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住友商事、仏メディア企業と提携しEC強化へ

――ファッション誌の名前を冠した通販サイト開設で





4年後に100億円


「4年後に100億円」――。住友商事が9月にも、人気ファッション誌と連動したネット販売事業を開始する。仏メディア大手のラガルデール・アクティブと組み、同社傘下で女性ファッション誌「ELLE Japon(エル・ジャポン)」などを発行するアシェット婦人画報社の株式34%を取得することで合意。住商側で通販事業の経験者などの役員を派遣し、同社が発行する雑誌を冠した通販サイトをそれぞれ立ち上げていく計画だ。提携会見に出席した住商の商の大橋茂ライフスタイル・リテイル事業本部長は「売上高目標は4年後(の2013年)をメドに100億円を見込む」とした。
住商はグループでテレビ通販最大手のジュピターショップチャンネルを筆頭に通販に注力。08年4月にはゼイヴェル(現・ブランディング)の子会社に出資するなど、特にファッション分野の通販事業を強化している。今回のラガルデールグループとの提携も通販強化の一環と見られる。
住商はアシェット婦人画報社が発行する各種ファッション誌が持つ媒体力を活用。それぞれの雑誌と連動させた通販サイトを立ち上げることで、当該誌の読者を含め、短期間で通販顧客を確保、EC事業の拡大を目論む。
その住商の目論見の論拠はアシェット婦人画報社の「雑誌の力」によるところも大きい。ただ、実はアシェット婦人画報社は現在でも外注する形で、主力雑誌「ELLE(エル)」の名前を冠したECサイトを展開しているのだが、関係筋によれば「そんなに売り上げは大きくない」らしい。仮に「雑誌の力」で通販事業を伸ばすことができるのであれば、すでに既存の通販サイトの売上高も大きく伸びているはずで、住商とECで提携する必要性は薄いわけだ。果たして住商は計画通りに、雑誌と連動した今回のEC事業で成功を収めることができるだろうか。



まず「ELLE」のECサイト


 住商はラガルデール傘下のアシェット婦人画報社の株式34%を取得することで合意。取得金額は明らかにしていないが、50億円前後との報道もある。住商は株式取得後、総合商社の中でも通販に強い同社らしく「ダイレクトマーケティングの経験者」(大橋氏)など5人を役員として派遣。アシェット婦人画報社に新規部署、Eコマース部門を設置し、同社が発刊するファッション誌を冠した通販サイトを立ち上げ、各ECサイトで雑誌と連動させたネット販売事業を行う計画。
 まずは09年9月末に雑誌「ELLE」の名前を冠した通販サイトを新設。同誌で掲載されているような高級ブランドや新進デザイナーによる衣料品や靴、鞄、小物、アクセサリー、下着など約百ブランドを販売する計画だという。ネット販売のほか、雑誌と連動した特集やコーディネート提案、メルマガ配信を行い、顧客数は初年度で60万人の獲得を目指す考えだ。

「雑誌の力」以上の売り上げには…


 「ELLE」のECサイト立ち上げ後、「モバイル通販サイトも若干、遅れるが新設する」(大橋氏)予定。その後、具体的なタイミングは明らかにしていないが、アシェット婦人画報社が発行する「25ans(ヴァンサンカン)」や「婦人画報」などの他雑誌でも同様にECサイトを立ち上げるようだ。
 アシェット婦人画報社は「エル・ジャポン」のほか、ファッション誌を合計11媒体発行している。また、展開する雑誌の内容も多岐に渡り、特定分野に特化した雑誌も発刊している。恐らくコアな読者も一定数はついていそうで、これら雑誌の名前を冠したECサイトを開設することで、ある程度の売り上げは立てられる可能性はある。
 ただ、前述した通り、もしも「雑誌の力」、つまり、雑誌の愛読者を通販顧客化するということだけが住商とラガルデールのEC戦略だとすれば、文字通り、「ある程度の売り上げ」に留まってしまう可能性がある。いかに「エル」を初めとするアシェット婦人画報社の雑誌が優れていようと、一般的に雑誌の発行部数が爆発的に伸びるということは有り得ない。「雑誌の力」に依存すれば、読者以上の売上高の拡大は難しいことは道理だ。
 だからこそ、アシェット婦人画報社はサイバー・コミュニケーションズに運営委託する形で展開する「ELLE」の名前を冠した雑誌連動の通販サイト「KAERU@ELLE ONLINE」(※住商の新ECサイトへの移行に伴い、閉鎖する予定)がすでにあるにも関わらず、今回の提携で住商に乗り換える形を採ったのではないか。それはいかに人気のある雑誌と連動させた通販サイトを構築しても、一定以上の収益を上げることが難しいという証左なのではないか。もし、この形で大きな収益が見込めているのであれば、わざわざ鞍替えする必要性はないからだ。

すべては住商の力次第


 「雑誌の力」以上の収益を上げるためのカギになるのは、やはり住商が持つ商品調達力や受発注、顧客管理システムを含めた通販ノウハウにありそうだ。恐らく、ラガルデールおよびアシェット婦人画報社もこの部分に期待を寄せているのだろう。また、住商グループの各事業会社との連携により、雑誌やネットに留まらない「売り場」拡大なども考えているようだ。そういった観点ではグループでテレビ通販大手、ジュピターショップチャンネル(JSC)などとも連携し、新設する各種ECサイトの商品をテレビ通販で拡販する考えもあるようだ。「実は約2年前からJSCでアシェット婦人画報社の雑誌と連携した通販番組を行ってきた。今後も継続させていく」(大橋氏)としている。
 住商とラガルデールは今回の業務提携によるネット販売事業で4年後をメドに100億円の売上高を掲げている。この数字が4年後に、超えられない大きな壁となって両社に立ちはだかるのか。または、一足飛びに超えられる数字になるのか。現時点では知る由もないが、すべてはEC事業において、ラガルデールおよびアシェット婦人画報社から下駄を預けられた住商の力次第と言えそうだ。

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