2009.7 無料公開記事      ▲TOP PAGE



ベルーナ、携帯通販に本腰――GNTの会員取り込み狙う







モバイル通販の市場が急速に拡大する中、当然のことながら大手カタログ通販各社もモバイルには力を入れている。しかし、すでに売上高150億円に迫る勢いで、モバイル通販市場のトップを走る千趣会やニッセンに比べ、取り組みが目立って遅れていたのがベルーナだ。
同社は50〜60代の中高年層が顧客の中心ということもあり、ネット販売自体への対応も遅れていたわけだが、さらに利用者の年齢が下がるモバイルとの相性はあまり良くないといえるだろう。とはいえ、ネット販売を活用する中高年層が当たり前になった昨今、いずれはモバイル通販の利用年齢層も、幅広くなっていくのは間違いのないところ。
09年3月期のネット販売売上高は約75億円で、このうちモバイル経由の売り上げは、約25%の18億円弱だった。しかし、この数字はカタログ商品の携帯電話による受注が多数を占めており、これを除いた数字は1割程度にとどまっていた模様で、モバイルサイト自体の根本的な見直しが喫緊の課題となっていた。

協業で運営費を大幅に削減

ベルーナは5月27日、GNTとモバイル通販事業で協業すると発表した。両社は、ベルーナが展開する、全6ブランドのモバイル通販サイトを共同で運営する。
28日には、モバイル通販の基幹サイト「ベルーナ」を刷新した。GNTでは、昨年12月にグルメのモバイル通販サイト「ベルーナグルメショッピング」を開設したのを皮切りに、今回の刷新で、計6サイトの運営を手掛けることになる。
実際のサイト運営や集客、マーケティングはGNTが手掛けるほか、ベルーナは商品調達や配送、決済などを行う。ベルーナにとって大きいのは、運営はGNTに委託する形となるため「初期のシステム投資や人件費などはほぼゼロになった」(野村育孝EC事業本部チーフマネジャー)こと。
ベルーナでは4つの携帯通販サイトを運営してきたが、それぞれサイトを設計した事業者が異なるなど、効率が悪かったようだ。これまでは、サイトの刷新を行うにも手間が掛かっていたが、体制の変更でスピーディーな対応が可能となった。

使い勝手が大幅に向上

GNTの主力事業は、携帯電話向けに着うたなどの無料コンテンツを配信するサイトの運営だ。最近は通販事業にも力をいれており、無料サイト内に設けた通販コーナーへの誘導を行っている。
GNTの河本直己EC事業部業務統括部長は「当社のモバイル通販は売り上げが大きく拡大しており、こうしたノウハウをベルーナのサイトに適用することで集客を図りたい」と話す。
すでにメールマガジンをデコメール対応にしたほか、商品の並べ方も変更。例えば、商品カテゴリーのページで最初に表示される商品について、「売れ筋順」や「新着順」など、さまざまな切り口で表示できるようにしたという。
その他、検索の使い勝手も大きく向上している。以前はワインサイトであれば、「赤」「白」「銘柄」などでしか検索することができなかったが、「産地」「生産年」「重量」などによる分類や検索ができるようになるなど、利便性が向上した。

1to1マーケティング導入も

また、GNTのモバイル通販サイトでは、購買・閲覧履歴を活用したレコメンドと会員登録時に取得したデータを元に、ユーザーが最初に訪れるページ(ランディングページ)の最適化を展開している。
これは、運営する各メディアへの登録時の情報を元に、ユーザーに最適なページへ自動で振り分けるという取り組みだ。例えば20代女性であれば、「アパレル・美容・健康」の順にカテゴリーが表示されることになる。こうした「1to1マーケティング」をさらに進めるために、同社では昨年秋にシルバーエッグ・テクノロジーのレコメンドASPを導入した。今後はより個人の属性や好みに合わせたサイトづくりを目指す考えだ。
こうした仕組みを、「ゆくゆくはベルーナのサイトにも導入したい」(河本業務統括部長)という。まだ導入時期などは決まっていないものの、ベルーナでは「レコメンドに関しては、グルメやワインといった単品通販で成果が出やすいのではないか」(野村チーフマネジャー)とみており、単品のサイトから導入して、効果を見てからカタログのサイトにも導入という形をとるようだ。
今後はカタログとの連動も図る。現在は基幹受注システムとの連携が取れていないため実現していないが、QRコードを使ったチラシからの誘導も含めて早期の実現を目指す。
利益は両社で分け合うほか、獲得する新規会員の情報も両社で共有するという。GNTでは、こうした会員のデータをマーケティングに活用する考えだ。
さらに、GNTにしてみれば、他社のモバイル通販を請け負うのは初めてのケースとなるため、通販大手のベルーナとの協業は格好のアピール材料となる。こうした支援事業を新たな柱に育てる目論見もあるようだ。
具体的には、通販関係のみならず、実店舗との連動も考えており、外食産業やアパレル関係などがターゲットとなる。例えば、実店舗でポイントなどを目当てにモバイル会員として登録した顧客に対し、GNTが運営するモバイル通販サイトを用意することで、自宅でも買い物をしてもらえる仕組みができるわけだ。

F1層に弱いベルーナ

一方、ベルーナにとってはGNTの400万人という会員資産は魅力的だ。GNTの無料サイトからベルーナのモバイル通販サイトへの誘導を行うことで、集客力を飛躍的に高めたいという狙いがある。
ただ、若い女性の多いGNTの会員は、ベルーナの主要顧客層とはずれているのも事実で、誘導が上手くいくかどうかは未知数。そのため、まずはF1層をターゲットにした「リュリュ」への誘導がメーンとなる。すでに、バナーやメールマガジンなどを活用した取り組みを開始しているようだ。
ここで問題となってくるのが、ベルーナの商品戦略。中高年層を中心としたMDを行ってきただけに、若年層へのアピール力は弱いのが現状だ。そのため、「モバイルでもF1層を中心とした売り上げ構造にはなっていない」(ベルーナの野村チーフマネジャー)という。

独自性を打ち出せるか

6サイト合計で、初年度の売上高は3億円を目標としており、購買者とメールマガジン会員数は6万人を目指す。さらに、3年後には売上高50億円、会員数は100万人を目標とする。50億円という数字について、ベルーナでは「GNTの無料会員を取り込めれば到達できる数字」(同)と話す。しかし、達成するためには商品力の強化が不可欠だ。
今後はリュリュを強化していくだけではなく、ワインやグルメでもネット専用商品として、これまでよりも下の年齢層に向けた商品開発を行っていく予定。「(こうしたネット専用商品の)テスト販売における反応は良い。商材さえ揃えば勝算はある」(同)と鼻息は荒い。
ただ、こうした商品は、他の大手カタログ通販とも競合するだけではなく、ネット専業にもライバルは多い。いかに独自性や値ごろ値を打ち出すことができるか、さらにはレコメンドを活用し、的確なセグメンテーションによる「1to1マーケティング」が実現できるかがカギになりそう。
先行するライバルを捕らえるために、思い切った改革を仕掛けたベルーナ。しかし、ようやくモバイル通販の体制が整ったという段階だけに、早急に集客力を高めて、他社のサイトとの違いを明確に打ち出していく必要があるだろう。【編集部・川西智之】




▲TOP PAGE ▲UP