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auがアパレル"直営"サイト開設

――公式よりも有利?! スタイライフに好機






KDDIは9月1日、セレクトショップなどのブランドを扱う、ファッションアパレルの"直営"通販サイトをモバイルとパソコンで立ち上げた。モバイルの「EZweb」では、「買う」のカテゴリー内に新たに「ファッション」を設け、そこを立ち上げた新サイト「au one Brand Garden(ブランドガーデン)」が独占している。auの「EZweb」トップページ(「au one」)から「au one ブランドガーデン」までわずか2クリック。最強の立地にキャリア直営のアパレル通販サイトが立ち上がった。
裏を返せば、既存のアパレル通販事業者にとって「au oneブランドガーデン」は巨大な競合サイトの登場となる。モバイル通販は現状、公式サイト入りが勝敗を分けているが、auに限っては、直営仮想モール「au Shopping Mall」しかり、今回の直営ファッションサイト「au one ブランドガーデン」しかり、公式サイト入りしても、キャリア直営サイトという巨大すぎる競合サイトに阻まれる可能性が高い。特に、「au one ブランドガーデン」で取り扱うブランドと、重なっているファッションアパレル通販企業は、顧客を奪われることにもなりそうだ。

スタイライフとの共同事業

新サイト「au one ブランドガーデン」は、ファッションアパレルの通販を専門に展開するスタイライフと共同で提供する。商品調達やサイト運営、受注、フルフィルメントなどにおいて、スタイライフの仕組みを利用。KDDIは「au oneブランドガーデン」の認知を高め、利用者を増やすための広告、PR活動を自社メディアなどを通じて展開する。
サイトで販売するのは、日本を代表するセレクトショップ「ユナイテッドアローズ」や「ビームス」、百貨店やパルコ、マルイ、渋谷109などに店舗を持つ、20〜30代に支持されている約80ブランド、5000アイテムとなる。

目新しさはない、しかし…

取り扱いブランドやアイテム数については正直、目新しさはない。サイトの目玉として大きくキャンペーンを張っている「ユナイテッドアローズ」にしても、ネット販売は「ゾゾタウン」「iルミネ」などですでに展開済みだからだ。80というブランド数も少ない。スタイライフが自社で行うネット販売では約300ブランド、ゾゾタウンにはその倍以上のブランドがある。
それでも、既存プレイヤーにとって「au oneブランドガーデン」は侮れないだろう。なぜなら、auユーザーに対してもっとも"好立地"に店を構えているからだ。
試しに、auのトップページから「ユナイテッドアローズ」と検索してみよう。なお、auの検索結果画面は「コンテンツ・商品」→「AD(検索連動広告)」→「EZwebサイト(公式サイト)」→「AD(検索連動広告)」→「ケータイ一般サイト(勝手サイト)」→「AD(検索連動広告)」→「PCサイト」→「AD(検索連動広告)」で表示される。その結果、「ユナイテッドアローズ」と検索すると、最上位の「コンテンツ・商品」内に「au oneブランドガーデン」、2番手に「ゾゾタウン」が出稿している検索連動広告、3番手にファッションのオークションサイト「クラウンジュエル」の順で表示された。これは、「au oneブランドガーデン」がなければ、「ゾゾタウン」が最上位表示になれた、ということだ。つまり、既存プレイヤーが取り扱うブランドで、それが「au oneブランドガーデン」にも取り扱いがあれば、どのサイトも「au oneブランドガーデン」の下位にしか表示されない、ということだ。
モバイル通販は現状、サイト来訪の導線をメルマガに依存しているため、「検索結果の表示順位」が直ちに、顧客を奪うことにはつながらないだろうが、メルマガを登録していない新規顧客に対しては、圧倒的に「au oneブランドガーデン」が有利といえそうだ。
なぜなら、「モバイルでも買える」ということがブランドのファンに認知されれば、取る行動パターンは大きく2つだ。1つはトップページから「買う」→「サービス」→「ファッション」の導線。2クリック目で「au one ブランドガーデン」が表示される。2つ目はトップページからのブランド名での検索。前述のとおり、検索を利用すると、どのサイトよりも上位に「au one ブランドガーデン」が表示されるからだ。

顧客情報流出はむしろ追い風?

今年に入り、通販サイトにおける顧客情報流出のニュースが絶えない。ネット販売利用者の相当数が「やっぱりネット販売は心配だ…」と思い始めているのではないだろうか。そうしたセキュリティー面でも、「au one ブランドガーデン」は万全だ。通話料金などと同時に通販代金の請求もされる「まとめてau支払い」が適用され、クレジットカード番号の入力が必要ないからだ。
「まとめてau支払い」はこれまでも、auの公式サイトには提供されてきた。ただ、通販事業者としては、KDDIに支払う決済代行手数料が高いため、「まとめてau支払い」を採用するかどうかはまちまちだった。実際、スタイライフも自社サイトでは「まとめてau支払い」を採用していない。
連日、顧客情報流出のニュースが流れるたび、「まとめてau支払い」が利用できるサイトの信頼度は上がりそう。「au one ブランドガーデン」もその一つとして、同業他社サイトとの差別化になりそうだ。
さらにKDDIは9月7日、「まとめてau支払い」の利用限度額を10月20日から、3万円から5万円へとアップすると発表した。これにより、「au one ブランドガーデン」が取り扱う、価格帯の高いブランドの秋冬アイテムの購入にも対応できる。例えば、「ユナイテッドアローズ」には3万円台のスーツジャケットなどがラインアップされているが、従来の利用限度額のままでは、「まとめてau支払い」で購入できない。本格的な秋冬シーズンを迎えるに当たって、単価の高い重衣料の販促にも一役買いそうだ。

パソコンでの利用は未知数

その他、細かいところでは、KDDIが9月3日から着せ替えシミュレーション機能を拡充した「EZ MYスタイリング」にて、着せ替えシミュレーション通りの実物商品を「au one ブランドガーデン」で購入できる。現在は「ISBIT」「nano・universe」「PinkyGirls」の3ブランドが対応。近々、「Smacky Glam」においても対応する予定とする。ただ、このサービスは以前、「auショッピングモール」で提供されていた。しかし、リニューアルと同時にサービス終了となった経緯がある。
また、「au one ブランドガーデン」はモバイルだけでなく、パソコンのポータルサイト「au one」にも開設した。直営仮想モール「auショッピングモール」の場合は、パソコンでは商品の検索や閲覧のみが可能で、購入は携帯サイトに限定している。一方、「au oneブランドガーデン」では、パソコンでも購入が可能となる。ただ、パソコンで「au one」へアクセスするのは、auユーザーでも少数派と思われるため、パソコン対応の効果は未知数といえそうだ。

スタイライフは再浮上の足がかりに

「au one ブランドガーデン」の共同運営者であるスタイライフは、この事業で赤字脱却を狙う。これまでもKDDIと共同でサービスを立ち上げた企業、例えばディー・エヌ・エー(「auショッピングモール」)やグリー(「EZ GREE」)が、大躍進を遂げているからなおのこと期待がかかっている。
「au one ブランドガーデン」では、スタイライフ単独では開拓できなかった新規ブランドの取り込みや、男性層の開拓につなげる。それにより、中期目標である売上高100億円の早期達成を目指す考えだ。【編集部・小西智恵子】




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