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百貨店系アパレルの通販参入相次ぐ

──通販市場に照準、コア事業に育成




百貨店を中心に店舗を構えるアパレル企業が通販に本腰を入れている。実店舗の拡大路線で培ってきた「知名度」と「商品力」を武器に、この数年間に相次いで通販サイトを開設。展開するブランドごとの公式ホームページとリンクさせるなど既存インフラを活用して通販サイトに誘導しており、一定の売り上げに達する企業も出てきた。 大手アパレルの直営通販サイトは、ワールドやサンエー・インターナショナルが他社に先駆けて開設。その後、三陽商会やナルミヤ・インターナショナルなどが相次いでスタートし、今年に入ってからもイトキンなどが本格展開し、8月にはブルックスブラザーズもネット販売を開始する。 こうした動きは、大型百貨店の経営統合や店舗閉鎖によって、実店舗の多くを百貨店に依存するアパレル企業の売り場≠ェ削られているからに他ならない。そのうえ、アパレルEC専業企業は売り上げを伸ばしており、その背景にあるネットで衣料品を購入する消費者の増加もアパレル各社の直営サイト開設を後押ししている。複数企業のブランドが並ぶ専業企業のサイトに比べ、直営サイトは自社ブランドの世界観を自由に表現できる。また、コーポレートサイトやブランドのHPとリンクしやすく、通販サイトへの誘導を図れるのが専業サイトにはない強みだ。 実際に、直営サイトへの導線はブランドのHPや店舗で配布する商品カタログに付けたQRコード、全国で開催するファミリーセールでのチラシ配布など「既存の発行物やイベントからの集客に成功している」(サンエー・インターナショナル)ケースが多いようだ。


実店舗の接客を意識

ネット販売で成果を出しているのが、06年に「セレクソニック」を本格オープンしたサンエー・インターナショナルだ。開設当初は09年8月期に10億円を目標としていたが、08年8月期に13億円強を売り上げ、計画を1年前倒しでクリア。今期も09年2月中間期で前年同期比80%増の9億4200万円と好調を維持している。
売り上げ拡大の要因は、主力ブランドのHPから通販サイトの購入ページに直接飛べるようにしたことで、訪問者数、PVともに大幅伸長したという。また、実店舗の元販売員が中心となって商品のコメントを付けたり、ネット会員とのメールのやりとりをするなど、「実店舗の接客に近づけたことが好調を下支えしている」(同社)と分析する。
同社では、今年3月に高価格帯のインポートブランドだけを集めた「インターナショナル・セレクソニック」を別サイトでオープン。「セレクソニック」をモール型、「インターナショナル・セレクソニック」を路面店型と位置付け、ブランドイメージや世界感を明確に訴求することで、固定ファンの継続購買率も高まっているとしている。
08年9月に開設したナルミヤ・インターナショナルもネット販売が好調。2010年1月期に5億円を計画するが、「6億〜7億円を狙える状況」(同社)としており、子供服の通販サイトながら総合アパレルの手本にもなりそうだ。
同社では、主力ブランドの商品カタログで通販サイトとの連動ページを組み、QRコードでサイト誘導を図るほか、小・中学生向けのファッション雑誌とのコラボ商品の投入も好評のようで、「狙い通りセール品以外の閲覧数、売り上げも順調に伸びている」(同)。
イトキンは今年2月にスタートしたネット販売が軌道に乗ってきた。5月に立ち上げたアウトレットコーナーが好調で新年度の4カ月間(2〜5月)で販売計画を上回った。同社によると、実店舗でこうした企画を設ける場合、約2カ月の準備期間を要するが、商品集めを短期間で行い、企画立案から2週間でコーナーを開設したことが奏功。夏のセールを控えて予想以上の販促効果を得たとする。
今年8月以降、従来のレディース衣料に加えてメンズや雑貨、アクセサリーブランドも通販サイトに投入し、2010年1月期の通販売上高は1億円、3年後は6億円以上を計画する。
ブルックスブラザーズジャパンは、8月中旬をめどにネット販売を開始する。通販マインドの高い顧客を取り込むことで初年度(2010年7月期)から4億円の売り上げを計画している。
同社によると、これまで日本人顧客は先行してネット販売を手掛ける米国本社のサイトを利用して購入するケースが多く、これだけでも年間約1億円の売り上げがあるようだ。
日本の通販サイトでは、主力のドレスシャツやネクタイを中心にポロシャツ、ブレザーなどを取り扱う予定で、開設時は約400アイテム(SKU)でスタートし、秋冬シーズンには800アイテムまで拡充させるとしている。

価格訴求型ブランドも展開

アパレル大手にとって、ファストファションの台頭に代表される消費者の低価格志向への対応は課題のひとつだ。通販サイトではセールやアウトレットなど値ごろ感を出した商品展開は各社とも好調のようだが、セール時期以外の売り上げ確保が必要だ。ナルミヤ・インターナショナルは今年3月からネット限定商品を販売しているが、新たに小中学生向けの価格訴求型ブランドを開発。百貨店店頭に加えて9月から通販サイトにも投入する。新ブランドは同社が百貨店や通販サイトで展開する他のブランドに比べ30%以上安く、通販市場でも起爆剤の役割りを期待しており、こうした取り組みが他のアパレルに広がることも考えられる。

物流機能などインフラ整備

アパレル大手はネット販売を本格化させるのにあたり、物流機能などのインフラ整備に乗り出している。ワールドは通販雑誌「RUNA」を発刊した02年当時から通販専用のインフラが必要と判断し物流専業企業に委託。サンエー・インターナショナルも07年に東京・品川区に倉庫を移転。EC用のフロアに撮影スタジオを併設した。撮影は販売フタッフがアシスタントを務め、服の着せ替えや襟の立て方などを手伝い、実店舗の売り場に近づけている。
イトキンは、これまで茨城県の実店舗向け倉庫の一角を使用し、商品を本社に送って撮影していたが、今年2月にネット販売専用倉庫を東京・江戸川区に移転。撮影スタジオを併設し、従来の月2回撮影から週3回に増やしたことで、商品の投入スピードを速めた。
しかし、倉庫内で出荷までの一連の業務が完結するため、EC部隊は実際の商品を見なくなったことで、撮影の指示が出しにくくなったり、返品対応に時間がかかるようになったという。このため、週に2回、スタッフが倉庫を往復するほか、PCにウェブカメラを搭載して撮影指示を出すことで「現場との距離が縮まった」(同社)という。【編集部・神崎郁夫】

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