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NTTドコモ、老舗TV通販企業のOLM買収の狙いは?







NTTドコモは09年4月9日、エクササイズDVD「ビリーズブートキャンプ」のヒットなどで知られる老舗テレビ通販企業のオークローンマーケティング(OLM)を買収した。ドコモはOLMの発行済株式51%を取得、連結子会社化し、経営権を握った。しかも株式の取得額は310億円。OLMの現状の年商は400億円規模であることを考えれば、破格の評価だろう。ドコモがそこまでしてOLMの買収にこだわった理由――。それは「今後への危機感だ」と見る業界筋も多い。携帯電話キャリア最大手のテレビ通販企業買収の背景とは。

OLM買収で事業領域拡大へ


 今回のOLM買収に先駆けて、ドコモは08年の秋、新たな事業計画を発表した。その事業計画とは、新たな事業の創出だ。同社曰く「ドコモが保有している経営リソースとのシナジーが発揮できる領域において出資提携を進めていく」というもの。
 具体的には携帯電話に絡む「放送」や「広告」「小売」などだ。背景にはすでに天井を迎え、伸び悩みつつある携帯電話。これに危機感を覚えたドコモは新たな成長の源を模索すべく、ここにきて、イオンとの合弁会社など矢継ぎ早に事業領域拡大の種をまき始めている。OLMの買収も携帯電話事業と親和性の高い新規事業進出の一環。OLMを取得することで、今後、拡大するであろうモバイル通販にOLMを介して、自ら着手する狙いがある。
 このため、ドコモは4月9日付でOLM創業者のロバート・ローチ氏など既存株主から発行済株式5万5215株を310億円で取得。これにより、議決権割合は51%となり、OLMを連結子会社化した。買収後もOLMの代表取締役社長はヒル氏が続投するが、ドコモは役員3人をOLMに派遣。また守屋学グループ事業推進部長を代表取締役副社長に就任させる。これにより、OLMの役員構成は7人中、4人がドコモ勢となり、経営の主導権を握る。

まずはOLMの強化


 ではOLM取得後、ドコモは具体的に何をしていくのか。買収会見の席でドコモが話したのはまず、OLMの事業の強化だ。今後、ドコモはOLMの通販番組や商品を活用して、モバイル通販を強化。まずは今年の早い段階でOLMをiモードの公式サイト化するほか、「iD」や「DCMX」などドコモの決済サービスをOLMが使えるようにする。また、「iコンシェル」(※ドコモの携帯ユーザーに自身の趣味嗜好に合った情報を携帯電話を通じて提供するドコモのサービス)にOLMの通販を加え、「今までのテレビ通販にはないチャネルで通信販売を促進する」(NTTドコモの守屋部長)ようだ。
中期的にはモバイルに適した商品、映像を作成。携帯動画通販を強化していく。「今もワンセグで通販番組が見れるが、それはあくまでテレビ用に作っている。これをモバイル風にアレンジしたり、モバイルユーザーの生活スタイルを調べた上、それぞれのユーザーにあった商品、売り方を模索する」(同)という。

先にあるのはモバイル放送への活用


そして、ドコモのOLM買収の本当の狙いはドコモがフジテレビや伊藤忠などと共同で進める2011年以降に放送予定のモバイル専用放送「マルチメディア放送」のへ活用だろう。
マルチメディア放送では複数の事業者が独自の放送技術規格で放送免許の取得を狙っているが、現状ではドコモが乗る規格が優位に立っているようだ。ただし、マルチメディア放送はデータ通信を含め、非常に「できること」が多く、そのポテンシャルを活かしきるためには豊富なコンテンツが必要となる。この際、OLMがテレビ通販で培った通販映像の作成能力はドコモにとっては魅力的で「当然、(マルチメディア放送の)コンテンツの1つとして期待している」と会見に出席したドコモの坪内常務はマルチメディア放送のコンテンツとしてOLMの通販番組を活用することなども示唆している。
 2011年以降、先のマルチメディア放送の開始も含め、通信と放送に融合はますます進みそう。それと同じように、通販に関しても、「動画」と「放送」、「ネット」「モバイル」と「テレビ」など現状ある媒体の特色は薄れ、それぞれが融合していく形となりそう。気が付いた時には通販が通信事業者に牛耳られることにないよう既存EC事業者はこの数年はドコモよろしく「ユーザーの集まる売り場」に先手を打っていく必要がありそうだ。




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