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日本の50代女性をキレイにしたい

林 恵子 DoCLASSE(ドゥクラッセ)代表取締役社長




傾きかけた日本ランズエンドを立て直し、成長軌道へと乗せた立役者は、20代のころから思い描いていた"起業"という目標に向けてランズエンドを飛び出した。「とにかく、やってみなきゃ分からない」の言葉そのままに、まずは行動に移す。マーケティングのプロが立ち上げた婦人服のカタログ通販は、1年半の助走期間を終え、大きく羽ばたこうとしている。(聞き手は本誌・神崎郁夫)


何度計算してもお金が足りなかった。でもスタートしなければ始まらない

起業は以前から決めていた

──99年に日本ランズエンドの再建を任され、見事に安定成長の道筋を付けられました。通販企業を立ち上げることになった経緯を聞かせてください。

37歳の時、米国の通販企業ヴィクトリアシークレットの日本拠点立ち上げにかかわったんですが、土壇場で日本進出がなくなってしまった。当時は1ドル145円までドル高が進行していたんです。それで、日本の社長というポストが消えてしまった。だけど、40歳の時に今度はランズエンドから声がかかって、経営を担うことができました。当時、5年間でランズエンドを立ち直らせて、成長が継続できる基盤が整ったら、後継者にバトンタッチするつもりでいました。ランズエンドに入る時から、卒業する時のことを考えていました。本当は、45歳くらいに卒業して起業したいと思っていたんです。

──元々、起業の志が高かったということですね。

そうですね。22歳の頃から起業したいと思っていたんですけど、弱虫で、タイミングも合わなくて、なかなか実現しなかったんです。ランズエンドでは、成長路線を築くために、日本の市場にあった物づくりを本国に認めさせることと、強い組織作りに専念しました。ランズエンドはお客様サービスで知られたいと思っていました。日本に合った商品というだけではなくて、サービス面でもです。例えば「楽替(らくがえ)」という試着サービスは消費者に受け入れられました。

──当初は5年間のつもりだったんですよね。

そうなんです。私自身、次の目標を設定する段階にあったんですが、後継者を社内で見つけることができずに、結局は47歳までいることになりました。周りの友人からは、なんで、いまさら起業するのなんて言われましたけど、起業するにも体力が必要ですし、力が残っているうちと思って、次のチャレンジに踏み切ったんです。もちろん、不安はありましたよ。

通販が好き、洋服が好き

──なぜ、婦人服のカタログ通販だったんですか。

まず、通販が大好きというのが根っこにあって、いろいろとコンセプトを考えていました。それで、自分の周りをよく見渡したら、洋服の作り手がいて、デザイナーもいて。そういうネットワークを大事にすれば、カタログ通販ができるなと思ったんです(笑い)。世の中の大きな流れを見ると、物余りの時代に、しかも激戦区のアパレルに参入して、誰が新しい会社を求めているかと不安もありました。だけど、それ以上のアイデアもなくて、またアパレルの通販を始めてしまいました(笑)。

──自ら激戦区を選ばれたわけですね。

そうですね。衣料品は在庫リスクが高いし、通販は先行投資型のビジネスだし、正直に言って、何度計算してもお金が足りなかったんです。だけど、やってみなきゃ分からないと思って。結局は消費者向けの商売が好きで、洋服が好きなんですね。まずは四方に手を尽くして、洋服をやっていないカタログに掲載させてもらって、そこのユーザーにはリーチができるということになったんです。同時に、新聞広告や折込チラシなどに出稿もして、恐る恐る始めてみたわけです。

──会社が立ち上がってからも、あまりメディアには登場されませんでしたよね。

小規模な資本でどこまで続くか心配だったので、メディアには露出せず、こっそりテストを続けてきたんです(笑い)。07年5月からカタログ制作の準備に取り掛かって、無事に創刊号が出たのが07年10月です。とにかく作ってみた創刊号は秋冬シーズン向けのカタログ全52ページで、モデルは友人に頼み込みました。撮影も自宅のリビングや屋上、車庫と使える場所はすべて使いました。スタジオ撮影はほとんどないですね。

──メーンターゲットは50代の女性ですね。

そうです。とにかく、日本の50代女性を美しくしたいという思いが強かったんです。ヨーロッパだけじゃなくて、日本でも可愛くて、かっこいいマダムを増やしたかったんです。今のように不景気になる前も、嫌な事件ばかり続いていたし、おじさんを変えるのは大変だけど(笑い)、お母さんなら変えられる。お母さんパワーで日本を元気にしたかったんです。ただ、50代の洋服は意外に高いものが多くて、上質な洋服をもう少し気軽に着てもらえるものを作りたかった。上質なカットソーを9900円で作りたいという思いがあったんです。年をとると体型も変わってくるから、体型をカバーできる洋服が作りたいと思いました。

忌憚のない9人の女性たち

──会社設立と同時に、9人委員会という女性ばかりの会を発足されましたね。

9人は全員友人なんです。自宅でパーティーをすると言って集めて、服を持ち寄ってもらって、こういう服が欲しいとか、色々な意見を出してもらっってるんです。みんなはっきり言いますよ。「ここがキレイに見える洋服作って」とか「この辺りが太ってきてるから、ここをゆったり目に」とか。出来上がったカタログの感想ももらってます。

──9人委員会は経営には関わらないわけですね。

経営には関わりません。辛口の評論家であり、同時に信頼できるサポーターといった存在ですね。ただ、メンバーを固定するつもりはありません。10年後には私たちも60代になるし、徐々にメンバーが代わっていくのが自然だと思います。

──カタログの発行頻度はどれくらいですか。

カタログは春夏、秋冬の両シーズンにそれぞれ3号ずつ発刊してます。顧客には号外も送っているので、年間8冊のカタログを作っています。創刊号で52ページだったページ数は第3号からは恐る恐る76ページに増やしました。しかも、第4号では初の海外ロケも敢行しました。誌面で50代の元気さ、エネルギーを伝えたくて、オーストラリアで撮影したんです。カタログは作る時期と発刊時期が逆になるので、南半球ならちょうどカタログが発刊されるのと同じ季節で撮影できると思ったんです。

──商品は日本製が多いですね。

商品の多くは日本製です。ただ、セーターなどの類はニットの横編み縫製機械が中国がメーンですし、リネンも中国の麻が良いので中国で生産してます。

──顧客獲得の手段は広告出稿ですか。

そうですね。いまは、新聞の広告や折込チラシ、クレジットカード会社の請求書への同封などが中心ですね。広告出稿は少しずつ増やしていて、今年も増やしていく予定です。新聞広告は2媒体からもう1媒体の全国版でトライアルしてみます。まだ知名度が低いうちは広告からカタログ見てみたいと思う消費者が多いですからね。顧客数は約3万人ですが、今年9月から始まる新年度の目標は顧客数を6万人増やすことです。

無駄なことなど何一つない。今は人生最大のスリリングな戦いに挑んでいる

コールセンターを増強

──顧客開拓と同時に、インフラの整備も必要になりますね。

今年の夏にはコールセンターを増強する計画です。今、コールセンターは社内の12席と、外注も利用しながら対応してます。カタログリクエストなどの対応は外注に任せていますが、顧客対応は自社で行ってます。夏にも本社移転を計画してますので、コールセンターも50席に増やします。

──会社設立から1年半が経過して、販売実績はいかがですか。

非常に堅い計画を組んでることもあって、売り上げ目標は計画通りです。今年の春夏シーズンの立ち上がりも感触としては良いですね。これから、色々な仕掛けを続けて、3期目となる2010年8月期には、30億円の規模にもっていきたいです。

──この1年半を自己採点すると何点ぐらいですか。

私自身にはまだ点数はつけられませんね。スタッフには100点以上をあげたいですけどね。お金がない分、知恵を絞ってやってきました。限られたキャッシュの中で顧客の獲得に全力をあげてきました。ただ、ようやくスタートラインに立てたという感じです。やっと事業を始めましたと言えるくらいですね。

──ランズエンドでの7年間が自信になってるんじゃないですか。

もちろん、ランズエンドで得たことは大きいですよ。7年間で20年分くらいの仕事させてもらえたと思ってます。社長業だけじゃなく、最初の6年間は商品部やクリエイティブ部隊、DMにコールセンターまで全現場を回りました。この経験がゼロからの起業に役に立ったんですね。周囲では、社長をしてたからといって新しい会社はすぐに立ち上げられないという方もいましたけど、結構、現場を見てきたという自負はありました。人生には無駄なことなど何一つないと感じましたね。
お金はもう、ついてくると信じようと思ってます。今は人生最大のスリリングな戦いに臨んでいて、絶対に勝ち残るという気持ちでいるので、困難ことが多くても楽しいですね。

実店舗の展開も視野

──今後のドゥクラッセの方向性はいかがですか。

ドゥクラッセが洋服屋の通販として進むのか、総合通販になるのかは迷うところです。つまり、ライフスタイル全般までアイテムを広げるかどうかで迷っています。現時点では、洋服屋でいたいという気持ちが強いです。下着などはやっても良いですね。ただ、通販だけでどれくらいの量がでるか。安く売るためにはやはりスケールメリットも必要です。小売りの経験を生かして、実店舗を持つことは考えています。これは4年目からの課題ですね。あと1年は通販の基盤作りが最優先です。ただ、不景気のうちに出店したい気持ちはあります。

──通販サイトはリニューアルされたばかりですね。

今年2月末にリニューアルして、カタログと連動できるシステムに移行したばかりです。でも、まだまだ変革中です。カタログでは得られない商品情報を付加したり、リコメンド機能を強化したり、やるべきことはたくさんあります。売るだけではなくて、おしゃれのヒントやコツが詰まっているサイトにしたいですね。
今現在の主力はカタログです。通販サイトだけで買い物をする顧客は全体の3%程度ですね。カタログを見ながらウェブで申し込む方が25%くらい。ただ、10年後には売り上げ構成も大きく変わっているでしょうね。テレビも無視できない存在です。

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