2009.2 無料公開記事      ▲TOP PAGE


中国の消費者に「安心」アピール

顧 しょうた SBIベリトランスマネージャー




中国が巨大市場として魅力的な存在であることは今さら説明するまでもないだろう。通販企業にも、販売拠点として中国へ進出する動きがここ数年で加速度を増している。ただ、通販の場合、不安材料となるのは決済や配送。日本の商社や現地の販売代理店と組んで海外進出しているケースも見られるが、それなりの投資が必要となってくるだけにリスクもつきまとう。こうした中で、三井住友カードとSBIベリトランスは、1月から日本の商品を販売する中国人向けの仮想モール「バイジェイドットコム」の運営を開始する。ネット販売企業にとって、中国のネット販売市場は本当に魅力的なのか。SBIベリトランスの顧氏に聞いた。(聞き手は本誌・川西智之)


■優良顧客にアプローチ

――中国のネット販売市場の現状を教えてください。


中国のネット人口はすでに世界一ですが、近い将来には3億人を突破するのは間違いありません。ネット販売に関しても急激に伸びており、日本にはまだまだ及ばないものの、年間1兆円規模と推定されています。3〜4年後には日本の市場規模を超えるとの予測もあります。

――これまで日本の商品を販売する中国人向けの仮想モールはなかったのですか。


郵便事業の運営する仮想モールを筆頭に、存在はしたのですが、決済手段がクレジットカードに限られていました。バイジェイは中国の決済システム「銀聯(ぎんれん)」を利用しているのが最大の特徴です。また、これまでの仮想モールは、機械翻訳を使っていることが多いのです。ネット販売は実際に物を触れないだけに、翻訳は大きな意味を持っており、バイジェイではプロの中国人翻訳者による翻訳を行います。

――なぜこの時期での参入を決めたのですか。


 中国のネット販売が伸びている時期で、中国銀聯もパートナーを探している。さらには中国の消費者が安心・安全を求めており、国内消費の冷え込む日本の企業は新たな市場を探している。まさに新事業を始めるには今しかないと思っています。

――そもそも、銀聯とはどういった決済システムなのですか。


中国の主要銀行が参加して作る、日本で言うデビットカードに近い「銀聯カード」を使った銀行決済です。つまり、消費者が注文した時点で口座から代金が引き落とされます。中国はクレジットカードの普及が遅れているため、デビットカードが主流なのですが、銀聯のネット決済サービスは、香港を除いて世界で初となります。そのため、中国銀聯からも強いバックアップを約束されており、非常に心強く思っています。中国銀聯の発行しているカードは18億枚を突破しており、そのうちネット決済ができるカードは2〜3億枚です。ネット販売の普及速度からみても、近い将来には大半のカードが対応するのではないでしょうか。また、中国銀聯の支援により、ゴールドカードを持つ顧客にダイレクトメールを送るなど、優良顧客へのアプローチを行うことができます。

■家電、美容関連が売れ筋に?


――三井住友カードとSBIベリトランスの役割分担は。


当社は決済システムやサイトの運営、通関手続きなどを担当、中国銀聯の日本でのパートナーとなる三井住友カードは、中国銀聯や加盟店の窓口を請け負う形です。これまで当社は決済サービスのみを提供している会社でしたが、今回はサイトの更新、プロモーション、物流・配送、サポートまでをトータルで手掛けます。実際のサイトの運営に関しては、当社の出資会社でもある、ネット販売の運営代行を手掛けるエフカフェが行います。また、中国での顧客窓口は、当社と取引ある企業が担うことになります。

――サイトのオープンはいつになりますか。


1月26日にサイトを開設しますが、全く新しい取り組みということで、問題点も出てくるのではないかと考えています。ですから、まずは当社がテスト運営を行い、出てきた問題点を潰していくとともに、どういった商品が売れるのかといったリサーチも行います。4月1日からは加盟店も参加する形となる予定です。

――出店するEC事業者は決まっているのですか。


セシール、ヨドバシカメラ、マツモトキヨシなどには非常に前向きに検討してもらっています。本サイトのオープン時には10社以上になるのではないでしょうか。自社のリソースを使って中国進出をしようとした場合、投資や人的資源の投入が必要ですし、リスクも背負います。モールへの参加はリスクヘッジにもなりますから、「どういった商品が売れるのか」という実験も可能です。こうした点もアピールしたいですね。また、できたばかりのサイトですから、過当な価格競争が起きないように配慮します。今後は当社が決済サービスを提供する企業や、三井住友カードの顧客にもアプローチしていきます。

――どういった商品が中国では売れるのでしょうか。


家電や、化粧品などの美容関係でしょうね。最近は新宿などでも中国人の観光客は多いですが、ドラッグストアのお客さんがすべて中国人ということもあるくらいです。また、中国でも「ファッションの個性化が進んでいて、今後は「他人が着ていない服が欲しい」という流れがますます強まるでしょうから、ファッションでもバイジェイが流行の発信源になれるのではないでしょうか。

――日本の企業からの反応はいかがですか。


良い反応はかなり来ています。ただ、これまでにないサービスだけに、しばらくは様子見したいという気持ちもあるようですね。中国のネット販売について理解が深まってくれば、もっと手を出しやすくなってくると思います。ですから、中国への進出がしやすくなるような流れを作り出すのが、当社の責任だと思っています。実のところ、ニュースリリースを発表する前は色よい返事が得られないこともあったのですが、発表後は一変して、「サービスの概要を聞かせて欲しい」という問い合わせが多くなりました。

――出店料などの価格設定を教えてください。


初期費用が60万円、月額20万円弱を予定しています。また、モール利用料が売り上げの5%、銀聯の決済サービスの利用料が数%となります。販売する商品に関しては、基本的に何を売っても問題はありませんが、生ものは輸送できませんし、審査も必要となります。

■「直接購入」がメリットに


――顧客への対応はどういった形で行うのですか。


中国にカスタマーサポートを用意します。基本的には、商品に問題が無ければ返品は不可、瑕疵(かし)があったと認められた場合には返品、交換を行うという形です。

――受注と注文の仕組みは。


参加企業は、商品のデータさえ提供すれば中国市場への進出が可能となります。注文が入るとデータが加盟店に送信され、いつまでにどの商品を入庫すればいいかを指示します。そこから、EMS(国際スピード郵便)を使って空輸するわけですが、早ければ翌日に届けることも可能です。他の物流サービスの場合、配送可能な地域は北京や広州など大都市に限られますが、中国全土に配送できます。中国の富裕層は大都市に限られていると思われがちですが、実はそうではなく、地方在住でも成功している人は多く、地方に住みながら大都市で投資を行っているのです。こうした消費者をターゲットにできるのは大きい。

――ターゲットは富裕層ですか。


 確かにそうなのですが、中間層でも買い物にお金をかける人はたくさんいますし、「どうしてもこの商品だけは日本製が欲しい」という人もいますから、そうした人たちも取り込んでいきたいですね。

――日本の商品に対する潜在的な需要は高い。


日本の商品が欲しい人は非常に多いのですが、現状では日本に行ける人に買ってきてもらう「購入代行サービス」を利用するのが主流です。ですが、一度第三者の手に渡りますから、消費者としては不安なわけです。今回のサービスの最大のメリットは、直接購入できることです。「安心・安全」をモットーに、バイジェイで買えば絶対に本物が届くというメリットが消費者に浸透していけば、サイトの価値も高まると思います。私の知り合いの中国人にも日本の商品が好きな人が多いのですが、日本のどんなサイトを見るのかと聞いてみたところ、「価格.comだ」との答えが帰ってきました。もちろん日本語は分からないのですが、興味があれば言語の壁はあまり気にならないのですね。

――価格設定は高めになるのでしょうか。


一般的な消費者にとっては高めに感じる設定になると思います。ただ、富裕層の母数は多いですし、中国人は日本人と比べると、経済の発展が遅れた分、まだまだ物欲が強いように思います。

――中国ではこのニュースをどのように受け止めていますか。


ネットユーザーの間では大騒ぎになっています。「安心・安全」に対して中国の消費者は敏感なんですね。中国で日本の商品を買おうと思ったら偽物だったということは多いですし、最近では大手メーカーの粉ミルクを飲んだ乳児が相次いで腎臓結石になるという大事件も起きています。「安心・安全」というイメージの強い日本の商品に対する需要はかなりあると思います。

――どういったプロモーションを展開しますか。


まずは中国国内での知名度を上げることが先決です。当社が運営する、銀聯カード加盟店を紹介するウェブサイト、「傑街同歩(ジェイジェストリート)」での宣伝を行います。中国の観光客がターゲットのサイトですが、トップページやお店のページからバイジェイにリンクを張る形を考えています。その他、リスティング広告や旅行代理店との連携も行う予定です。来日した中国人にも無料のチラシやパンフレットを作成して配ったり、無料の地図に広告を掲載したりするなどの形でアピールしていきたいですね。また、その他のプロモーションとしては、メールマガジンを発行するほか、中国で発行するフリーペーパーへの広告掲載などを展開する予定です。

――売り上げ目標や今後の目標を教えてください。


期待も込めて、初年度40億円。さらには参加企業100社を見込んでいます。ただ、まずはスムーズな運営体制を築くのが先決で、確立すれば一気に売り上げも伸びるのではないでしょうか。中国人は世界中に散らばっていますし、バイジェイがスタンダードになれば、途方もない人数の消費者が銀聯カードを使って買い物をすることになります。また、中国で物が売れることが分かってくれば、出店者もモールを離れて独自のサービスを構築する動きが出てくるでしょうから、本業である決済ツールだけを提供する形も考えています。

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