2008.8 無料公開記事      ▲TOP PAGE


我々は"飛躍的"に伸びねばならない

林 光洋 モバコレ代表取締役社長




市場そのものは盛り上がりを見せるも、モバイル通販プレイヤーの中で成功を収めている企業はごくわずか。そんな中、モバイル領域で業績を伸ばすDeNAと通販大手の千趣会が手を組み、誕生したモバイル通販企業「モバコレ」がモバイルと通販を知り尽くした両社の強みを融合させることで短期間で会員数を伸ばし、今年3月に迎えた2期目の決算で単年度黒字化を果たした。だが、モバコレを率いる林氏は冷静に言い放つ。「まだまだ我々は"飛躍的"に伸びねばならない」。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


集客は「モバゲータウン」に任せ我々はMDに専念すればよかった
2期目で単年黒字化


――08年3月期決算では、売上高は14.5億円。そして初の単年度黒字化となりました。営業を開始したのが06年です。2年間で黒字化というのは当初の計画通りなんですか。


 正直言って、2期目でトントンと思っていましたので、黒字というのは少しお釣りが出たかなというところです。

――「お釣り」が出せた要因とは。


 大きなところで言えば、「集客」と「MD」にあると思います。まず、集客面で言えば、「モバゲータウン」(※DeNAが運営する無料ゲーム&SNSのモバイルサイト)の成長が非常に貢献したことは間違いないでしょう。「モバゲー」はサービス開始から、非常に早いスピードで会員が1000万人を超え、1日のPVは現在、5億に達しています。

――「モバゲー」の成長と「モバコレ」の業績はどう結びつくのでしょうか。


 我々はグループ会社として「モバゲー」の会員とトラフィックを集客に利用しているわけです。他社の場合、「集客」に非常にコストや手間がかかるわけですが、我々には「モバゲー」という強い集客施策があったので、当社としては最も重要なMD(=商品政策)のみに専念すればよかったと。これが大きかったのではないでしょうか。

"とんがったもの"を売る


――そのMDについてのポイントとは何だったのでしょうか。ファッションアパレルは競合も多く、その中で勝ち抜くのは相当、大変そうですよね。


ジャンルを"とんがったもの"に絞り、それに合致する人気の高いブランドの商品を集めることに注力した点です。DeNAでは仮想モールやオークションなど物販絡みのサービスをすでに展開中で、我々はそれらとバッティングしない異なる形の物販を展開する必要がありました。その中で考えたのは、我々は"とんがったもの"をやっていこうと。いろいろと検討を重ねた結果、「09(マルキュー)系」(※渋谷の商業ビル「109」にテナント出店しているブランドの商品)をやろうと。そして「セシルマクビー」という一番、大きいブランドさんと取引交渉に専念をしました。そうして取り引きが始めると、あっという間に「セシル」の取引先の中でも、上位になり、そこからはどんどん様々なブランドさんとの取り引きができるようになりましたね。

――若者に訴求力の高いブランドの商品を取り扱うというのは難しいことなのでしょうか。


 手間がかかるということもあります。1着卸すのも100着卸すのも、記入する伝票の枚数は変わらないですから。そういう意味ではポテンシャルの高い「売り場」に絞っているのではないでしょうか。あとは、日本最大の携帯ポータルサイト「モバゲー」の膨大なユーザーを誘導できる僕らがやることが、携帯上で「何かやろう」と思った時に最も目立つというか、人の目に触れることになります。モバコレ自体もブランディングをし、うまく「モバゲー」のマスなユーザーに「モバコレ」というフィルターを介して、ブランドさんのターゲット層を絞り込んで集めることができるようになりました。
その結果、ブランドさんからしてみれば、「モバコレ」は絶好の売り場やブランディングになったわけです。この利点をうまく使わせて頂いて、良いブランドさんとの取引を増やすことができました。

モバイル通販の成功は「商品」に


――モバイル通販市場は盛り上がりを見せていますが、成功を収めている企業は一握りです。モバイル通販における成功のポイントとは何なのでしょうか。


まずは「商品」だと思います。きちんとした良い商品をそろえることができれば、一定の売り上げにはなると思いますので、集客はそれからですね。実際、僕らも本当にその段取り通りにやっている中で、「モバゲータウン」は僕らとしては横で黙っていても、大きくなっていっていたので、結果として、集客面で大きく寄与して通常の会社よりも成長が早かったですが。

――モバイル通販でいうところの「良い商品」とは何ですか。


 僕らがやってきた2年間の中での実績で考えると、「モノと価格のバランス」だと思います。ブランドや商品の質もそうですが、いわゆる路面店とかファッションビルとか百貨店に入っている店舗の一般的な価格よりも安い価格帯でないと、売りづらいですね。 やはり、モバイル通販においては「買いに来ました」というよりは、メールをみてふらっと来ていわゆる「衝動買い」というのが一番の購入のきっかけだろうと思います。ですから、やはり買いやすい価格帯であることが第一。以前、子供服を取り扱ったことがありましたが、結果は芳しくなく、取り扱いを止めました。ブランド的には人気のあるものを集めることができましたが、買いやすい価格帯の商品を集めることができなかったからです。やはりモノと価格のバランスは重要だと実感しました。

今年は4本柱で走る


――「次の一手」を教えてください。やはり、女性向けの"とんがった"商品ですとパイは限られます。取扱ジャンルや年齢層の拡大などは考えているのでしょうか。


「09ゾーン」から始めましたが、今では「09」と同じ年代で、雑誌で言えば、「ノンノ」や「ピーエス」などで紹介されるブランドを集め別コーナー化した「フリップルックバイモバコレ」を展開し始めました。これはまだ開設してから1カ月程度ですが売れ行きは順調です。
また、メンズも開始しています。当初は「お兄系」と言われるブランドを集めたんですね。ただ、その後は結構、売れ行きがよく、メンズが売れるということが分かったんです。それで「お兄系」ではなくて、雑誌で言えば、「スマート」や「メンズノンノ」などいわゆる一般の人が着用する服を始めようと、今年5月から、「お兄系」を別のサイトにして、新たに原宿周辺にショップがあるブランドさんを集めた「モバコレメンズ」を始めました。大きくはこの4本柱今年度は走ろうと思っています。

――年齢層についてはどうですか。


 もちろん、それは考えています。ビジネス的に考えれば、年齢層が高い方が、効率は良いですから。ただし、20代半ばなどの層は本当に競合が多すぎるので、まずは現在のターゲットである18〜22歳のゾーンを拡大させてから次に行きたいと思います。当社はたかだか売上高は約15億円、会員数は26万人くらいですから。まだ、この層でも拡大の余地は十分にあります。
また、先ほどの効率の問題で競合さんのコア顧客層が上昇傾向にあり、当社のターゲット層がぽかっと空いているんですよ。少子高齢化といわれていますが、競合がいなくなっていますし、「モバゲー」はこの若い層は強いので、僕らはまずここを抑えようと思います。当然、僕らの顧客も、年齢が上がっていきますから、それと同時に徐々に年齢層を上げていければと考えています。

飛躍的に業績をあげるためには"友達紹介"をどう誘発させるか


物販以外のビジネス展開へ


――課題はありますか。


「モバゲー」以外の集客経路です。ようはトラフィック、会員を飛躍的に伸ばし、業績を飛躍的の伸ばす新しい仕掛けです。集客で言えば、他社がやっている雑誌への出稿やSEMなどの施策はすでに一通りやっていて、恐らく他社並みの効果は出ています。ただ、僕らは"飛躍的"に売り上げを伸ばさねばならないと思っています。僕らは後発ですし、やるからには他社を一気に引き離すガーっと壁をぶち抜く「何か」をしなければなりません。

――「何か」とは何ですか。


 2年間、ビジネスをやってきて、売り上げも一応、順調に推移したので、業界の違う色々な企業といい意味で対等に議論できるようになってきて、お声がけもいただけるようになってきたんですよ。良い意味での「交渉力」を最大限、使って、異業種や全然違うチャネルのメディアとかとコラボレーションをしていきたいなと考えています。それが新しい流入経路の獲得、飛躍的に売り上げを伸ばすところの「切り札」にしたいと思っています。

――「切り札」のイメージを教えてください。


 あんまりイメージして欲しくないんですけどね(笑)。昨年、親会社のDeNAは飛躍的に成長したんですね。ここにヒントがあると。それは何だったかというと、「モバゲー」にしても「モバオク」にしても、基本、"友達紹介"なんですよ。無論、テレビCMを打ったりした効果はあったのですが、その以上に成長のベースを支えているのは友達紹介なんです。
「モバゲー」が何で友達紹介が誘発されているかというと、やはりユニークだからなんですよ。ユニークというのは「楽しい」ではなくて、「他にない」という意味で。「モバコレ」はゲームが無料で、アバターという魅力的なコンテンツがあったことで、あっという間に友達紹介が広がったわけです。
それをネット販売で考えた場合、よっぽど商品がユニークでない限り、友達紹介は誘発できません。僕らが販売している商品も、ネット上にはあまりないかも知れませんが、基本的にはお店に行けば買えますし。ではどうすればいいのかと。「切り札」というのは我々のサイトで友達紹介を誘発できる仕組みです。それを作りたい。
それでトラフィックを増やすと。インターネットの世界はトラフィックが増えれば、絶対に儲けにつながる。うちはあくまでファッションを中心に友達紹介ができるサービスを付加していって、その生まれたトラフィックで例えば、物販以外のビジネスできます。今、ファッションアパレルを扱って、それを通信販売しているに留まっていますが、我々のサイトに集まって頂いたお客様に対して、別のサービスを提供していくと。要は通販以外のサービスを提供していくと。

――通販以外というのは例えば。


 某競合もやっている戦略ですが基本的には広告事業です。その競合の場合、通販サイトの顧客を別立ての女性向けの情報サイトに誘導して広告事業につなげていますが、あまりうまくいっていないようです。理由は通販サイトと情報サイトを分けてしまっているからです。「ファッション」をウェブで扱う場合、絶対、「買えない」とおかしいんですよ。双方向のメディアなので、「見るだけ」というのは有り得ない。モノが買えるサイトを中心に、ユーザーがそこでファッション以外のものを楽しめるサイトにするべきで、僕らはそうしようと思っています。

――具体的にはどういうものですか。


例えば、僕らのサイトで会員登録をされたユーザーにはマイページで購入履歴などが確認できますが、そのマイページは現在、自分しか見れないようになっています。これをオープンにしていくとか。あくまで「モノを買う」ということを中心に人が回遊したり、集まったりというサイトにしたいなと思っています。
これ以上は言えませんが、大したものではないんですよ。ユーザーにささる、友達紹介が誘発できるサービスというのは、極めてシンプルなことだと思っています。逆に複雑で「あーなって、あーなって、こーなるから、面白いんだ」と言われても広まりにくいじゃないですか。極めてシンプルですが、その精度が極めて高いとか、他に見たことがないとか、更新頻度が高くて、リアリティがあって、ここでしか知りえないものとか、そういったことだと思います。今期中には始めたいと思います。できれば年内にも開始したいです。

――これが飛躍的に業績を伸ばす「切り札」になるということですか。


 「切り札」とかいって、これを呼んでいる読者の方にすごく期待されて、始めたら「はー」と言われるのも嫌ですから、そこまでは言いませんが(笑)。期待してください。

▲TOP PAGE ▲UP