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モバイルで動画通販が本格化
――大手TV通販企業などが本腰へ





パケット通信料の定額制が各携帯電話キャリアで導入されて以降、その活用が期待され続けてきたものの、いまいち進まないでいた「動画」を活用したモバイル通販――。その理由の1つは技術的な問題で、一般的にモバイルで動画配信する場合、ドコモの動画配信技術「iモーション」などを活用するが、この場合、映像配信の上限は1分程度と短い。これではせっかく訴求力の高い動画の効果も限定されてしまう。また、動画のアップ作業も手作業が一般的で、サイトの運営側の負担も大きかったようだ。
しかし、ここにきて時間に制限なく長尺な動画がモバイル上でも配信することが可能になった。また、それに伴うコスト負担や手間なども軽減されていきているようで、「映像での通販」を得意とするテレビ通販企業などがまず積極的な動画モバイル通販に本腰を入れ始めているようだ。
「まだモバイルで動画を見て、ショッピングを行なうというニーズはない」と話す大手EC事業者幹部も多い。確かにそうなのかも知れない。ただし、その時期は近いと見る事業者もまた多い。来るべき「動画によるモバイル通販の隆盛」に備え、今のうちから準備が必要なのかも知れない。すでに動き始めたネット販売実施企業2社の現状を見てみる。

テレビ通販大手、QVCがモバイル通販に「動画」を導入へ

CS放送で通販専門放送を行うQVCジャパンが09年11月1日から、同社のモバイル通販サイト上で「テレビ通販番組」の配信サービス「モバイルQ!LIVE」を開始した。通販番組の視聴を希望するユーザーは同サイト内から無料の動画再生アプリをダウンロード。するとQVCがテレビで放送する通販番組映像をライブで視聴できる。また、サイト上の番組表や商品詳細ページから番組ごと、商品ごとのビデオオンデマンド方式で過去1カ月以内に放送した通販番組も視聴できる仕組みだ。
ライブ放送の配信に対応するのはNTTドコモとソフトバンクモバイル。パケット通信のデータ量に関するルールがあるauはライブ放送配信はなく、番組・商品ごとの動画配信のみとなる。

スポーツ中継などにも使われる動画配信技術を活用

QVCは今回の映像配信のため、アクアキャストが提供する携帯電話向け動画配信サービス「メディアキャストムービー(MCM)」を通販企業としては初めて本格導入した。QVCは過去にも「iモーション」を使った映像配信を行なった実績があるが「配信できる映像が短く、また手作業で画像をアップしなければならず遅れがち。視聴者のニーズや作業負担を考えて休止した」(同社)としている。
MCMの場合、モバイル上でスポーツ中継などにも使用される独自映像配信技術。高精細な映像を高速かつ、QVCのような24時間の長尺な映像配信もできるようだ。QVCはMCMの導入で自動的にテレビ通販番組映像を携帯電話上で配信でき、リアルタイム性や作業負担軽減も可能となるようだ。
QVCによると、同社の総売上高に占めるネット販売売上高は2割で、およそ150億円程度と推定される。このうちのモバイル売上高は明らかにしていないが「特にモバイル通販の伸びは高い」(同)。これまでモバイル通販サイトでは映像配信は基本的に実施しておらず、静止画による商品紹介を実施してきたが、訴求力の高い「動画」を付加することで、モバイル経由での売上高拡大を図る。また、持ち運びが可能なモバイル上での番組配信で「いつでも自由に番組を見て頂ける」(同)として、テレビ以外の番組視聴機会の拡大も図る狙いがあるようだ。

ジェムスロンドンも携帯で通販動画の配信を開始

QVCジャパンと同様、携帯電話上での動画配信を開始したのは同じくテレビ通販を行なうジェムスロンドン。同社は11月11日にモバイル通販サイトを開設し、展開する通販番組のリアルタイム動画配信「GemsTVリバオクケータイ」を始めた。動画視聴専用のアプリケーション「jig(ジグ)ブラウザ」を使用し、2つの専門チャンネルで生放送するオークション通販番組「リバースオークション」をリアルタイムで24時間配信する。なお、同社によれば使用するアプリケーション「jig」はパケット定額に対応し、ドコモ公式動画「BeeTV」の再生にも使用されているという。
モバイルサイトのトップページに番組視聴のリンクを設置。アプリケーション実装済みの端末であれば、リンクボタンをクリックするだけで動画を再生することができる。携帯電話の5ボタンを押すと、専用のコールセンターにつながる仕組み。対応する端末はNTTドコモのみ。
動画配信開始の狙いは通販番組の視聴機会の拡大と、それに伴うモバイル通販売上高の拡大だ。同社では現状、スカパーやケーブルテレビなど13局でジュエリーのテレビ通販番組を生放送するが、テレビ番組を視聴できる環境が限定されていた。時間や場所を制限しない携帯電話で動画配信し、購入機会を拡大したい考え。
まず、自社のテレビ通販番組内で告知するほか、モバイルサイトに広告を出稿し、モバイル通販サイトの認知度を高める。今後、ドコモの公式サイト化を図っていく計画で、iモードの動画メニューからの集客も期待する。これにより、50代を中心とした従来の顧客層から30代女性へとターゲットを広げる狙い。半年〜1年をメドに、売り上げを現状の2倍に拡大する計画。
今後は携帯専用放送なども開始する予定でますます携帯電話で映像を見る機会は増えてきそう。テレビ通販事業者に限らず、強い訴求力を持った「映像」を活用した動画モバイル通販が進みそうだ。【編集部・鹿野利幸】

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