2009.6 無料公開記事      ▲TOP PAGE


ディノスとセシールが合併へ

――フジがTOB、セシール子会社で




ディノスとセシールが合併へ――。老舗通販企業、ディノスの親会社であるフジ・メディア・ホールディングス(FMHD)は2009年5月14日から、子会社を通じて、総合通販企業のセシールの株式の公開買い付け(TOB)を開始した。セシールの親会社、LDHは保有株式全株を応募する方針でTOB成立は確実視されており、セシールはFMHDの子会社となるもよう。また、TOB成立後、FMHDはディノスとセシールを2010年4月以降に合併させる計画で、通販の収益力を強化、放送外収入拡大を狙う考えだ。 通販業界をけん引する2社の合併で年商1200億円クラスの総合通販企業が誕生することになる。また、ネット販売の売上規模も両社の単純合計では400億円超となる。合併での相乗効果については、業界内から早くも懐疑的な声が囁かれ始めているが、ことネット販売に関しては、合併による相乗効果は少なくなさそうだ。


2010年に両社を合併


FMHDは子会社のフジ・メディア・サービスを通じて、5月15日から7月1日までセシール株式のTOBを実施、1株180円で買い付ける。買い付け予定数の下限は議決権ベースで56.21%。セシール株式を32.29%保有するセシールの親会社であるLDH(旧ライブドア)と同社子会社で同株を23.92%保有するアジア物産がすでに応募する方針を発表しており、TOBは成立する見通しで、セシールがFMHDの子会社となるのは確実な状況だ。その後、FMHDはTOBによるセシール子会社後、2010年4月以降にもグループの老舗通販企業のディノスと合併させる計画だという。

放送外収入の獲得強化で


FMHDが今回、セシールに触手を動かした目的は既存の収益の柱であるCM収入の目減りへの危機感だろう。実際、MFHDの2009年3月期連結業績は売上高が5633億円で前期比2.1%減。営業利益は198億円で同18.6%減と減収減益。その背景には広告収入の大幅減がある。
こうした状況に加えて、某キー局幹部によれば「これからどんなに景気が回復しようと、以前のような水準までCM収入が回復するとは到底、思えない」という。インターネットに代表される新興メディアに台頭で、景気とは関わりなく、スポンサーの目はテレビ以外に向いているためだ。つまり、テレビ局は体力のある内に、放送収入に頼らない収入源の確保が絶対命題となっており、その放送外収入の一翼を担うのが「通販」だということだろう。
通販事業に関しては、すでに老舗通販企業のディノスを傘下に持つが、ここにセシールの売上高を加えることで1200億円を超える放送外収入を手中に収めることが可能となるわけだ。後は両社を合併させ、通販事業に関連すするコストを削ることで、一定の利益も獲得できる算段ということだろう。

このままではジリ貧


ただ、セシールを子会社化して、通販の売り上げの嵩を増すだけでは、せっかく手に入れた放送外収入も今後、ジリ貧となる可能性もある。FMHDの通販を担うことになるディノス、セシールとも景況感の悪化などから業績はあまり芳しくはない。ディノスの直近決算は3期ぶりに黒字回復したものの減収。セシールも"リーマンショック"後、回復基調だった業績は低迷。直近決算では減収減益とんじゃっている。
 つまり、両社を合併させるのは良いが、コスト削減だけでは、ジリ貧となる可能性が高く、それを避けるには両社にある強みを持ち寄り、現状に売り上げに加え、プラスアルファーの新たな売り上げを作る必要があり、それこそがポイントとなる。

合併による売上拡大には「?」


両社合併による売上高の拡大ついてFMHDでは「顧客リストの相互活用(カタログの相互送付、カタログの統合、顧客リストの統合など)」「地域性の補完、商品性の補完」を挙げている。ただ、こうしたFMHDが提示する売上拡大策については、通販業界から疑問視する声も少なくない。
某雑貨通販企業幹部によると、「昨年あったJALUXによる主婦の友ダイレクトの買収など、明確に顧客層や取扱商品が異なる場合は相乗効果が出てくるだろうが、顧客層や商材が多く重なる総合通販企業同士の合併はメリットが少ないのでは」と話す。
また、中堅通販企業のトップは「両社の顧客層を比べると、ディノスはどちらかというと比較的年齢層が高く富裕層が多いイメージで、セシールは40代主婦がメーンで富裕層というよりも価格に敏感に反応する顧客が多い。その辺りでは一定の相乗効果はあるかもしれない。だが、物流等の効果はそれほどないのではないか」とする。
 総合通販企業同士の合併は今まであまり例がない。というのも各社の指摘通り、ある部分においての強みや弱みはあるにせよ、顧客層や取扱商品ジャンルが重なっている。また、顧客リストの相互活用などは、「恐らく大手総合通販企業の顧客リストはほぼ重なっているのでは」と業界筋が指摘するように、幅広い年齢に幅広い商品を販売する総合通販は顧客リストが大部分、重なっている可能性がある。つまり、その部分ではコスト削減効果はあるにせよ、売上拡大にはそれほどは寄与しないのではないだろうか。

ネット販売事業にはシナジーも


TOB成立前であるため、FMHD側の対応は冷たく、「お話できる段階になったら話します」との一点張りで、現時点では売上拡大のための具体策について詳細は分からない。ただ、明確に効果がありそうなのはネット販売事業だ。FMHDもセシール株のTOB開始の発表資料の中で少しだが、ネット販売事業について以下のように触れている。
 「インターネットサイトの相互活用(ID・ポイントの共通化、サイトの統合など)、両社の商品企画力・メディア開発力の相互活用を通じ、インターネット通販事業をカタログ通販事業に次ぐ第二の柱として育成・強化する」というもの。
例えばセシールはポイント活用については、競合他社よりも先を行っているといってもよい。他社とのポイント交換などを積極的に展開し、ポイントを使った新規顧客獲得やリピーター獲得はかなり成功しているものと見られる。また、アフィリエイト広告に使い方に関しても「せしリエイト」と呼ばれるユーザーの力を上手に活用したコンテンツを展開。単なる新規顧客開拓に留まらない活用術を身に付けている。
上記は一例に過ぎず、セシールはネット黎明期からネット販売事業を開始してきた実績があり、「EC力」は高いと見ていい。

新たなメガECサイトに期待


無論、近年、ディノスも他の事業が低迷していた中、ネット販売事業の売上高は好調で、力を入れてきているが、ここにセシールの「EC力」が加われば、成長スピードは加速する可能性を秘めている。もちろん、その逆もしかりでディノスがテレビ通販などで紹介する商品などをセシールが販売すれば、プラスアルファーの売り上げが作れる。通販全般はもちろんだが、こと「ネット販売」についても400億円超の売り上げを誇る新たなメガECサイトとして、その行方が注視されそうだ。【編集部・鹿野利幸】

▲TOP PAGE ▲UP