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JADMAがサプリメントのガイドライン制定

――販売業者初の自主ルール




サプリメントを一度でも取り扱ったことのある事業者なら誰もが感じるのが売りにくい≠ニいうことだろう。消費者の健康志向の高まりを受ける中でこれほど商機≠フある商材はない。にもかかわらず実際に売ってみると、売れない。明確な定義がなく、薬事法や景品表示法など関連法令の縛りから機能性をうたう広告表現ができないためだ。そんな事業者の悩みに光明を照らすニュースが舞い込んだ。通販事業者479社(5月末時点)で組織する日本通信販売協会(JADMA)の「サプリメント部会」が6月1日、「サプリメントの取り扱いに関するガイドライン」を制定したのだ。


基本ベースは関係法令遵守

まず、ガイドラインの内容について説明したい。詳細はJADMAホームページで開示されているため省くが、ガイドラインは販売に際してトラブルに発展しやすい「表示」「安全性」「消費者対応」における留意点を整理したもの。適用範囲はカタログ、チラシから電話の口頭による広告まで、情報提供手段になりうる全ケースを網羅する。もちろんインターネットも入る。
「表示」の留意点は裏づけとなる資料を用意し、機能性や安全性に配慮して消費者に分かりやすい摂取方法を表示する。また、顧客が通院中や薬の服用中である場合を考慮して医師や薬剤師へ相談を行うよう注意表示をすることなど。
「安全性基準」では、商品の品質・安全性が「販売事業者の責任」であることを認識。安全性の確保に向けた情報収集に努め、GMP等に基づく工場での製造が望ましいとしている。
「消費者対応」では、商品情報の提供や相談・苦情対応を行える窓口を設置。健康被害の恐れがあることが発覚した場合、「速やかに顧客に連絡して必要な措置を講じる」など、購入者を特定できる通販ならではの特徴を活かした対応を求める。
でもちょっと待て。これって健全な事業者なら当たり前の取り組みでは?≠ニいう疑問が浮かぶ。当のJADMAも「最低限遵守すべきレベル」としており、基本ベースは関係法令の遵守。特段目を引くものではない。制定の背景はどこにあるのか。

"官製不況"で冷え込む市場

「サプリメント」と一口に言っても、錠剤・カプセル状のものから飲料、一般食品に近いものまで形状もさまざま。明確な定義は存在しない。が、一般的に認識されている「サプリメント」を広義に捉えた場合、一定水準の科学的データと関与成分で認可を取得した「特定保健用食品(トクホ)」、規定の必須栄養素を含む「栄養機能食品」、食品に分類され、薬事法の規制を受ける「健康食品」に分類される。2007年のトクホ市場は約6,800億円で7.9%増。サプリメント市場は「05年に1兆5,000億円程度(トクホ含む)まで拡大した」(健康関連業界紙関係者)とされる。
しかし近年では市場に陰りが見える。「トクホ」では、すでに許可件数が多く個別審査を必要としないゾロ品(後発品)≠フ増加が顕著で、新機能での取得は少ない。「健康食品」も06年に人気素材の一つ「アガリクス」の発がん性促進作用が厚労省から発表され、大手マスコミが一斉に報じるなり、市場は急激に冷え込んだ。05年をピークに「年10%程度減少傾向が続き、08年は1兆2,000億円程度」(前出の関係者)という推計だ。

表示問題に疲弊する業界

もう一つ、市場の停滞を生んでいる大きな要因がある。機能性表示の問題だ。まずは、広告表現に悩む事業者の端的な事例から。
例えば、「ふしぶし」という商品名の関節に作用する「健康食品」があったとする。この商品名が良いかどうか行政機関にお伺いを立てた場合、「『(関節を暗示する)ふし(節)の意味合い』と説明すると、体の機能・構造を示すため薬事法の範疇でアウト、『年齢の節目という意味合い』と説明するとセーフになる可能性がある」と、適正表示研究会(元・東京都生活文化局適正表示課)の茨木清志氏は説明する。表示の是非で、馬鹿げた言葉遊びに終始しなければならない事業者の悩みは深い。
さらに、こうした不満を象徴する出来事が、07年4月に起きた。厚生労働省の監視指導・麻薬対策課が各都道府県宛てに「快視力」(視力関連)、「圧ダウン」(血圧関連)など機能性を暗示すると思われる商品の具体名62例をリストアップ。商品名として使用していた通販事業者はパッケージの変更を余儀なくされた。このように「健康食品」の販売事業者は長年裁量行政≠ノ悩まされてきた。

表示問題打破に向けた取り組み

こうした状態が続く中で「健康食品」の販売事業者は表示の適正化が行われなければ市場の再活性はない≠ニいう共通の危機感を抱いている。このため、これまで、業界はさまざまな取り組みで「表示問題」の解決を試みてきた。
07年には通販・訪問販売事業者や素材供給・受託製造事業者など100社前後からなる「エグゼクティブ会議」を発足。約70人の議員が参加する超党派の議員連盟「健康食品問題研究会」に働きかけて「サプリメント法」の法制化をめざしてきた。当然、将来的な「健康食品」の機能性表示をめざしたが、当時の福田政権下で解散機運が高まったことで議連は足並みが乱れ、「エグゼクティブ会議」も事業者間の意見対立が顕著となった。大手通販事業者など中核企業の離脱から求心力と失う。
また、09年には約800社の事業者が加盟する業界最大規模の日本健康・栄養食品協会(日健栄協)が「産業振興検討会」をスタート。「食品」「医薬品」「素材供給・受託製造」など異なる背景を持つ業界6団体が日健栄協の下に集まり、団体一本化をめざすという取り組みも始まる。これも強力な業界団体≠確立することによって、これまで行政のいい様にされてきた表示問題に正面から取り組むためだ。ただ、検討会も流通事業者の参加が少ないことなど不安材料を抱えており、早くも業界関係者から懸念する声が上がっている。
2団体の活動に共通するのは、現実味が薄いということ。国は消費者庁創設で消費者行政強化への傾きを示し、重要法案を3分の2ルール≠ナ通す時代。「健康食品」を利用した悪質業者が跋扈する中で「サプリメント法案」など通りようがない。また、食品業界が長年にわたり上部団体を持たず、背景の異なる個別団体が乱立する状況からも「製造」と「販売」、立場の異なる事業者間の対立構造は拭いがたく、一本化も容易にまとまりそうにない。
こうした中で、制定されたのが「サプリメントの取り扱いに関するガイドライン」だ。その意義は表示問題を解決に導く先鞭をつけたことにある。

表示問題解決に先鞭、運用実績の集積がカギ

ガイドラインが2団体の構想と違う点は、まず、実際に運用≠ェスターとする点だ。立派な構想であっても、議論が行われるばかりで話が進まなければ意味がない。
一方のガイドラインは、まがりなりにもこれまで明確な位置づけがないサプリメントに「食生活を補う食品で健康の維持・増進などを期待する成分を含むもの」という定義をつけ、生鮮食品など「一般食品」と区別している。
また、ガイドラインにもとる事業者への指導を行えば、運用実績を行政機関に示すことができる。悪質事業者と明確に色分けされれば消費者の理解も得やすくなるはずだ。さらにJADMAは「今後も見直しを加えていく」としている。運用実態の中で事業者・消費者双方の視点に立ったキメ細かなルールの設定に及べば、「サプリメント法」のたたき台となる可能性も秘めている。
もちろん、通販事業者の独りよがりで「製造」事業者の理解が得られなければ、新たな対立構造を業界に生じさせる。とはいえ、販売事業者による自主ルールの制定は初めてであり、踏み出した一歩は大きい。表示問題が半年や1年で解決する問題でないことは周知の事実。通販事業者がどのように運用実績を積んでいくか、今後の動きに注目する必要がある。【編集部・佐藤真之】

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