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モバイル競売3社、EC事業者の取り込み強化で新たな動き






モバイルを含むネット競売サービスを展開する大手3社がEC事業者の取り込みを狙い、新たな動きを活発化させている。もちろん、ネット競売といえば、CtoC、つまり個人間取引が基本だ。ただ、一方で多くのユーザーが商取引を行う「活発な売り場」であるネット競売をECの販路として活用する事業者も多いことは周知の事実だろう。
事業者の競売活用が増えれば、質の高い商品の出品や出品数の絶対量などが大幅に増え、ユーザーも増える。これにより、競売サービス全体の取引総額も跳ね上がる。つまり、ネット競売サービスの運営者にとって事業者をいかに自分たちのモールに取り込むかは収益上、重要な問題だ。ただ、これまでは「個人対個人」という競売の原則を崩したくなかったのか、ネット競売を運営する各社によって、「事業者の取り込み熱」には温度差があった。しかし、ここに来て事業者の誘致を獲得すべく、各社ともサービスや仕組みを改善。本格的にEC事業者の取り込み策を強化してきたようだ。各社の自社競売サービスへのEC事業者の取り込み策の現状を見てみる。


「モバオク」で事業者の出品を解禁――DeNA

 
大手ネット競売サービスの一角であるDeNAは得意のモバイル領域で事業者誘致策を強めている。同社ではこれまでもモバイルを含むネット競売サービスの「販路」としての活用を積極的にEC事業者へ売り込んできた。そもそも仮想モール「ビッダーズ」では1つの販売手法として「競売」を利用できる。これはモバイル版の仮想モール「ポケットビッダーズ」でも同様だ。
では、モバイル領域で開始した事業者誘致策とは何か。それは同社が運営するCtoC競売サイトで日本最大級の規模を誇る「モバオク」でもこれまで原則、禁止だった事業者の出品を解禁したことだ。
DeNAは8月1日付けで「モバオク」で事業者の出店プラン「ストアオークション」を開始。「モバオク」は従来まで原則、事業者の出店および出品を認めていなかったが、今後は月額費を支払えば、モバオクのユーザーに向けて、事業者がオークション形式での販売ができるようになった。
「モバオク」への事業者出店のメリットは高い。というのも、「モバオク」はDeNAが運営するモバイルオークションサイトという側面のみならず、実はauの公式競売サイト「auオークション」という側面もあるためだ。「auオークション」はDeNAがKDDIと共同運営している形で名称やインターフェイスは異なるが、基本的に中身は同じだ。つまり、「モバオク」に事業者が出店すれば、それは携帯電話キャリアの公式競売サイトとして多くの携帯ネット利用者が目にする「auオークション」にも出店できるわけだ。「モバオク」「auオークション」を合わせた会員数、出品数は携帯競売サービスでは日本最大級。EC事業者は新たな「売り場」として注視する必要がありそうだ。
 ちなみに「ストアオークション」に契約すると、個人間での利用とは異なり、出品上限数は1000点(CtoCの場合は500点)まで拡大。また、複数の商品を一度に出品できる機能や、商品ページの編集機能などが利用できるようになる。
また、「ストアオークション」の月会費は1年契約の場合、1万5750円(半年契約は1万8900円)。ただし、「ストアオークション」単独の出店プランはなく、携帯仮想モール「ポケットビッダーズ」等のセット出店となるため、新規で出店するのには、「ストアオークション」の月額費に加え、別途、入会金として6万3000円、ショッピングサイト月額利用料として2万1000円が必要となる。そのほか、成約手数料として落札額の3.15%を徴収する。
なお、スタート時での「ストアオークション」の出店事業者数は約550店。今後、DeNAが展開する仮想モール「ビッダーズ」の既存出店者などを中心に出店を促し、早期に出店事業者を拡大していくとしている。

「通常配送」加え、ようやく"スタートライン"に――楽天


恐らくネット競売サービスを運営する大手3社の中で最もEC事業者の「販路」としての利用が少なかったと思われる楽天もようやく重い腰を上げて、スタートラインに立った。楽天のネット競売子会社、楽天オークションが8月1日付で、モバイルおよびネットで展開する競売サービス「楽オク」の配送方法に「通常配送」を追加したためだ。
これまで楽オクは競合と差別化を図るため、「楽天あんしん取引」と呼ばれる匿名エスクロー(仲介取引)を全取引に強いてきた。この取引方法は日本郵政のネット競売商品向け匿名配送サービス「あて名変換サービス」およびヤマト運輸の「オークション宅急便」を活用している。両サービスとも特別なサービスであるために、制限が非常に多く、事業者が販路として利用するのは難しい側面があった。
例えば、最低でも配送料が550円となるため、メール便では80円で発送できるCD等の小型商品の場合、7倍となり割高となってしまう。また、配送手段が日本郵便の「ゆうパック」「ポスパケット」およびヤマト運輸の「宅急便」に限られていたため、生鮮品などの発送ができなかった。配送できる商品のサイズや重量は3辺の合計が170a、重量が30`以内という制限があり、事実上、大型商品には対応していなかった。
楽オクのスタート直後から、利用者から「使いにくい」との批判を浴びながらも頑なに守り続けてきた「匿名配送」。その代償に楽天オークションの直近の決算(07年12月)の営業損失は18億4000万円(前年は9億円の損失)と赤字幅が膨らんでしまった。今回、「通常配送」を追加したことは、言わば楽天がこれまでのネットオークション戦略の失敗を認めたことになるが、楽天の戦略ミスはどうでもよい話で肝心なのは今後、楽オクはEC事業者の販路として機能するかどうか。
これについては8月から楽オクの配送方法に追加した「通常配送」で事業者の使い勝手という面では一定の改善が図られることになりそうだ。「通常配送」とは出品者と落札者が互いに住所や電話番号等の個人情報を明かし、やり取りを行ういわゆる通常の配送方法。これにより、従来の「匿名配送」では対応していなかった「メール便」や「クール便」が出品者は落札品の配送に利用できるようなる。また、大型商品の発送に関しても、制限がはずれ、「ヤマト宅急便」を利用することで可能となり、楽オクで出品できる商品ジャンル大きく広がることになる。郵政とヤマト以外の配送会社を使えないなど、まだ改善の余地は残るが、EC事業者が「販路」として活用できるものになりそうだ。
「通常配送」の追加のタイミングに合わせて、決済面でもこれまでのクレジットカード、銀行振込、楽天スーパーポイントに加え、9月からコンビニ支払い、ドコモケータイでの支払いを可能とする。加えてすでに仮想モール「楽天市場」では導入している補償制度「楽オクあんしん補償サービス」も開始。落札者および出品者が不正行為で損害を受けた場合、規定(通常配送利用時は落札価格の80%で上限は10万円。匿名配送利用時は落札価格と送料の合計について、上限30万円まで)に基づき、同社が保証金を支払う補償制度を導入し、安全性を担保した。これにより、楽天は事業者の誘致に加え、利用者数の底上げも図り、立ち遅れていたネット競売の再建を急ぐ考えのようだ。

9月に「ヤフオク」を刷新――ヤフー


現状、ネット競売サービスを運営する大手3社の中で出品数、流通総額ともにトップを誇る「Yahoo!オークション」を運営するヤフーも自社の競売サービスの強化の手を緩めていない。直接的なEC事業者の誘致策というわけではないが、9月中旬にも出品フォームと商品詳細ページをリニューアル(PC版のみ)する予定だ。
リニューアル後は商品詳細ページにおける商品画像をサムネイル表示と拡大表示の組み合わせ、見やすくなるようだ。また、「支払い」と「送料、商品の受け取り」が別項目として表示され、条件の確認や他の商品との比較をわかりやすくするという。
出品ページは出品商品のカテゴリー選択画面を改良。大カテゴリーを選択後、自動的にサブカテゴリーが表示される仕組みとし、カテゴリーの選択が容易になる。また、キーワードによるカテゴリー検索や履歴からの選択にも対応する。これに加えて、商品情報の入力画面に商品の状態と返品の可否、送料や配送方法などを表示する機能を追加する。
また、有料だった「即売価格」と、無料の「希望落札価格」をまとめて、「即決価格」として1つに統合し、無料で使えるようにする。「即決価格」とは設定した価格で入札されると即、落札される仕組みで、固定価格での販売も行えるようにする。
決済に関しても8月5日から、プリペイド型電子マネー(ジャパンネット銀行が提供する「JNB電子マネー」)による決済を導入。ネットバンキングを開設しなくても利用できるため、決済面の利便性向上のほか、商品到着後に決済を行う取引方式の利用を促すことで、ネット競売での詐欺等の消費者被害を防止にも役立てない考えのようだ。【編集部・鹿野利幸】




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