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"上場"の目標ができて… 「すべてが狂ったのは、上場を目指したこと」。自身も自己破産を申請している岡崎元社長は経営が狂い始めた端緒をそう語る。 ヒルリードにベンチャーキャピタルが投資し、資本金が増資されたのは2006年春。2005年末に資本金1000万円だった同社は、06年8月には資本金1億2301万円の大会社へと変貌した。 ベンチャーキャピタルから調達した資金は、上場して評価を得られる事業内容にするために使う必要がある。同社は利益率の高いEC事業を柱にすることを決めた。 それまで事業の柱だった量販店向け卸は、投資家ウケしない2つのポイントがあったからだ。1つは粗利が20%しかない薄利ビジネス、もう1つは商談で商品の取り扱いが決まった後も、商品陳列の手伝いやチラシの協賛金、物流センターの使用料など、人・金ともに必要で、20%の利幅が17〜18%と減るばかりか「数字が不透明」になる点だった。ネット直販に切り替えれば、粗利は40%、財務諸表も明瞭な事業モデルに変える狙いがあった。 自社サイトがつまずき… 直販を強化するに当たり、06年9月に自社サイトを立ち上げた。しかし、01年に楽天市場、03年にヤフーショッピングへ出店するなど、ネット販売はモール店から走っていた。そのため、売り上げの立っているモール2店舗にどうしても人的投入が偏り、自社サイトでは顧客を集めることができなかった。最も有能なスタッフに売り上げが大きい楽天店舗を任せ、売り上げの低い自社サイトは、若手が兼任で運営していたためだ。 伸び悩む自社サイトの売り上げ。この状況を打開すべく、手を打ったのがメルマガ会員の獲得だった。これには楽天で成功した体験があり、自信もあった。1回のキャンペーンで370万円を使い、1万5000人の会員が集まった。しかし思いがけなかったのは、その後の転換率の低さだった。「メルマガを配信してもまるで効果がなかった」(同)。モールの内と外では状況が異なることは容易に想像できたはずだった。焦りにかられたのか、楽天だからこそ売上拡大の王道の施策となりえたメルマガによる販促は、少なくないコスト負担に見合わないもので、自社サイトの売り上げは最高でも月商90万円どまりだったという。 広告は取り返せると思う期待で… 一方、当初は順調に思われたモール店舗運営も、広告宣伝費の使い方などを間違え、ほころびを見せはじめた。特に楽天では、複数のメルマガが存在し、それに対応して広告枠も大量にある。同社は当初の潤沢な資金を元手に年間3000万円を広告費に投入、それが止められない状態にあった。「当社の体質として、先に投資する傾向があった。加えてベンチャーキャピタルからの"ゲンナマ"がそれを後押ししていた」(同)。 広告の内訳は、"旅行が当たる"などをフックにしてメルアドを獲得するくじメールや、インテリアのカテゴリーニュース、ポイントアップキャンペーンなど節操のない出稿をしていたという。「どれか1つに絞ってやっていればよかった。楽天で成功している他店はそうしていた。それと、楽天は広告費の入金が2カ月以上先の仕組みなので、その間には"取り戻せる"と思ってついどんぶり勘定になっていた」(同)。 大量多品種の商品政策… 自社独自アイテムを重視し、「ホームセンター商品よりも高品質で安い」をコンセプトに掲げていた。しかし、インテリア・家具カテゴリーが持つリピート性の悪さが、商品政策を拡大路線に走らせた。会員が1度は購入しても、商品が丈夫なため、買い替える機会は少なく、売上を作るには品揃えが必要と判断。中国における生産に踏み切った。 中国の工場は品質面もレベルアップし、原価を抑えられる。ただし、商社経由で1ロットは座椅子にして500〜600個の発注。当初は売れると見込んでいた数量だったが、自社商品を真似されたりして、中国から商品が到着する数カ月後には、想定の上代では売れず、頻繁に値引きしないと売れない事態が待ち受けていた。 売れる態勢が整っていないのに、数カ月前に契約した商品はコンテナで港に着く。450坪の倉庫では間に合わず、倉庫を5つも借りて総面積800坪を使い、商品をなんとか保管する状態が続いた。当時は横持ち運賃だけでも相当な費用がかかっていた。最終的には、かさむ在庫をさばくために、「1円オークション」を活用して、原価割れで販売するまでに陥っていった。 リピート注文あってこそのビジネス 上場を目指し、急ぐあまりに無理な計画を立てることや、売上を新規顧客に頼り、効率の悪い広告でも継続出稿することなどは、どのネット通販事業者にも起りうる危険性だ。通販とはリピート客がいて成り立つビジネスであり、現在の顧客データを見れば、将来の事業規模はシミュレーションが可能だ。中長期的な戦略構築や、投資計画。それを実現する人材の育成や確保――。これらを整えた先についてくるのが売上拡大だ。"売上拡大の甘い罠"に惑わされることなく、身の丈に合った商いをする。ヒルリードの倒産はEC事業者に、ビジネスの基本に立ち返る必要があることを、教訓として示したのではないだろうか。【編集部・小西智恵子】
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