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"ブランド力"で「送客」と「安心」をアピール

井上俊一&陳海騰 <百度代表取締役社長&代表取締役>




加速の一途を辿る、中国市場への通販企業の参入。ただ、世界中からモノが集まる巨大市場ゆえ、勝ち残るのは容易ではなく、撤退する企業も一部見え始めている状況だ。そうした中、中国の検索サービス最大手の百度が「百度.com」上に日本に関する情報を集めたコンテンツを開設した。情報の提供のほか、広告を出稿した企業のサイトへの誘導も行うもので、日本の百度では、08年3月に設置した「国際事業室」を通じて中国百度へ広告出稿したい企業を支援していく戦略だ。中国国内での検索シェアが7割と、圧倒的な知名度を誇る百度。その"ブランド力"を同サービスでどのように活かすのか。日本百度の井上社長と、国際事業室を統括する陳代表取締役に支援事業の詳細などを聞いた。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)


◇"百度のブランド"が最大の強み

■日本で有名でも中国では知名度がない


――中国百度に「日本の窓」を作りましたが、これはどういったコンテンツなのでしょうか。


(以下、陳代表取締役) 「日本の窓」は、日本と中国の間に何か知りたい情報があれば、そこにいけば全部手に入る、という入り口です。もちろん出稿企業のECサイトへの入り口としての役割もありますが、ECだけではなく、旅行関係や家電、不動産、地方自治体関係などから引き合いがあるので、これからいろいろな情報を追加していく予定です。ECでは既にニッセンが2月1日からサービスインしており、そこから自社の海外向けECサイト「JSHOPPERS.com」にリンクする仕組みになっています。今はまだその1チャネルしかない状態ですが。利用者は、中国国内の百度ユーザーを想定しています。

――現在は郵便事業やSBIベリトランスが仮想モールを開始するなど、いろいろな企業が中国進出を支援するサービスを開始しています。その中で、日本企業が「日本の窓」に出稿するメリットは。


「百度」のブランドを使える、ということですね。そこには、百度から送客できる、ということと、安心感を与えられる、というメリットがあります。単独で中国でビジネスをする場合は、日本企業はブランド力が足りず、当然PVも上がりません。それが、実際に中国向けのECサイトをやっている企業の共通の悩みなわけです。

――確かに中国は魅力的な市場ということで参入希望は多いですが、中国での認知度が高くないと難しい面もあります。


そうですね。通販サイトを中国でゼロから立ち上げるとなると、ものすごく時間がかかります。よく誤解されているのですが、日本の有名な会社でも、中国ではそういうわけではありません。例えばNTTでも、漢字の訳の問題で、中国では実はエレベーターの会社だと思われていたりもします。間違って、エレベーターを直して欲しいなどの電話がかかってきたり(笑)。そういう例があるように、日本で有名でも、中国では知名度はゼロだったりするわけです。だから、単独でゼロから始めるのは難しい、といえるでしょう。
そこで、EC関連の企業は百度のブランド力を利用して、安心感を与えることができる、というメリットがあります。例えば一般のクライアントから見ると、モールに出店するのはいいが、代金をどうやって回収するのか、と決済面での心配があるわけです。また逆に、一般ユーザーから見ると、お金を振り込んだあとにモノがきちんと届くのか、という心配があります。そこで百度のブランドがあれば、他の仮想モールと比べても圧倒的な信頼感があります。つまり保証になるわけですね。「万が一何かトラブルがあっても、百度に電話すれば解決してくれるだろう」と。今は、実に沢山のサイトがありますが、中国ではニセモノが多く、大変です。そうした中、百度でなら気楽に買い物ができるし、気楽にコンテンツにアクセスできる、と。
 また、送客についてですが、一番重要になるのは入り口ですので、そのためにはしっかりプロモーションをしないといけません。肝心なところはいかにプロモーションをして、効果的にやっていくかです。弊社の場合は中国での検索シェアが7割あり、自然にユーザーが集まるので、やはりそこが強みになると思います。

――日本のEC企業で今後、ニッセン同様に「日本の窓」に広告を出稿したい、というニーズが多く出てくると思いますが。


基本的には、競合他社が入らないように一業種につき一社、とさせていただいています。ですので、もし同一ジャンルで出稿したい、という要望が出てきても出稿はできません。年間契約ですので、次の年にする、などの形になると思います。あるいは単にリスティングやバナーを出すなど、違ったスキームで出稿するとか。

――「国際事業室」への出稿で最も多いジャンルは。


観光が多いですね。通販もありますが、ニッセンのような大企業はまだ他にありません。どちらかというと中堅企業が多いです。予算の関係もあるので、まずはリスティングからスタート、という形で出稿されるケースが多いです。通販では、今は日本人形などの工芸品を販売する会社が出稿しています。

――リスティング広告を出稿する場合と「日本の窓」に出稿する場合は、予算も大きく異なるのですか。


大きく異なります。「日本の窓」の場合は年間契約で、やはり予算も大きいですね。とりあえずリスティングやバナー広告を試して、効果が見込めれば「日本の窓」に出稿する、という使い方も有効でしょう。

――何社ぐらいの出稿を見込んでいるのですか。


具体的に何社、というのはまだありません。とりあえずいろいろ話し合い、認知度を上げていくことに時間がかかると思います。

■重要なのはパートナーの選別


――中国市場に進出する日本企業の動きについてどう見ていますか。撤退する例もあるようですが、例えば成功するコツなどは。


まず一つには、自分たちのコアなものが何か、ということをしっかり分析しないといけないでしょう。中国は世界中の企業が集まっている激戦地なので、いきなり市場に参入するのは難しいのです。例えば化粧品でもアパレルでも、何か特徴を出さないと無理でしょう。ただ安易に、日本で売れないものを持ってくるとか、中国人は安いものを買うだろうとか、そういう捉え方では、中国はモノが溢れているので上手くいきません。
もう一つ重要になるのはパートナー企業の選別です。よく間違えるのがこの部分で、騙されるケースも多いです。例えばあまりに小さい会社とか、成功した実績があまりないパートナーと組むと、勝算は少ないでしょう。やはり組むときは、各業界の実績のある企業と組むことが大事だと思います。ベンチャー同士で組むと成功するのは難しいのではないでしょうか。

――自分たちで良いパートナーを選ぶのはなかなか難しいと思うのですが、百度でマッチングのサービスなどを行う予定はありますか。


直接はまだやっていませんが、セミナーの開催や、中国市場を視察するツアーを提案する、などが考えられます。ただ、百度単独ではできないので、旅行会社やコンサル会社に任せ、弊社がサポートする形になります。企業のアポをとってあげるなどもありますね。弊社は検索エンジンの会社で、いろいろとつながりがあるので。

――現状での課題は。


「国際事業室」は日本での知名度がまだ足りないので、そこを高めていくことです。やはり百度というと検索エンジンの会社のイメージが強いので。

――知名度を高めるための施策は。


やはり成功事例を作ることですね。それに、こうして取材を受けたりセミナーを開催したり。例えばマーケティング関連の協会や、地方自治体が開催するセミナーなどで講師として喋るわけですが、そうした場で「国際事業室」の取り組みを紹介するなどして知名度を高めていこうと考えています。

◇モバイルでヤフー、グーグルに続く3番目のポジションを確立したい


■検索連動型広告は2010年に


――国内の状況についても伺いたいのですが、現在、検索シェアはどれぐらいあるのでしょう。


(以下、井上社長) 詳しくは第三者の調査会社のデータなどを見てもらえればいいと思いますが、感じとしては、まだまだかな、というところですね。

――シェア拡大のための戦略は。


画像検索と動画検索に関しては好調なので、そこは引き続き伸ばしていきたいと思っています。で、ウェブサーチに関してですが、今はヤフー、グーグルという二大メジャーサーチエンジンがいますので、そこはもう少し長い期間で見ていくつもりです。我々が得意とする分野の画像、動画検索からユーザーを呼び込み、少しずつウェブサーチにもつなげていきたいですね。

――検索連動型広告についてはどうですか。開始のメドは。


2010年のどこかのタイミングを目指して進めています。

――現時点で開始できないのはなぜなのでしょう。


もっと認知度を上げたい、もっとトラフィックを集めたい、というのが最大の理由です。そこの開発にプライオリティーを置きたい。トラフィックがなければ、そもそも広告は出稿されませんので。動画・画像については、順調にトラフィックが伸びているので、順次、新しい機能なりインデックスの拡張なりをしていきます。大体のプランは出来ているので、その通りに展開していけば順調に伸びていくのではないかと思っています。

――今は「ウェブ」「画像」「動画」「ブログ」と四種類を展開していますが、新しい項目が加わる予定は。


まだ具体的にニュースになるような段階にはいっていません。それより今は、モバイルの検索を重点的にやっていきたいと考えています。

――具体的には。


モバイルはまだまだ未成熟な分野。コンテンツも少なく、クローズドです。ユーザーもモバイルは見ていますが、検索、となると、まだそれほどせずに、いつも限られたコンテンツを見ているような状態でしょう。とは言え、キャリアも徐々にオープンになっているし、ユーザーも少しずつ検索を使い始めているので、そこで我々の強みを発揮できるサービスを出していきたいと考えています。

――例えばどういうサービスが考えられますか。


まずは、すでに展開している画像や動画をモバイルでも出していきたいと思っています。それと、中国の百度の強みというのは、ロボット型の検索プラス、コミュニティーによるコンテンツ……いわゆるUGC(ユーザージェネレイテッドコンテンツ)にあります。例えばQ&Aサービスなどは物凄い人気ですが、検索だけではなく、両方合わさって百度の魅力になっているわけですね。こうした部分を、日本でも何とか形にしていきたいと思っています。こうした中国で人気のサービスを日本向けにアレンジして、利用のきっかけにしてもらう、と。

――モバイルで御社の強みである動画などを展開していくのは、デバイスの性能の問題などもあるのでは。


まず、できる部分までは確実にやる、ということですね。そこから先は、少しずつ帯域が広くなったり、デバイスの性能が上がったり、徐々にサービスは良くなっていくと思うので。やはりまずはサービスをスタートさせることが重要でしょう。モバイルはまだ未成熟で、昔のPCみたいな感じですよね。検索エンジンが10個も20個もあって、どこもどんぐりの背比べで、突出した何かがあるわけではない、という状況です。現在、知名度で言うとヤフー、グーグルで、実際トラフィックも多いとは思いますが、別にまだそれらがデファクトになったわけではないし、彼らのサービスが突出して素晴らしいわけでもないと思っています。それは単にテクノロジーの問題だけではなく、コンテンツが足りなかったり、ユーザーが少なかったりなどのあらゆる要素があるわけです。モバイルは今後、現在よりもまだまだ発展し、いい方向に向かうと思うので、そうした流れの中でまずはヤフー、グーグルに続く3番目のポジションを早めに確立することが重要だと考えています。

――モバイルサービス開始のメドは。


具体的に言えるタイミングではありませんが、まあ今年のどこかではお披露目できるかな、と思っています。

――MP3検索については。


著作権に対する考え方が違うので、同じ形での展開はやはり難しいでしょう。著作権を持っている方の利害と合う形のサービスをすると、中国百度が行っているのとはまったく違うサービスになりますので、そこは慎重に考えているところです。ただ、やはり音楽、というジャンルに対するニーズは当然、あるでしょう。例えば、音楽と動画との親和性は非常に高い。だから中国百度でやっているMP3検索ではなく、日本独自の展開を今後、やっていけたらいいなと思っているところです。

――今の日本百度の収益の柱は。


「国際事業室」です。ただ、そこで土台を作る、というのではなく、検索サービスと支援サービスはパラレルだというのが我々の考えです。検索は先行投資だと考えているので、いずれは両方柱としてやっていくつもりです。

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