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レコチョク、モバイル通販に参入


――音楽配信との連携で差別化できるか







レコチョク(旧レーベルモバイル)は1月、CDやDVDなどを販売する携帯電話向けサイト「レコチョクshopping」を開設、通販事業に参入した。同社の運営する「レコチョク」は、日本最大の携帯電話向け音楽配信サービスだ。その集客力を生かし、着メロなどをダウンロードするユーザーにCDを販売する。市場が低迷する中で、音楽配信から物販への誘導はレコード会社にとって光明となるのか。

■音楽の裾野広げた「着うた」


レコチョクは、大手レコード会社が出資して2001年に設立された。今年2月には、運営する音楽配信サービス「レコチョク」に合わせて、社名もレーベルモバイルからレコチョクへと変更した。
着メロや着うた、着うたフルなどを配信する「レコチョク」は、1800万人ものアクティブユーザーを誇る、日本最大の音楽配信サービスだ。携帯電話向け音楽配信の市場では、シェア6割を占めている。ユーザーは15〜35歳の女性が中心で、特に20代半ばの女性は、4人に3人がサービスを利用している計算となる。
今回開設した通販サイトは、「レコチョク」を利用するユーザーを対象としたものだ。例えば、着うたを購入したユーザーに対して、その楽曲が入ったアルバムをレコメンドするといった形が考えられる。
しかし、近年は音楽配信が普及するにつれ、音楽CDの販売は落ち込んでいるのが現状だ。両者は競合する存在ではないのか。
同社の服部達也副社長は「一般的には音楽配信とCDの物販は競合していると言われているが、それは正しい見方ではない。着うたを購入する消費者がCDに興味がないわけではない」と否定する。気に入った曲は着うたフルも、その曲が入ったアルバムも購入するという人は非常に多いという。「CD市場が縮小しているとは言うが、他国と比べると日本は驚異的に頑張っている」(服部副社長)。つまり、着うたが音楽を楽しむ文化の裾野を広げているというわけだ。

■新たな収益源を模索


服部副社長は「当社の使命はエンターテインメント商材の流通。ダウンロードした曲を気に入り、アーティストの世界観を知るためにアルバムを購入する。こういったユーザーが増えれば当社のビジネスを拡大することになる。着うたを入り口に音楽を消費するというサイクルを確立させたい」と語る。その流れを加速するのが「レコチョクshopping」となる。
レコチョクの場合、通販でいうところのコンバージョンレートは約6割にも達する。目的意識が高く、通常よりも購入意欲の高いユーザーが多いというわけだ。
通販サイトを開設したもう一つの理由は、音楽配信の急成長に翳りが見えてきたことだ。基本的に、音楽配信は携帯電話の成長と同期する形で伸びてきた。ところが07年頃から、携帯電話キャリアが、販売店に販売奨励金を出すことで端末をバラまくという従来の販売戦略を転換したことで、端末の価格がはね上がったのはご存知だろう。端末の販売台数の急失速が、音楽配信にも影響を及ぼしているというわけだ。通販には新たな収益源の模索という側面もある。
 すでにサイトがオープンして1カ月ほど経過しているが、「まずまずの滑り出し」(同)という。決済手段は、クレジットカード、代金引換のほか、携帯電話の料金に代金を上乗せする決済サービスも利用可能だ。他のモバイル通販の場合、キャリアに支払う利用料金の問題もあって、代金を上乗せする決済はあまり積極的に活用していない。より気軽に利用できる決済手段だけに強みとなる。

■「情報の届け方」を強みに

 
しかし、音楽配信に比べてCDやDVDの物販は利益率が極端に少ないのは言うまでもない。さらに、競合も数も違う。アマゾンを代表に、CDは普段利用するポイントの付くサイトで購入したいというユーザーも多いのではないか。どうやって差別化していくのか。
 「値引きなどは行わないため、単にCDやDVDを販売するだけでは厳しいのは確か。情報の届け方で差別化していくしかない」(服部副社長)。レコード会社が出資しているという強みを活かし、新譜の情報を素早くユーザーにメールしたり、着うたを購入した人にCDをおすすめしたりするといったことが重要になる。
 もちろん、レコチョクでしか手に入らない特典の提供も差別化ポイントの一つだ。アーティストのポスターといったグッズだけではなく、待ち受け画面のフラッシュやムービーなどを提供していく。将来的には、CDと着うたを購入した人に特典を付けるといった販売方法も考えているという。他にも、ドラマなど映像作品と音楽は密接な関係にある。ドラマの主題歌をダウンロードしたユーザーにドラマのDVDボックスをおすすめし、特典も付けるというクロスメディアの展開も行う予定だ。
 また、着うたはCDにさきがけて販売される。例えば、あるアーティストのアルバムを購入したユーザーに、新曲の着うたが販売されたことを知らせる仕組みも考えている。着うたとCDを連携させた販売手法で売り上げ拡大を狙う。

■グッズなど通販商材の拡大も


もう一つ問題となってくるのが「大手レコード会社が出資した企業が通販を行う」ことに対する小売りからの反発だ。着うたという資産を抱えているだけに、他の小売りよりも有利な販促ができるのは事実。メーカーが行う通販では必ずつきまとう課題だ。
 服部副社長は「短期的に見ればそういった面もあるかもしれない。ただ、1800万人のアクティブユーザーに音楽に関する情報や商材を提供することは、業界全体を盛り上げることにもつながるはず」と断言する。さらに、以前ツタヤオンラインの社長を務めたこともある服部副社長は、「メールマガジンで新譜の情報を流すと店舗の売り上げは上がる。レコチョクでも似たような現象が起きるのではないか」と話す。決して他の事業者の売り上げを「奪う」というスタンスではなく、CDに対する新たな需要を作り出すことが目的となる。
 とはいえ、新たな収益源の模索という課題もあるだけに、「レコチョクshopping」のビジネスモデル確立は急務だ。今後は取り扱う通販商材の拡大も視野に入れる。例えば、「アーティストのグッズやコンサートのグッズなどを一緒にレコメンドしていく形も面白い」(服部副社長)。レコード会社との距離が近いだけに、コラボレーションも容易だ。
 もちろん、「レコチョク」のさらなる集客も重要課題。1月からは、日本テレビ系で、着うたフルのランキング30位までを紹介する音楽情報番組「レコ★Hits!」を開始。「着うたは、テレビ番組などで紹介されると古い曲でもランキングが急上昇する」(同)だけに、テレビとのタイアップは効果が高い。もちろん、通販に誘導することで古いCDを販売するというロングテール的な効果も期待できる。
 「前例のないビジネススタイルだけに、どれくらいのユーザーに購買意欲があるのか、客単価はどれくらいか、図りきれていない」(服部副社長)ことから、売り上げ目標などは非公開。より精度を高めたレコメンドや、予約販売の需要をどれだけ取り込めるかが売り上げ拡大のカギとなりそうだ。




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