、実際の事業主体はインフォニクスであり、ECナビ単体の同事業における損益分岐点は販売台数ベースで1〜2万台程度。「参入へのリスクは低い」(宇佐美社長)という。
あとは高額な携帯電話を購入する代償として、ECナビが提案する「ポイント付与」がどこまで利用者に響くかどうかだ。確かに「ECナビケータイ」の携帯電話の利用料金に応じたポイントバックは通常の携帯電話キャリアよりも著しく高い。とは言え、現在、使用している携帯電話から乗り換え、4〜5万円はする最新機種を購入してまで「ECナビケータイ」に加入する利用者はどこまでいるのか。ましてや販売や告知はネット上のみだ。
顧客の囲い込み手段やモバイル通販の拡大のために、ECナビと同じように携帯電話事業に今後、参入しようという通販実施企業はこうした部分が成功のポイントとなりそうだ。そういった観点からECナビの携帯電話事業の今後を注視する必要がありようだ。【編集部・鹿野利幸】


ECナビの携帯電話事業に関する記者と宇佐美社長の一問一答

ユーザーから直接、課金できる安定的な収益を

Q:携帯電話事業開始の狙いは。
A:今まではネット広告を中心に事業を進めてきたが、昨今の不況でユーザーから直接、課金していくビジネスが今後の成長戦略として必要だと考え参入を決めた。ポイント還元だけならば、今回のスキームでなくとも可能だが今後の事業展開でポイントを使ってデジタルコンテンツを購入できる仕組みなどをやろうと考えている。
Q:ECナビに誘導する専用アプリのアクセス方法は。
A:当初の段階は「ブリューアプリ」を使ったアプリだ。購入時に「ECナビケータイアプリ」をダウンロードしてセットしてもらい、その後、アプリ一覧から起動して頂くという形。今後、アプリをキーにサービスを使って頂けるようなコンテンツとサービスの提供、キャンペーン等を打っていこうと考えている。
Q:損益分岐点は。
A:今回のビジネススキームはインフォニクスの「セレクトモバイル」というプラットフォームを利用して、ECナビ、インフォニクス、KDDI(沖縄セルラー)の3社で役割を分担した。ECナビはブランドコントロールやコンテンツの企画運営、端末の販売促進など。インフォニクスは実際の通信事業の設計や運営、情報通信システム、問い合わせ、申し込み対応、端末の販売などをやる。KDDIが携帯電話のインフラを提供していくという形だ。収益構造は売り上げを3社でシェアする。我々としては今回、かなりローリスクな形でやらせてもらっている。ECナビ単体で考えると、1万台から2万台程度が損益分岐点だ。とは言え、それだけで終わらせなくない。2012年に10万台を目標として進める。
Q:契約台数10万台の達成時での売上イメージは。
A:全体では端末の金額×販売台数と契約数×月額使用料金になる。我々単体の詳細は言えない。
Q:10万台達成のための拡販策は。例えば、ネット販売だけでなくリアルでも販売する予定などは。
A:このサービスはECナビの会員向けサービスなので、オンラインのみでの告知がメーン。ただ、我々が発行しているEクレジットカードを利用頂いている会員には、毎月の請求書の中で告知などもできると考えている。販売は基本的にはネット販売のみでやっていく。
(2009年7月3日開催の記者会見での一問一答より)




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