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テレビ×モバイルで小売NO.1に

ハリー・A・ヒル 【オークローンマーケティング 代表取締役社長】




エクササイズDVD「ビリーズブートキャンプ」のヒットなどで知られる老舗テレビ通販企業のオークローンマーケティング(OLM)がNTTドコモとの資本提携に合意。09年4月9日付でドコモの連結子会社となった。異例とも言える携帯電話キャリアによる通販企業の買収――。その先にはどんな戦略を描くのか。新たにドコモ傘下に入ったOLMを率いるヒル社長は言う。テレビとモバイルで「小売企業のNO.1」を目指すと。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


20、30%の増収ではなく、世界で
業界1位になるための提携だ

モバイルで顧客との関係性を強化


――ドコモとの資本提携は突然という印象でした。どちらからの打診だったのでしょうか。


うーん。どちらともなくというか。我々が今後の展開を考えている時に、ドコモ側でも携帯電話に関連した事業で事業領域を広げるという戦略があり、そういうタイミングがたまたま合い、話が進んだという印象です。

――ドコモに発行済株式の51%の株を譲渡したため、経営権はドコモに移りました。御社は「ビリーズブートキャンプ」のヒットなど単独で業績を順調に拡大させてきました。あえてドコモの傘下に入る必要性はあったのでしょうか。


 当然、複雑な思いはあります。ただ、我々はもっと先を目指している訳です。OLMはここ数年、業績は好調で現在の年商は400億円規模です。ただ、これまでのように20%、30%のアップではなく、我々は日本や世界で業界1位になりたいと思っています。そうした想いを実現するためには、我々の力だけでは今後、どこかで天井にぶつかるはずだと考えました。

――では、今後の成長のために資本提携先としてドコモを選んだ理由は。


目的は1つではなく複数あります。最大の狙いは当然、『モバイルメディア』の強化です。モバイルを活用して新規顧客開拓はもちろん、今までよりもより深いワン・トゥ・ワンマーケティングで顧客との関係性を強化できるものと考えています。これがひいては売り上げや利益増につながるはずです。
関係性の構築という意味では、モバイルには特にSNSやコミュニティ的な要素を期待しています。当社が販売する『ビリーズブートキャンプ』や『コアリズム』などでは(継続的な利用のために)グループや友達作りが非常に重要な要素となります。
これまでも『ミクシィ』などで自然発生的にそうしたグループはできてはいましたが、モバイルではよりそうした展開がより作りやすいと思っています。もちろん、それには様々なテストが必要になると思いますが、そういった展開は目指せると思っています。
加えて、メリットが高いと思われるのが「決済」です。もちろん、これですぐに売り上げへの貢献や、顧客が増えるとは考えていないが、当社のお客様にとって、非常に便利になると考えています。ドコモには「iD」や「DCMX」といった決済手段があります。個人情報に関しては、お客様も非常に気にされる時代です。OLMがこうした決済サービスを導入することで、一度、個人情報を登録してしまえば、商品を購入する際に個人情報やクレジットカードの番号も言う必要がない。または、商品が届いても現金を出さずに決済できるという安心で手間のかからない決済サービスです。しかも、ドコモの携帯電話のシェアは50%。ということは我々のお客様の半分もドコモユーザーということであり、ドコモが提供する決済サービスを簡単に利用することができると思います。こうした決済サービスはドコモの傘下に入らなくともできるものですが、それではファイヤーウォールがあり、つまり、お客様に何度も時間を頂戴して、個人情報を聞かなければなりません。グループであれば、非常にスムーズにできると持っています。提供は、お客様にとっては非常に便利で喜ばれるものだと考えています。
また、ドコモには「ドコモショップ」などのリアル店舗があります。具体的には決まっていませんが、そうした店舗でテレビ通販やモバイル通販を絡めた新しい物販やプロモーションができると考えています

テレビとモバイルの相乗効果は?


――主力であるテレビ通販とモバイルでの通販では顧客層は異なってくるはずです。相乗効果は出にくそうですが、どうですか。


 お客様の「購買意欲」はどこで作っているかというと「テレビ」で作っているんですね。まず、これが前提です。当社のチャネル別の売上構成は、5、6年前ですと、テレビで通販番組を放送して、コールセンターでの売り上げが80%、リアル店舗(卸売り)が20%で、インターネットの貢献はほぼゼロでした。今では50%くらいがコールセンター、30%がインターネット、リアル店舗が20%です。
つまり、テレビで購買意欲を喚起して、すでにインターネットに誘導する形はできつつあります。そして、期待しているのは、お客様はパソコンよりも携帯電話を持っている方が圧倒的に多いということです。我々がもっとテレビとモバイルの連携をわかりやすくして、お客様が気楽にモバイルで商品を購入できるようにすれば、売上構成は劇的に変わっていくと考えています。
そして、相乗効果ももちろん、出てくると思います。先ほど、コールセンターの売上構成が5、6年前の80%から、今では50%程度になったと申し上げましたが、絶対額としてはさほど変わっていません。要はインターネット(の売り上げ)はプラスアルファーとして入ってきています。販売チャネルを増やすことによって、新しいお客様を獲得できたというのが今までの経験です。今後はここにプラスしてモバイルも入ってくるでしょう。

各販売チャネルに見合うコンテンツ作りが我々の使命


――テレビとモバイルの連携のイメージを教えてください。


どの販売チャネルであっても、「商品」と「ブランド」は同じです。ただし、テレビで受けるコンテンツとインターネットのコンテンツ、これから我々が展開していかなければならないモバイルのコンテンツは同じではありません。それぞれの販売チャネルに見合うコンテンツを作るのが我々の使命です。
その各チャネルに合致するコンテンツですが良い例が今、販売している「コアリズム」です。この商品はテレビとインターネットでそれぞれコンテンツを作り、両者を連動させて、プラスアルファーのレスポンスを作っています。
こうした例は今まで何回も経験しています。これと同様にモバイル独特のコンテンツを作って、こうした連携を作ればかなりの相乗効果が出ると考えています。ただ、明日からすぐに実行できないので、これはじっくりやっていく必要があると思います。

――モバイルにおける最適なコンテンツとは何ですか。


 これからそこはテストしなければならないところだと思っています。モバイルの場合は、例えば細かく商品をアップして、場合によっては、クリックすると(映像が)すぐに止まって、気になる部分の情報がもっと詳しく見られることなどが考えられます。そういうようなものをこれから開発していかなければなれないと思います。

まずはブランドごとの公式サイト


――ドコモとの資本提携後の具体的な取り組みについて教えてください。


 それは本当に今、考えているところです。とりあえずはドコモの公式サイトを強化しようと思っています。現在、当社が展開するブランドの内、「ヒルズコレクション」のみがドコモの公式サイトになっていますが、「ショップジャパン」や「エクサボディ」に関しても、それぞれのブランドごとの公式サイトを開設したいと思っています。
あとはコモの決済サービスである「iD」や「DCMX」はより早く実行したいと思っています。もっと大きな取り組みに関しては、現在、いろいろなプロジェクトチームを両社に作って、話し合っているところです。

――記者会見では「iコンシェル」(※ユーザーの登録情報や生活エリア、趣味嗜好に合わせた情報を携帯電話のTOPページに常駐するキャラクターは伝達するドコモの情報配信サービス)に加わるという話や、ドコモなどが2011年以降、事業開始を目指している携帯端末向け放送「マルチメディア放送」のコンテンツとしても考えているという話がありましたが。


 「iコンシェル」に加入するという話は出ているのは事実ですが、まだいつのタイミングで参加するかなどは決まっていません。「マルチメディア放送」へのコンテンツ提供については、結局、具体的に話ができない状況なんですよね。まだ、放送免許も下りていませんし。具体的な話に持っていくつもりですが。今はまだ、不確定なところがありすぎるので(進んでいません)。

――ドコモは御社に資本参加した目的の1つに携帯を使った動画ショッピングを挙げています。御社はこれまでも携帯動画通販というのは実施してきたのでしょうか。


 現状、モバイル通販では動画はほとんど使っていません。ただし、可能性はあると思います。新規顧客開拓という側面も当然あるんですが、商品販売後のワントゥワンサービスにこそ一番、可能性があると思います。例えば「ビリーズブートキャンプ」を購入されたお客様には毎日、例えば「ビリー」からの動画メッセージを送ったり、エクササイズのアドバイスをしたり、「そういう運動をやっているのなら、こういうサプリメントがいいよ」など商品をお奨めしたり。「コアリズム」をお買い上げのお客様には毎日、杉本綾さんのワンポイントレッスンを動画で配信したりなど。こうした動画のインタラクティブ性はこれからかなり期待できると思います。

不況の今こそ、お客様には時間がある。我々にとってはチャンスだ

各カテゴリで1位になる


――今後の目標について教えてください。


 この2、3年の目標としては、例えば、我々は「低反発マットレス」や「ダイエット食品」などを販売していますが、我々が展開するすべての商品カテゴリで業界1位になりたいと考えている。

――業界というのは、通販という意味ですか。


 最終的には小売全体という意味です。ダイエット食品で1位とかですね。もちろん、通販業界の中で我々が売上ナンバーワンになりたいという気持ちもあります。

――通販で売上1位というとアマゾン・ジャパンです。2000億円強の年商と推定されますが。


 化け物ですね(笑)。いずれは超えていきたいと考えています。まずは通販ではテレビショッピングでは1位になりたいです。それを叶った段階で通販でナンバーワンを目指します。

――現在、先の見えない不況が続いています。


 私たちは不況はチャンスだと考えます。なぜかというと、不況になると人は時間があまります。そうすれば、今までたれていなかったことを時間があるためにやる人も増えます。ダイエットにしても、勉強にしても、家族サービスにしても、エクササイズにしてもです。ですから今こそ、攻めるチャンスだと思っています。モバイルの強化もそうですが、今年はテレビ通販に関しても放送枠も増加させようとしています。不況で在宅率が高く、テレビを見る人が増えますので。とにかく今年は攻めの姿勢で行こうと思っています。 

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