2009.1 無料公開記事      ▲TOP PAGE


靴のECに「試し履き」で攻勢

太田 理加 アマゾンジャパン アパレル&シューズ シニアマネージャー




送料返品無料――。アマゾンジャパンが「靴」と「鞄」に特化した通販サイト「javari.jp(ジャヴァリ・ドットジェイピー)」を立ち上げた。取り扱う商品はすべて翌日に無料配送。しかも30日以内であれば、返品も無料対応する。あえて本サイト「amazon.co.jp」とは別の専門サイトを作り、「靴と鞄」のECに攻勢をかけるアマゾンの狙いと思惑とは。新サイト「ジャヴァリ」を統括する太田アパレル&シューズ シニアマネージャーに目的や今後の展開について聞いた(聞き手は本誌・鹿野利幸)


気になった商品をとりあえず注文して気に入ったものだけ購入して欲しい

立ち上がりは「すごく良い」


――11月27日に靴と鞄のECサイト「ジャヴァリ」を立ち上げてから、数週間が経ちました。出だしはいかがですか。


 具体的な数字は申し上げられませんが、「すごく良かった」と言えます。

――「すごく良かった」理由についてはどう分析されていますか。


 やはり、送料返品が無料というのが大きいとは思う。また、本当にうれしいことに、開始前に恐らく20代、30代の女性の方が多く「ジャヴァリ」に来て頂けるのではないかなと考えていたのですが、現状、当社が考えていた通りのお客様が多く買い物に来て頂いています。「ジャヴァリ」も「amazon.co.jp」(以下、アマゾン)と同様に、カスタマープロファイルを採っていないので、詳しくは分かりませんが、売れている商品を見てみると、20、30代の女性を対象に作られている商品が非常に動きが良いので、お客様に一定のご評価を頂いている部分もあるのかなと思っています。

――アマゾンジャパンはこれまで本から始まり、様々な商材への取扱ジャンルを広げてきました。ただ、それは本サイト「アマゾン」内でのことでした。今回、靴と鞄だけ、別サイト化したというのはなぜですか。


靴とバッグに関しては、07年10月からアマゾンの中でも、取り扱いを開始していました。そこでなぜ、別サイトにしなければならなかったということですが、やはり、アマゾンではお客様にとって満足のいくサービスがご提供できないから、というのが一番の大きな理由です。
例えば、「ジャヴァリ」では当然、靴やバッグなどのファッションアイテムを販売していますから、お客様には商品の詳細が見て頂けるように、商品画像を拡大できる「ズーム機能」などを実装しています。ただ、そういうような仕組みをアマゾンの中で"靴だけ"に取り入れるわけにはいきません。
また、今回の「ジャヴァリ」の特徴でもある返品送料無料ですね。これに関しても同様です。無論、アマゾンの中でも一部、実施しているんですが、我々としては「お客様に本当に返品していいんですよ」というメッセージをクリアに伝えたかった。そのためにはやはり、アマゾンではなく、新しいサイトを作る必要がありました。
また、「靴」はファッションアイテムの1つですよね。やはり、(ユーザーにとって効果的な)サイトの作り方もしくは見せ方は、アマゾンと全然、違うんですね。ファッションアイテムの場合は、ウインドウショッピングみたいな見せ方と言うか、例えばバナーを使って、様々な商品を見せることなどが必要だと思うわけです。
アマゾンのサイトの作り方は、本や家電などスペックで買うものについては非常に優れていると思うのですけれど、そうではないもの、例えば、今回のファッション関連商品などについては少し、違うかなと。そういった意味で、「今回は別サイトで」ということになりました。

――ただ、これまで様々な商材を増やしていく過程で、今回の靴や鞄と同じように「見せ方」に関して、本サイトとは別にした方が良い商材も少なくなかったと思いますが。


 今までの商材カテゴリですと、アマゾンの中で(対応が)可能なものが多かったんですね。例えば、家電などはアマゾンの中で良い機能を付け加えることができていたので、別サイト化せずに、アマゾンの中で「ワンストップショッピング」で販売させて頂いています。この「ワンストップショッピング」というのはお客様にとっても、利便性が高く、そちらをお好みの方は「アマゾン」をご利用頂くということで、今回の「ジャヴァリ」で販売している商品はすべて「アマゾン」でも同じものを販売しています。

送料返品無料で「儲かるのか?」


――送料返品が無料というのが「ジャヴァリ」の1つの"売り"です。特に靴に関しては、「履いてみなければ分からない」場合が多く、消費者の購買を喚起する訴求力のあるサービスです。ただ、他のEC事業者ができなかった理由は恐らく膨大なコスト負担や作業が必要になってくるからだと思います。率直に言って、「ジャヴァリ」は儲かるのでしょうか。


 その答えになるかどうか分かりませんが、アマゾンの方針として、いつもお話させて頂いているのは、「品ぞろえ」「利便性」「価格」を3つの柱にしています。送料返品無料というのはある意味、「価格」に入るんですね。それを実現するために、我々はなるべくローコスト運営をさせて頂いています。今後、靴やバッグの品ぞろえを増やし、それによって多くのお客様に来て頂いて、そこでまた、よりよいサービス、プライスをご提供すると、また、トラフィックが増えてと。儲けや利益がどれくらいの目標かということはお話できませんが、ビジネスとして十分に成り立つと思いますし、成り立つように運営していこうと思っています。

――ちなみに返品というのはどのくらい出てくると想定していますか。


 凄く正直にお答えすると、返品がどのくらいあるかというのは、ある意味、予想を立てていませんでした。もちろん、「エンドレスドットコム」(※米アマゾンが06年12月に立ち上げた「靴」と「鞄」の専門通販サイト)や本サイトのアマゾンの数字を見たりなどして、ある程度の予想はありましたが。

――では、「ジャヴァリ」オープン後、また間もないですが返品は実際どのくらいだったのでしょうか。


具体的な数は言えませんが、たくさん返品をして頂けました。つまり、我々が「"ジャヴァリ"をこんな風に使って頂きたいな」と考えていた通りに、実際、お客様にご利用頂けたということだと思います。

――想定していた「使い方」とは。


気になる商品をとりあえず注文頂いて、「試し履き」して頂き、気に入ったモノだけを購入し、あとは返品してもらうという形ですね。「ジャヴァリ」を立ち上げる前に色々と調べたのですが、日本のお客様は本当に返品したがらないんですね。今回、蓋を開けてみたら、そうなっていって、本当に良かったなと思いました。もちろんビジネスが大きくなってくれば、作業は煩雑になっていくでしょう。ただ、我々としてはビジネスを続けていく以上、それに対応できるような仕組みを作っていけばよいと思っています。

――靴の無料返品というのは分かるのですが、鞄にもそれは必要だったのでしょうか。


 お客様に「靴はいいけどバックは駄目」というのはちょっとおかしいですし、バッグに関しても「かわいいけれども、持ってみたら、バランスが悪い」ことも結構、あるんですね。そういう意味ではバッグも返品無料というのは、やるべきことだろうと思いました。
アパレルはまだまだ先。まずは靴の品ぞろえをアグレッシブに増やしたい

米国と日本は別物


――今後の「ジャヴァリ」の方向性について伺いたいのですが、取り扱う商材を拡充していく予定はあるのでしょうか。


 まずは靴とバッグから始めた訳ですが、将来的に我々が(靴とバッグで)十分なサービスができるようになった段階で、商品やカテゴリーは随時、増やしてもいいのかなとは思います。

――商材拡充の方向性という意味では米アマゾンが運営する同じく「靴と鞄」をメーンとした通販サイト「エンドレスドットコム」では靴と鞄以外の商材は取り扱っていないのでしょうか。


 いくつか小物をやったりしていますね。サングラスを始めたりとか。ただ、品ぞろえの方向性は国によって違うと思います。やはり、その国にあった品ぞろえやサービスが必要ですし、必ずしも「エンドレス」と同じような形で取扱ジャンルを拡充していくようになるとは思っていません。

――商品に関して言うと、現状は自社仕入商品のみを「ジャヴァリ」で取り扱っています。ただ、アマゾンの本サイトでは「マーチャント@」(※アマゾンの仮想モール)の参加企業が販売する商品も取り扱っていますが、今後、「ジャヴァリ」でも「マーチャント@」商品を取り扱うことはありますか。


 今のところ、正直、そこまで考えていません。ちなみに「エンドレス」でも「マーチャント@」商品は販売していません。

――ファッション関連の商材となると当然、アパレルも視野に入ってくると思いますが。


 今はまだ、靴の品ぞろえも完璧な状態ではありませんし、まずはそちらにフォーカスしたいと思います。

――現状の課題はありますか。


 サイトを開設してからお客様からすでに様々なフィードバックを頂いています。中でも一番、多かったのは(靴の)幅による検索。これは「ジャヴァリ」にはまだないものですので、近いうちに導入しようと思っています。このように日々、機能の追加など色々なところを改善していこうと思います。あとはカスタマーレビューも近々、入れていきたいですね。

――チャン社長は「ジャヴァリ」の記者会見の席で、「オンラインで見た場合、靴と鞄に関して、大きな競合はいない」とコメントしていましたが、ご自身は靴や鞄を含めたファッション関連商材のEC市場をどうご覧になっていますか。


 アパレルを含めたファッション関連市場は大きいのですが、やはり、EC化はそれほど進んでいないと思います。

――では、既存のファッション関連商材のEC事業者の力はまだまだということですか。


 そうだと思います。個人的にはもう少し品ぞろえがあるサイトがあってもいいのではないかと思います

――「ジャヴァリ」の初年度の成功ラインは。


 売上高というより「どれだけ商品を増やせたか」とか、「どれだけ(お客様に良い)ショッピング経験をしてもらえたか」というものを持って成功、不成功を決めたいですね。

――では、「どれだけ商品を増やせたか」という部分ですが、初年度はどの程度まで拡充する計画ですか。


 スタート時点では300ブランド、3400スタイルです。実数は公表はできませんが、かなりアグレッシブに増やしていきたいと思います。

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