2008.9 無料公開記事      ▲TOP PAGE


"安心・安全"こそ最大の差別化

岡本 高彰 TradeSafe代表取締役




ネット通販をめぐるトラブルは後を絶たない。いかに良い商品、良いサービスを扱っていても、仮に情報流失の憂き目にあえば、ユーザーの信頼を失い、それを元に戻すには多額のコストと労力が必要になる。さらには、通販初心者にとっては「きちんと商品が届くのか」という不安がつきまとう。つまり、EC事業者にとって、"安心して買えるサイトであること"の証明は、収益に直結する最優先事項だ。こうした中で、通販サイトの信頼性を保証するサービスの運用を7月1日から開始したのがトレードセーフだ。マークの導入はショップにとってどのようなメリットがあるのか。岡本高彰社長に聞いた。(聞き手は本誌・川西智之)


"安心"を保証するサービスが必須となりつつある
消費者の"泣き寝入り"を防ぐ


――「トラストマーク」はどのような経緯で生まれたのですか。


私は、当社の親会社であるオプトで事業開発本部の責任者を務めていたのですが、今後どんな新規事業を立ち上げるべきかと考えたときに、思い当たったのが「安心・安全」を保証するサービスです。まずアメリカに調査に行ったところ、信頼マークサービスやADR(裁判外紛争解決手続き)など、ネット販売のトラブル解決に取り組む企業が多いことが分かりました。日本でも今後必ず必要になるだろうと考えて、ゼロからスタートしました。ネットは自由で可能性を秘めていますが、法規制が及ばない部分も多く、国の施策も後手になっている。弱い立場の消費者がおざなりにされているというのはどうしたものか、という思いもあります。

――どういったサービスなのですか。


 まず、一定の基準に基づき、ショップに「トラストマーク」を付与します。次に「ARDサービス」です。ADRサービス付きの信頼マークは日本で初だと思います。例えば「ショップが夜逃げしてしまい、注文した商品が届かなかった」というような場合、弱い立場である消費者側が泣き寝入りすることがほとんどです。会員がADRでは解決できないような事態を引き起こした場合は、10万円までの見舞金を支払います。ただ、補償に頼るのではなく、ショップに事故を起こさせないようにしていく必要があります。とはいえ、こうした「最終手段」は消費者へのアピールポイントになります。さらに、消費者が入力した電話番号を自動的にスクリーニングして、料金未払いの番号や架空の番号などに対して警告、「なりすまし」などを防ぐ、電話番号与信サービスを用意しました。

――親会社であるオプトの広告事業とリンクする部分はありますか。


広告を出してトラフィックを稼いだとしても、消費者が購入しない限りは無駄になってしまうわけですよね。コンバージョン率を上げることで「生きた広告」にする、つまりROI(投資回収率)をアップする事業になりうると考えれば、実はマーケティング的な性格が強いのです。

――ADR機能は必須なのですか。


単なる信頼マークの認証ではあまり価値がありません。何かトラブルがあったときに第三者が仲裁するというのは、クレーマーの問題などを考えるとショップにとっても重要なことではないでしょうか。例えば、日本通信販売協会(JADMA)の「オンラインマーク制度」や楽天市場にはADR機能がありません。

あくまで中立な立場から


――ショップの審査基準は。


数字を評価する定量的なものと、ショップの経験などを加味する定性的なものに加え、「特定商取引法」の記載がきちんとされているか、返品ルールが誤解を招く表記になっていないか、広告は適正かなど、サイトの表記チェックもします。決して落とすことを目的としたものではありませんから、ビジネスを行う上で最低限守って欲しいルールをガイドラインとしています。さらに重要なのがショップのモニタリングです。トラストマークの場合、各社のシステムとの連携を行っていますから、何か経営上良くない情報があればいち早くキャッチすることができます。ADRに関しては有限責任中間法人ECネットワークと提携し、仲裁をお願いする形です。なぜ当社が間に入らないかというと、当社がショップからお金をもらう立場ですから、消費者から見た場合中立とは言えないからです。

――コンバージョン率はどの程度上がると考えていますか。


一概には言えませんが、0.5%でも上がれば凄いことではないでしょうか。アメリカに当社と似たような立場の「BUYSAFE」という企業があるのですが、信用マークの付いている商品は、付いていない商品よりもコンバージョン率が高くなる上に、やや高い価格でもマーク付き商品の方が売れるという傾向があるそうです。実は、サービスを開始して間もないのですが、コンバージョン率が上がってきているというデータもあります。

――消費者はショップの信頼性を重視している、と。


消費者は「ショップが信頼できること」が重要であると考えているのですが、ショップ側はサイトのデザインや商品力、価格などにこだわりがちで、ミスマッチが生まれているように思います。「ここでしか買えない」という商品はほとんどないわけで、購入の選択肢はたくさんありますから、少しでも顧客に不安感を抱かれてしまうともう駄目です。嫌な印象を最後まで与えずに、いかに買ってもらうかが差別化のポイントになってくるのではないでしょうか。

――サービスに対するショップの反応は。


非常に好意的に受け止めていただいています。消費者にとって必要なサービスであり、今後の差別化につながってくるという声も強いです。すでに北国からの贈り物さんやスタイライフさんなど、業界のリーダーがサービスを導入しています。こうしたショップに、ある意味で模範となっていただき、消費者の安全を保証するサービスが必須になっていることを示していただければと考えています。

顧客に不安感を抱かせないショップが選ばれ続ける


導入企業増やし認知度向上へ


――マークの存在をどのように消費者に認知させるのですか。


まずは導入企業を増やすことが先決です。現時点ではASP事業者を通じた提供に力を入れています。ASPサービスにトラストマークのシステムを組み込み、提供するという形です。もちろん、マークが消費者に認知されることが大前提ですから、どこまで広められるかが重要となります。親会社がオプトですし、筆頭株主も電通ですから、さまざまな仕掛けができると思っています。単に資金を投入してテレビCMを流せば認知されるというものでもないでしょう。消費者に意図を理解してもらえるように試行錯誤していきます。

――ショップの倒産などによる消費者被害が仮想モールなどでも絶えません。審査基準やモニタリングに問題があるのでしょうか。


倒産や夜逃げという事態は避けられないものであって、銀行ですら予知できないわけですから、完璧にカバーするのは難しい。ただ、トラブルが起きたときに消費者が泣き寝入りをすることは避けなければいけません。消費者に支持されるサービスを提供することで、ショップへと還元されるという前向きなサイクルを作っていきたいと思っています。もう一つ重要なのは初動です。「商品が届かない」といった悪評があったときにすぐに対応することで、二次被害を食い止められるかどうか。当社の場合はシステム面での連携によるモニタリングや、ADRの設置などにより、スピーディーな対応をすることができます。

――マークの存在は消費者にとっても利便性は非常に大きい。


もちろん、消費者が100%守られるような制度ではモラルハザードが起きかねません。消費者やショップへの啓蒙活動も含めて、今後は官民が連携してインフラを整備していく必要があるでしょう。法規制だけを行ってもショップや消費者に届かなければ意味がないわけです。故意に法律を犯す事業者は排除されるべきですが、知らずに犯してしまう事業者は、業界や我々のような立場の業者が啓蒙しなければなりません。例えば、新しい法律ができたことをトラストマークのガイドラインに折り込み、実効性のあるものとして落とし込んでいく。逆に言えば、過度な法規制をさせないためにも、自主規制を機能させる必要があるわけです。実は、私は経済産業省の「迷惑メール規制に関する技術的論点WG」の委員を務めているのですが、官と民の橋渡しをするようなビジネスも課題と考えています。安全に関して努力する「グッドショップ」を消費者が選ぶ流れができれば、トラストマークを取得するショップも増えるでしょうし、消費者もマークを見て商品を買うようになるでしょう。

"安心"はお金で買えない


――広告表記に関しては、行政の監視の目も厳しくなっています。


アメリカの場合、ネット広告に対する自主規制があるのですが、日本はその地点に達していません。消費者の誤解を招かないような広告表記を啓蒙していきます。最近は「景品表示法」の適用も厳しくなっていますから、意図せずに法を犯し、排除命令を受けるようなことがあるかもしれません。ネット広告の分野も成熟化していますし、誰かがガイドラインを作る必要があるのでしょうが、誰もやらないのならうちがやろうかなと(笑)。

――モバイル向けサービスは。


今後はパソコンがモバイルに置き換わってくるのは必然ですが、モバイル通販では当社のサービスはさらに生きてくると思っています。なぜなら、ケータイで会社概要を調べることはまずないでしょうから、トラストマークを見て購入するという効果が出やすいのではないかと。早いうちにモバイル向けサービスを開始したいと思います。

――目標の加盟店舗数は。


プロ意識を持った「グッドショップ」を地道に増やしていくことが先決です。変にアクセルを踏んでクオリティーを落とすことだけはしたくないですね。現在は審査中も含めて20店舗程度ですが、まずは1年間で1000店舗を目指します。

――通販サイトの社会的な信頼性を高めるためには、今後どういった取り組みを行えばよいのでしょうか。


「顧客のことを考えた活動をしているショップの商品が売れる」という事実を作っていくしかないでしょう。もちろんショップへの啓蒙も重要ですが、経済的な合理性がなければ意味がありませんからね。購入への選択肢が多い時代ですから、顧客に不安感をまったく抱かせないショップが選ばれ続けるはずです。広告のトラフィックなどは、お金をかければいくらでも得られますが、"安心"はお金では買えません。これは、表記の方法、顧客サポート、クレーム対応など、試行錯誤の末に積み重ねたノウハウから生まれるものなのです。お金で買えない部分が今後は"差別化"として一番重要であり、そこを当社がサポートする。安心は付加価値であり、差別化につながることを広く啓蒙していきます。

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