2009.7 無料公開記事 | ▲TOP PAGE |
「世界一品揃えの良い」に独自商品はいらない ユニクロの"基本"を徹底した ――ユニクロのネット販売売上高(≒ダイレクト事業)が上期で100億円を突破しました。有店舗も含め、昨年からユニクロの"ひとり勝ち"が際立っています。ネット販売においてはどんな施策を展開したのでしょうか? 何か特別なことをしたわけではありません。むしろ、ユニクロの基本に立ち返りました。現在のところ、(好調の要因は)その点に尽きるでしょうね。 ――ユニクロの基本とはなんでしょうか? 商品動向を細かく見たり、計画を嫌っていうほど立てたり、それを毎週毎週、もの凄いスピードで変えていったり、やると言ったら最後まで徹底的にこだわることとか(苦笑)。 ――かなり緻密で大変そうですね。 店舗やユニクロ本体では当たり前にやっていることです。商売をやっていれば当たり前のことなんです。だけど、いざ「やる」ってなると結構しんどくて、「道理は分かっているができない」ということは業界内ではあるみたいですね。 ――ネット販売を行う部署が昨年6月に「グローバルWEB事業部」と組織を変え、そのタイミングで事業部長に就任したと聞いていますが、そもそも、ネット販売を「てこ入れ」するための人事だったのでしょうか。 「てこ入れ」というてことではなくて、着任して、業務の内容を見てからですね。「ユニクロと違うものを作る必要があるのか?」それよりも、店舗の店長がやっていることと同じことをしっかりとやることが大事だと判断しました。(ユニクロのネットには)まだまだ需要があります。ユニクロをちゃんと伝えれば売れる。ど真ん中から行くってことです。 ――組織変更については。 それまで日本国内でしか見ていなかったのを、海外まで視野に入れて徐々に準備を始めました。5月に中国でのネット販売を開始しましたが、仮想モール「タオバオ」では既に、当社が売り上げ1位となりました。会社としてはまだ満足の行く数値ではありませんが。 ――就任前は店舗を統括する営業部長でした。店舗から非店舗となって違和感はありませんでしたか。 分からないことだらけでした。でもそれは言葉(ネット販売用語)のことで、基本的なところは同じです。結局は売るってことです。売るっていう行為をどうするのか。その前提にある販売計画は店舗と同じなんです。何百とあるアイテムからなる在庫金額を、計画に落とし込み、1週間あるいは日単位で計画通りに行くように微調整していく。ネットでもそれが基本です。 ――以前のネット販売部隊では、その基本がなっていなかった? やり直さなければならないことがいくつかありましたね。かつてのネット販売は、店舗のユニクロとどう差別化するかにある意味、汲々としていました。ネットにとって最大のライバルは「ユニクロ実店舗」だったわけです。そうすると、ユニクロとしての基本が置き去りになり、「よそ(ユニクロ実店舗)で扱っていないものを扱いましょう」という、小手先のことをやってしまう。 ――確か以前は、店舗にはない品揃えがネット販売戦略の1つにありましたよね。 "以前のユニクロ"とは今では、品揃えが全然違います。当時(2003年前後)は絞られた品番だけでした。例えば今は、女性向けでスカート、ワンピースをしっかりと展開していますが、当時は違いました。商品のラインアップも増え、大型店も全国80店、超大型店も誕生しました。 「よそにはない商品を扱う」という戦略は、ネット販売としては一般的なものですよね。かつてはそうしたネットの世界で普通にやっていること(王道の施策)を、その通りにやってきました。ただ、ネット限定商品を作っても、ユニクロ全体からしてみると、あまり儲からない。それに、そこで開発された商品が、店舗へ一斉投入されるアイテムと同じような、厳しい精査を受けて出来上がっているのかどうかというと、正直、そうじゃないものもあったわけです。"ユニクロとの差別化"という考え方よりも、"ユニクロをもっとちゃんと伝えて売り上げを取る"という方がユニクロのオンラインショップとして、あるべき姿だと思います。 正々堂々、ど真ん中から売る ――ネットの位置づけは以前とは変わったということですね。 平たくいうと、「世界一品揃えのいいユニクロ店舗」です。大型店、超大型店にしか置けない「都市型アイテム」や、専門店(UT STORE HARAJUKU.)で扱うTシャツなどすべてを販売します。昔は「世界一品揃えのいい」という中に、「ネットでしか買えない独自アイテム」も含まれていました。でもその独自アイテムには、目先の売り上げをとる小手先の商品もあった。一方、超大型店にしか置けない「都市型アイテム」は、あるべき商品構成として自信を持って作った商品だが、(物理上)置けない、というものです。「超大型店」はまだ全国で数えるほどしかなく、都市型アイテムを扱っているのは5店舗だけです。小手先でないものを作り、旗艦店で「売るぞ」って決めたものを、正々堂々と売ろうと。 ――ネットでは先行販売もしていますよね。 ほとんどの商品をネット先行で販売しています。ここでの販売動向を営業部へフィードバックしています。昔は漫然と売っていたところがありましたが、今は全社に向けて声高に言っていますね。出身母体がそっちなので、言いやすいですし(笑)。 ――3月末には、情報サイトと通販サイトの統合も行いました。 業界の人から見れば、「統合」なんですが、一般の人からすると「デザインがかっこよくなった」という感じなんだと思います。これまで、面白い情報を出しているのは「A」サイト、モノを売っているのは「B」サイト。「B」は良く言えば質実剛健、悪く言えばかっこ悪かった。スーパーのサイトって言われても仕方がないような。今は「知る・見る・買う」を統合して、ユニクロがブランドとして打ち出しているメッセージを、買い場のトップページで出せます。インタフェースとしてはそのまま連続しているので、興味があれば一直線で買うことができます。 ――最初から1つのサイトでやる、という考え方はなかったのでしょうか? 当時は分けたのではなく、通販のサイトの上に、上位の概念としてブランドサイトを新しく設けたという考えで、別の論理で成り立っていたわけです。でも結局、「A」と「B」で同じサイトに見えなくなってしまった。通販サイトは私たち事業部のだけのものではありません。ユニクロとして整合性が取れてなければいけません。 レコメンドもセグメントも意味がない ――ネット販売の業績は店舗以上に好調ですが、下半期(3月〜)も維持していますか。 そうですね。山はだいぶ越えましたね。基本的にはウィメンズが貢献しています。社内的に、当面はウィメンズの強化が課題と捉えていますが、サイト刷新では、思いっきり、ウィメンズに振りました。ウィメンズのサイトかと思うくらいに。 ――店舗と比べてもウィメンズ色が強いですか? 店舗もウィメンズ寄りになってきていますが、ネットはさらにそうですね。当面はウィメンズ色を強めていきます。当社の特徴として、女性の方が男性の商品も買う、という購買行動があります。ユニクロはそういうブランド。だから、男性を呼び込むよりも、女性から誘導したほうが、売り上げが上がります。 ――客単価も上がっているのですか。 微々たる金額ですが上がっています。購入回数も増えていますね。でも一番の理由はウィメンズの品揃えが毎週、毎週変わる目新しさ。それによって、男性の固定客はそのままに、女性客が純増しました。 ――今年度はかなり高い実績を見込めそうですね。 数字で答えることは難しいですが、まだまだ需要があると感じています。店舗と比べても、まだやっていないことも多いので、まだ伸びしろは大きいと捉えています。 ――やっていないこととは例えば… これもいっぱいありますよ。レコメンドとか。レコメンドは昔、パソコンのサイトでは傾倒して熱心にやっていました。だけど当社には合わない。コストだけかかって意味がない。でもレコメンドには可能性があるので、パソコンではなくてモバイルに実装するのは効果があるのではないかなどと、違うやり方を考えています。 ――モバイルだとレコメンドも効果があるとするのは。 先ほどの女性客の話に通じるわけですが、決済た方が女性だとして、その方がお母さんだとすれば、お父さんの下着も買うわけです。そこに、レコメンドでメンズの下着をたくさん出されても仕方がありません。同じように、メール配信でもセグメントは意味がありません。クレジットカードの名義が女性であるだけなんです。そういう意味では、今まで(ネット販売でやったら効果があるとされていること)を全部やっていましたね。でも「ユニクロとして意味があるのか?」と疑うことは大事です。疑ってかかるしかないことっていっぱいありますから。そして効果がないものでも、こっちに置き換えたら違うかもしれない、ということを計算しながらやっていかなくてはいけません。 ――課題を挙げるとしたらどうですか? いろいろありますよ。例えばケータイ。正直、モバイルサイトは手付かずです。今年3月にパソコンサイトは刷新しましたが、モバイルについてはマイナーチェンジでした。見やすくしたつもりではあるけど、システムの刷新は行っていませんので。 ――今年中に着手しますか。 通販用の携帯サイトを作っても仕方がない。ユニクロのキャンペーンがしっかり伝わるようなものでなければ。それにはもう少し先の話、2〜3年後ですね。モバイルの生態系が変わり、その時に、自分たちが何をやっているのか、だと思っています。 ――しつこいですが、もう独自商品やカタログはやりませんか? やりません。独自商品は「UT STORE」のような特別な店舗ができたときに、商品の深さとして、リアルとネットを結びつけながらやることはあるでしょうが、ネットだけで売ることは考えていません。シンボリックな店がなければ、やっても意味がありません。カタログについては、我々の目指す方向ではない。店舗と商品価格の面で連動が取れませんし、カタログ的見せ方はファッションビジネスで通用しないと思います。
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