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反対意見を無視、厚労省が省令を公布

医薬品通販規制問題




今年6月の改正「薬事法」施行を受け厚生労働省が2月6日、ネット販売で扱える医薬品を大幅に制限する内容を盛り込む「薬事法施行の一部を改正する省令」を公布した。これに対し、ネット販売事業者から、反発の声が高まっている。昨年9月の省令案公表の段階からネット販売業者が強く反対していたが、公布された省令は、省令案と変わらない内容で、同省が周囲の反対意見に耳を貸さないまま、公布に踏み切ったからだ。この問題を巡っては、内閣府の規制改革会議でも、消費者の利便性を損なうとして、反対の見解を表明。医薬品ネット販売ユーザーや一般消費者からも規制導入を疑問視する声が高まっている。これに対し、厚労省でも新たに検討会を立ち上げ、医薬品ネット販売等に関し再検討することを決めているが、検討会委員は規制賛成派に偏った形となっており、規制見直しの方向性が打ち出せるかは、微妙な状況だ。


■通販で扱える医薬品「第3類」に制限


医薬品については、09年6月の改正薬事法施行に伴い、新たな販売制度が導入される。薬剤師のほかに新たに設ける「登録販売者」にも医薬品の取り扱いを認めること、そして、医薬品を副作用リスクの大きさに応じ分類し、それぞれに顧客に対する情報提供や販売方法などを定めたことなどがポイントだ。医薬品の分類については、スイッチOTCなど副作用リスクの大きいものを「第1類医薬品」とし、以下、副作用リスクに応じて風邪薬や水虫薬等を「第2類医薬品」、ビタミン剤等を「第3類医薬品」に区分する。
今回の医薬品通販規制は、「第2類医薬品」に該当する水虫薬や風邪薬、胃腸薬などの取り扱いを制限し、ビタミン剤等の「第3類医薬品」に限定するというもの。ネット販売を含む通販の場合、薬剤師等の専門家が直接顧客に情報提供を行う「対面の原則」が担保できないというのが主な規制理由だが、現在の医薬品通販で取り扱いが認められている風邪薬等の医薬品が販売できなくなった場合、外出が困難な顧客の購入手段がなくなるほか、医薬品ネット販売を行う薬局・薬店の経営にも影響が出ることは必至なのだ。

■曖昧な規制根拠に反対意見続出


この規制内容を含む省令案が公表されたことを受け、医薬品通販を行う業者等が反発。日本オンラインドラッグ協会等のネット関連業者・団体が同省に見直しを求める意見書を提出するほか、自社サイト来訪者に省令案パブリックへの投稿を要請するなどの活動を展開し、規制改革会議でも、昨年10月に厚労省担当者との公開討論を実施している。
この間に浮上したのは、厚労省の規制根拠の曖昧さ。実際、これまでの経緯を見る限り、ITを活用したネット販売での面の原則が担保できるかといった議論が十分に行われたとは言い難いのが実情で、規制改革会議の公開討論では、厚労省の法的な規制根拠の甘さや、ネット販売に起因する健康被害事例を把握していないなどの問題が指摘されていた。こうした状況から、厚労省が進める医薬品通販の規制に対する懐疑的な見方が拡大する形となっていた。
また、ヤフー、楽天といったネット関連業者では、サイト来訪者に医薬品通販の規制強化に関する問題の告知を行うほか、規制見直しの署名活動、省令案パブリックコメントへの意見提出要請などの取り組みを展開し、これまでに50万人以上の反対署名を収集。今年1月には、評論家の大宅映子氏や國領二郎慶応義塾大学総合政策学部教授等が発起人となる「一般用医薬品の通信販売継続及び販売環境の整備を求める緊急会議」が消費者の視点から医薬品通販規制の是非に関する議論を開始するなど、医薬品通販規制の是非を巡る問題は、一般消費者も巻き込む形で拡大している。
厚労省では2月6日に省令案パブリックコメントの結果を公表しているが、それによると寄せられた3430件の意見のうち、医薬品通販規制に関する意見が2,303件あり、その97%が規制反対の意見。これは、医薬品通販規制にノーを突きつけたものと言えるが、厚労省では、こうした意見を全く反映させることなく省令を公布。これに対し、省令の見直しを求めてきたネット販売業者等では、「強硬に規制を盛り込んだ省令が公布されたことについて、大変遺憾に思う」(ケンコーコム)「省令が公布されたことは残念に思う」(一般用医薬品の通信販売継続及び安全な販売環境の整備を求める緊急会議)など、失望感をあらわにしている。

■検討会設置も規制見直しは期待薄


医薬品通販規制に対する否定的な見方が強まるなか、厚労省は、医薬品通販規制の再検討を目的とした「医薬品新販売制度の円滑施行に関する検討会」を立ち上げると発表した。規制賛成派の薬業関係者と規制反対派のネット・通販関係者を交え、薬局等に来店が困難な場合の対応や、インターネット等の医薬品通販のあり方など、これまで議論が不十分だった事項を議論するというものだ。
舛添要一厚生労働大臣は、同検討会の結果次第で省令を見直す可能性もあるとしているが、同検討会で省令見直しの方向性を打ち出すことは、かなり難しいと言わざるを得ないのが実情だ。
委員の顔触れをみても、全19人の委員のうち、ネット・通販関係の委員は、日本オンラインドラッグ協会の後藤玄利理事長、楽天の三木谷浩史会長兼社長、全国伝統薬連絡協議会の綾部隆一氏、國領二郎慶応大教授の4人。他の15人は、省令案のたたき台となる議論を行ってきた「医薬品の販売等に係る体制及び環境整備に関する検討会」からスライドしてきた薬業関係等の委員が中心。つまり規制賛成派が大勢を占めているわけだ。さらに、これまで医薬品通販規制に対し、強く反対してきたネット販売業者等に良い印象を持っていないことを考えれば、規制見直しの議論が進むとは考えにくいのだ。
このまま医薬品通販の規制が導入されれば、離島在住者など通販ユーザーの生活に支障をきたすのは必至。さらに医薬品通販を行う中小の薬局・薬店が経営難に陥る可能性もある。こうした状況を考えた場合、今回の検討会で求められるのは、安全性を確保した形で6月以降も医薬品通販が継続できる道を探ることと言える。医薬品通販ユーザーや通販を手掛ける薬局・薬店は少数かも知れないが、その不利益を勘案しないような医薬品販売制度がよりよいものと言えるのか、再考する必要があろう。

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