2009.12 無料公開記事      ▲TOP PAGE


健康食品表示制度の見直し議論

――ネット販売事業者への影響は?




「サイト上でもっと商品の魅力を伝えたい」――。限定的な広告表示しか許されないことに頭を抱える、健康食品を販売するネット販売事業者は、消費者との距離を縮めることができるかもしれない。健康食品の表示規制が変わる可能性があるからだ。消費者庁は今年10月、花王の販売する「エコナクッキングオイル」を巡る一連の騒動を受けて「『特定保健用食品(トクホ)』を含む健康食品」について検討会の発足を決定した。これまで範疇があいまいだった健食に表示制度が整備されれば、産業の育成を後押しすることにある。だが、どうやら事業者に逆風が吹くことになりそうだ。消費者庁が音頭を取ることは、同庁が所管する「健康増進法」(健増法)の表示規制強化を嫌が応にもイメージせざるを得ないからだ。現実のものとなれば、行政にとってネット販売事業者は最も手頃≠ネ標的となる可能性も高い。これについては後段で述べるが、ネット販売事業者は今後行われる検討会の動静に注意する必要がある。



過去の成り立ちまでさかのぼり制度改革

「トクホ制度が成立した経緯まで遡り議論する」。今年10月、健食制度の見直しを発表した消費者庁の大島敦副大臣の発言に健食業界は色めき立った。過去の経緯に遡る――健食業界にとってこの言葉は、長年に渡る行政との表示規制に係る闘争を意味するからだ。
周知の通り、健食には明確な定義がない。呼び方1つとっても「サプリメント」「健康補助食品」「機能性食品」とさまざまだ。
こうした健食に制度が設けられたのは1991年。病人や妊婦、乳幼児向け「特別用途食品」の一分野として特定の保健用途表示を認める「トクホ」制度が確立された。01年には医薬品にだけ認められていた錠剤・カプセル状などの形状規制が撤廃され、国が指定するビタミンやミネラルなどの栄養成分を一定量含む「栄養機能食品」と個別審査型の「トクホ」を合わせ「保健機能食品制度」がスタートした。
なぜ、過去の経緯に遡ることが重要な意味を持つのか。業界はこれまで、こうした制度改正に向けた幾度に渡る検討会で、厚生労働省の中途半端な改革に煮え湯を飲まされてきたからだ。
端的な例は05年に創設された新「トクホ」制度。試験ハードルの高い「トクホ」に不満を持つ事業者の声を受けて検討会が持たれたが、結果として出来たのは若干ハードルを下げた「条件付きトクホ」など。これまでの許可件数はわずか1件で、健食は常に蚊帳の外に置かれてきた。
このように、まさに牛歩の歩みで制度改革を進めてきた業界にとって、再び腰を増えた議論が行えることはまさに悲願といえ、新制度創設へと期待は膨らむ。

健食制度化阻む「消費者委員会」の存在

検討会は、11月中にも第1回会合が持たれる。月1〜2回のペースで行い来年3月をメドに論点を整理する。ただ、これまでと違うのは、検討会ののち、「消費者委員会」が引き継いで再度検討するという点だ。
従来、厚労省所管の下で行われてきた検討会の結論は、満足のいくものではなかったものの、そのまま政策に反映されてきた。一方、今検討会は最後に消費者委員会での審議が待っている。「(健食の制度が創設されるなど)業界がイメージするような良い結果が得られるとは思えない」というのが検討会メンバーに内定した業界関係者の見方だ。
消費者委員会の健食に対する考えはどうか。
雪印乳業の社外取締役で元全国消費者団体連絡会事務局長の日和佐信子氏は「(健食は)気休めだと思う。日常の食生活を改善すれば必要なものではなく、(一定レベルで)流通自体を規制するということもあり得る」と話す。
主婦連合会事務局長の佐野真理子氏もエコナを例にトクホについて「グレーゾーンでいながら国が認めているのはおかしい」とゼロリスク≠念頭に疑問を呈す始末。常にグレーゾーンにある健食ならばなおさら指摘が厳しくなることは明らかで、健食は門外漢≠ニもいえるメンバーに過保護ともいえる消費者視点から審議されることが想像に難くない。

消費者庁の狙いは健康増進法による規制強化か

では、実際どのような検討が行われることになりそうか。ここではネット販売で取扱いの少ない「トクホ」ではなく、「健食」について触れる。
消費者庁が「あくまで一例」としながら挙げるのは健増法第32条の2「誇大表示の禁止」の実効性確保に向けた議論だ。
周知の通り、健食は厚生労働省が所管する「薬事法」や「健増法」(現在は消費者庁に移管)、公正取引委員会が所管する「景品表示法」(同)など、あらゆる法律、行政機関から監視の目を向けられてきた。
だが、その中で消費者庁が所管することになった「健増法」は厚労省時代を通じて処分実績「ゼロ」といういわばザル法=B規制対象とする広告表示は「著しく事実に相違する表示」というものだが、その判断基準は、「消費者が広告から認識する効果の印象と効果が違う場合」と、とかくあいまいなもの。身体組織に対する作用の標ぼうした場合に医薬品とみなし規制する薬事法と比べその差は歴然としている。
さらに運用は、事業者への「勧告」ののち、従わないケースに対して「命令」「罰則(6月以下の懲役か100万円以下の罰金)」と段階的に強化されるため、口頭指導で終わるケースしか存在していないのが実態だ。
消費者庁では「以前から実効性のないことが指摘されており、健増法の射程範囲を明文化するだけでも表示の適正化は進むのでは」(平中隆司食品表示課課長補佐)とする。
これまでも通知レベルで「ダイエット食品」「バイブル商法」など限定して対象範囲を明確にしてきたが、従来の所管であれば薬事法で事足りていた。が、消費者庁に移管された今、同庁が実効性確保によって「庁益」の拡大を図ろうと目論むことも考えられる。さらにその場合、最も手頃≠ネ標的がネット販売事業者となる可能性がある。

最も監視しやすい「ネット広告」

なぜ、ネット販売事業者が標的にされるのか。消費者庁は「省レベル」の扱いながら、従来からある省庁と明らかに違うのはその陣容。既存省庁が数千〜数万人の職員を抱えるものもある中で、設立前から行政の肥大化≠ニ批判を浴びてきた消費者庁の人員はわずか200人と圧倒的に少ない。
そうした中で、数多ある新聞や雑誌、フリーペーパーに日常的に気を配るのが不可能に近いことは想像に難くない。となれば、執行対象のあたり≠つけるのに最も身近な媒体は「ネット」ということになるからだ。
これまで、景表法や薬事法とセットでしか根拠とされなかった、いわば落ちこぼれ≠フ健増法が実効性を持つことになれば、健食は厚労省と消費者庁、2つの行政機関の監視の目にさらされることになる。検討会の方向性が業界にどのような影響を及ぼすか。まだその行方は不透明なものだが、今後の事業の成長性を大きく左右することになる検討会だけに、ネット販売事業者はその動静を注視する必要がある。【編集部・佐藤真之】

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