2009.8 無料公開記事      ▲TOP PAGE


不況の今こそチャンスがある

篠原 淳史 ジュピターショップチャンネル代表取締役社長 




テレビ通販最大手で通販専門チャンネルを運営するジュピターショップチャンネルが不況の中で"攻め"に転じている。老舗百貨店や大手モバイル通販会社、日本最大の仮想モールなど異業種異業態の企業と協業。また、テレビを入口に、テレビと連動したネット販売を本格化。これまでのテレビショッピング番組の枠に囚われない形の新たなショッピングの形を具現化しつつある。同社を率いる篠原社長は言う。「不況下の今だからこそ、チャンス」があると。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


楽天市場との番組はこれまでで一番、盛り上がった

他社との連携で新番組

――昨年来、景気がよくありません。業績はどうですか。

前期(決算期変更に伴う08年1月〜09年3月の15カ月決算)は変則決算だったので単純比較できませんが、年間(1〜12月)ベースに直すと売上高は前年同期比4%のアップ、営業利益で6%ダウンでした。やはり、去年の9月以降、「リーマンショック」以降は客単価は下落傾向にあります。その分、費用効率は悪くなったことが減益の理由として考えられます。今は「耐える時期」なのかなと思います。もちろん、手を打っていっている部分はあり、客単価は下がっていますが、顧客数はむしろ、増えています。今はリターンに結びつかずとも、どこかのタイミングで結びついてくれればとは思っています。

――顧客数が増えているという部分に関わる話だと思いますが、最近、これまでとは毛色の異なった番組は増えている印象があります。「ブランディング(旧ゼイヴェル)」(※1)や「楽天」(※2)と連携した番組などです。効果はどうですか。

まずブランディングさんとの番組は若年層の取り込みが主な目的です。08年4月から番組の放送を始めましたが、現状は年2回のペースで毎年3月と9月にブランディングが主催する「東京ガールズコレクション(TGC)」に合わせて深夜帯で放送しています。
我々は先ほど申し上げたように、同番組で若者層の視聴者獲得や停滞する深夜帯の活性化を狙っています。そのためにはやはり年2回ではなかなか見てもらえませんので、今年5月からブランディング、TGCのブランドさんとの番組も含めて、2つの新番組の放送をしました。
若年層の中でもよりセグメントされたお客様をターゲットにした仕立ての番組です。1つは「メンズの視線くぎづけ!モテスタイル」。もう1つは「変身!小悪魔スタイル」という番組です。それぞれ人気モデルを起用して衣料品やコスメを紹介しています。これにTGCの番組が加わり、現状では月1回は何かしらの番組が流れるようにしています。(番組が流れる)頻度をあげて、当該層の視聴を定着させていきたいと思っています。

――楽天については。

楽天さんとは今年4月5日に「楽天市場がやってきた!超人気グルメ店大集合!」という名称の2時間番組を放送しました。楽天市場に出店する人気店舗6店舗の店長さんに出演してもらい、それぞれ1商品ずつ6つの食品を紹介しました。私も番組に立ち会ったのですが、めちゃくちゃスタジオが盛り上がりましたね(笑)。今まで立ち会った中で一番、盛り上がったのではないでしょうか。

――視聴者の反応はどうでした?

さすがに楽天市場の中でも上位にランキングされる人気店舗の強い商品なので、ポンポンと「ソールドアウト」が出るんですね。出演してくださったベンダー(出店者)さんもテレビならではの臨場感を体験頂いて、スタジオ全体が興奮していました。まだ、その4月の1回しかやっていませんが、今後も是非やっていきたいですね。

――楽天との取り組みも既存の顧客層とは異なるネット利用者の獲得があるのでしょうか。

それはあります。当社のテレビから楽天市場。逆にWEBからテレビというトラフィックの行き来は期待できます。実際にいわゆるネット受注比率も他の番組と比べて高かったんですね。こうした取り組みは今後も続けていきたいと思っています。

テレビ以外の販路強化も

――今年に入り、ベスト版カタログやアパレル専門カタログなどを相次いで創刊しています。テレビ以外の媒体にも興味があるんでしょうか。

僕らはテレビショッピングがメーンとは言え、通販会社ですから、お客様にアプローチできる媒体すべてに興味を持っています。ただ、やはりカタログ限定の「オンリー商品」をやる必要はあると思います。
例えば、我々はネット販売を強化しており、売り上げも伸びていますが、ここについても「ネットオンリー商品」がポイントになると考えています。ネットオンリーの商品があり、ネットオンリーの専用動画があって、ネットで動画を見てという流れがないとテレビで紹介した商品の注文手段という範疇から出られず、飛躍的な成長は望めません。
前にテレビで紹介した「ピザ」に関連して、そのピザに合う「ピザソース」をネットオンリーの動画で販売しました。最近では同じようにテレビで紹介した化粧品に関連して、ハウツー的な動画を掲載して関連商品をネット販売したりなどもやっていますね。こうした商品の数はまだ少ないので、インパクトはありませんが、感触としては「このやり方はありだね」と。
カタログに関しても同じ考え方でどう作っていけばいいんだろうという模索を始めたところです。継続するかしないかは検証しますが、反応は非常にいいです。こちらもやはり「カタログオンリー商品」に手ごたえを感じています。アパレルなどです。ある程度、アパレルであれば、テレビでよく目にして購入頂いているので質やスタイルはある程度、存じていただいています。その上でテレビでオンエアされないとものを紹介しています。それぞれの媒体でしか購入できないものを紹介する。それぞれの媒体で紹介した商品がどうリンクをしていくか。お客様に楽しんで頂くことができたらと思っています。やはりテレビやネット、またはカタログなど媒体によって適した商品というものはあるはずで、商品をその媒体に振っていくかバランスをとりながらやっていきたいですね。

「よっしゃ!いくぞ」の段階へ

――親会社の住友商事は近年、通販を含むリテール事業を強化しており、海外ブランドなどの買収や通販実施企業との資本提携などを加速させています。これらグループ会社との連携で異なる形のテレビ通販を描けないでしょうか。

ようやくその辺が束になってきたなという感じで、お互いにクロスさせる体制が整い、「よっしゃ!いくぞ」というところに来たと思います。ブランドで言えば、「ナラカミーチェ」(※3)や「マーク・ジェイコブス」(※4)ができ、「ランセル」(※5)ができ、「アシェット婦人画報社」と提携(※6)。このほかグループにはサミットなどのスーパー、ドラッグストアなどもある。これらは店舗網を拡大しつつ、ネットスーパーやネットドラッグにも出て行く。この数年でいろいろと立ち上げたものが、今年は本格的に動き始めるでしょう。その辺を当社なども絡めて、クロスさせて通販を拡大していくと。

――具体的には。

具体的にはこれからだが、不況の中でなかなかリアルで多店舗展開を前提にブランドを立ち上げるというのは難しいと思うんですよね。マーク・ジェイコブスのように名前がすでに通っているブランドならば、別ですけど。新しいブランドを引っ張っていく時に、まず、「導入はテレビでやる」というやり方は出てくると思うんですよね。あとはネットスーパーとテレビだって、クロスはできるだろうし。

――ネットスーパーとテレビという組み合わせは面白いですよね。

ネットスーパーだって、スーパー食材だけやる訳ではないと思うんですよ。例えば日常の食材に併せて、当社で販売しているような取り寄せの旬な食材とかを組み合わせたり、いろいろとやりようはあるんだと思います。

「売る」には勢いとテンポが大事。消化率を高めてバラエティー感覚

GWから回復へ

――今年度も不景気が続いていますが、立ち上がりはどうですか。

4月はしんどかったです。ただ、ゴールデンウィークくらいから少し売り上げは伸びてきて、5、6月はいいですよ。前年同月比でトントンもしくは、ちょっと上くらいです。去年もこの時期は良かったので、結構、良い数字だと言えますね。

――それは何ですかね。

分かりません(笑)。メディアも「やれ、未曾有の不況」という言葉を使わなくなってきましたし、今まで(消費者が)我慢していたものが出てきたということもあると思います。ただ、また、ボーナスが下がるという話もあるので楽観視はしていませんが。

――番組なり商品なり、何かが寄与したということはないのでしょうか。

番組には"勢い"をつける工夫はやっています。消化率を高めるということですよね。大きく売りたいんだけれども、やはり、「ソールドアウト」が出ないと元気が出ないんですよね。1万個を用意して3時間でやるのがいいのか、3000個で1時間ずつ「ソールドアウト」を出していくのがいいのか。その辺を色々と組み合わせながら、よりお客様にはバラエティ感を持って見て頂けるような工夫はさせてもらっています。量よりもそれぞれの消化率を高めていくところを注意しています。

――2期連続で減益となりましたが、今期の業績見通しは。

何が何でも増収増益を目指します(笑)。

――そのための具体策は。

商品については、自分たちの足や目を使ってそういう独自商品を開発していく。もちろん、独自でやれるものもありますが、やはりこの不況で小売業者のみなさんは苦労されている。そうした中、より新しい販路でより新しい組み合わせをということを求められていると思いますし、我々にとっては逆にチャンスなのではないかと思っています。ですので、積極的なコラボ、商品面でのコラボ。当社でしか販売しない独自企画商品を作っていければと思います。そういう商品が出てきてくれれば、それに即した番組作りも必要で演出の工夫なんかもしなければいけないでしょう。そういう意味での番組力は強化できると思います。あとは楽天さんとの番組のように違う企業との番組でのコラボだとか、色んな新しい組み合わせも、こういう世の中だからこそ、出てくると思うんですよね。そういう意味では近年、通販事業を教科されているキー局さんとも是非、一緒に互いの強みを出し合って何か新しいことなどをやりたいなと考えています。

※1:08年4月に住商とブランディングが資本提携し共同で通販番組を開始
※2:09年4月から「楽天市場」の商品を集めた通販番組を放送
※3:07年10月にナラカミーチェの全株を住商が取得
※4:住商とマーク・ジェイコブス・インターナショナルが合弁で「マーク・ジェイコブス・ジャパン」を設立、今年7月から日本におけるマーク ジェイコブスラインのディストリビューターとして営業開始
※5:住商とリシュモン ジャパンが共同で「ランセル ジャパン」を設立、ランセルブランドの日本における独占輸入販売を08年10月から開始
※6:住商がアシェット婦人画報社と資本提携し、雑誌「ELLE」のブランドを冠したネット販売サイトを09年9月から開設予定

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