2008.7 無料公開記事 | ▲TOP PAGE |
「ニコニコ動画」のコンテンツを収益に変える流れが生まれている 予想以上の会員の伸び ――ニワンゴ設立の経緯を教えてください。 設立は2005年です。当初はメールを使って検索などができる無料のメールポータルサービス「ニワンゴ」からスタートしました。気になるキーワードをニワンゴにメールすると、さまざまな返事がもらえるというサービスです。携帯電話のメールというものは、ウェブ上でのサービスと違い、機能が実装された頃からあまり進化していません。そこで、メールを使ったいろいろなデジタルコンテンツ配信などができるのではと考えたのです。 ――社名の由来は2ちゃんねる管理人である西村ひろゆき氏の「西村」の「に」と「ドワンゴ」を組み合わせたものだとか。 「西村プロジェクト」の「に」なんです。ひろゆき氏には会社設立の約1年前からプロジェクトに参加してもらい、サービスの検討会などを行っていました。「2ちゃんねる」の「に」に間違えられるのは承知のうえです(笑)。 ――ニコニコ動画の構想は以前からあったのですか。 もともと親会社のドワンゴで研究開発されていたものです。ドワンゴのサービスに「パケットラジオ」という携帯電話向けのラジオ放送があり、コマ送りで画像を配信しながら音声をかぶせていたのですが、ある意味動画共有に近い状態でした。さらにサービスを追加する上で、スペック的に厳しい携帯電話ではなく、パソコン向けにプロトタイプを作ってみたら面白いものができた、というのがスタートです。 ――当時は動画投稿サイトと言えば「ユーチューブ」が一般的でした。ニコニコ動画も当初はユーチューブの動画にコメントを付ける形でしたね。 ユーチューブの動員力をアテにしていた面もありますが、当社がやりたかったのは、動画投稿を募ることではなく、動画によるコミュニケーションです。収集に時間をかけるよりは、既存のサービスを使うのが近道と判断しました。ただ、ユーチューブからはすぐに切られてしまいましたけど(笑)。 ――自前のサービスとなれば、莫大な投資も必要となります。止めようとは思いませんでしたか。 すでにユーザーも増えていましたし、その選択肢はありませんでしたね。急きょインフラを整備して3月6日に会員制サイトとして再出発しました。そこからは予想以上に会員が増えていきました。 非同期コミュニケーション構築を ――当時は著作権を侵害したテレビ番組などの投稿も多く、それが集客に寄与している面があったのでは。 実のところ、違法コンテンツが大量に投稿されるとはあまり思っていませんでした。ただ、他社のサービスと比較しても、それらの占める割合は少ないと思います。当社はユーチューブのようにビデオ・オン・デマンドを目指しているわけではなく、ユーザー同士が別の時間に会話する"非同期コミュニケーション"を構築したいと考えていますから。 ――既存の楽曲を利用した動画のようにグレーなものも多い。 他者の著作権物そのものがいけないのは当然ですが、既存の映像や画像と音楽を素材としてユーザーが作り出した動画などもあるわけです。アメリカではフェアユース(公正性の基準をクリアすれば、許諾がなくとも使用できる規定)という考え方がありますよね。もちろん、だから問題ないと言うつもりはありませんが。当社はプロバイダ責任制限法の上で運営していますから、プラットフォームの提供が限界です。ですから、投稿動画の素材がどこの権利に帰属するかは知りえません。完全に"クロ"でなければ投稿を受け付けますし、権利者からの申し立てがあれば削除するというスタンスです。 ――"宣伝になるからある程度は目をつぶる"という権利者もいるとか。 ケースバイケースであり、それで免罪されるとは思っていません。ただ、すべてを排除するというよりは、「マネタイジング」、つまりニコニコ動画に投稿された動画を収益に変えていく、という流れは生まれつつあるようですね。ニコニコ動画に対する見方も少しずつですが変わってきています。 「文化を創っている」実感 ――サービス開始から1年半。現状をどう捉えていますか。 ニコニコ動画の楽しみ方が、当初考えていたものに近付きつつあるのではと思っています。ユーザーの創作物を他のユーザーが応援したり、合作して作品を高めていったり、「クリエイティブな出会いの場所」と考えていたわけです。超えなければいけない壁はありますが、ユーザーがさまざまな作品を投稿し、評価される場として盛り上がってきたのではないでしょうか。 ――こうした流れの代表として「初音ミクA」があるわけですね。 初音ミクもそうですし、「ねこ鍋B」や「陰陽師C」など、さまざまなムーブメントが生まれました。ユーザーが投稿したコンテンツが、ニコニコ動画という箱庭を飛び出してプロダクトとなりました。こうした経済効果を生む現象そのものが、ニコニコ動画の成果なのかなと。「文化を創っている」という実感があります。他の動画投稿サイトにはない現象ですし、ある意味ニコニコ動画は特異な場ということかもしれません。ユーチューブとは一見似ていても、全然違うサービスなのです。 ――成功の要因は何ですか。 ユーザーがコミュニケーションを図るための機能をスピーディーかつ細かく提供していること、盛り上げるために努力していることだと思います。コメントひとつにしても、コメントの流れ方をいじることでイラストや巨大な文字などを作る「コメントアート」が可能です。さらには「ニコニコ市場」もコミュニケーションツールの一つです。お勧めの商品としてネタ的なものを登録したり、それ対する"突っ込み"を商品購入という行動で示したりする人もいます。いろいろな立場の人たちに対し、コミュニケーションの機会と自己表現の場を与えることができたことが大きいのではないでしょうか。 「買ってくれ」の押しつけはスルー創意工夫込めたコンテンツを ヤフー出店店舗の取り込みも ――ニコニコ市場の取扱高は。 月間3億円程度です。徐々に増えていますね。 ――アフィリエイトを嫌うユーザーも多いですが、ニコニコ市場の場合は、リンクをクリックする"不快感"が生まれにくいようですね。 そうですね。ユーザーの中には、リンクをクリックすることで運営に還元できれば、という風潮もあるようです。既存メディアのような"押し付け"ではなく、あくまでユーザーの手によって作り上げられたサービス、というスタンスを取っていることが大きいのかもしれません。 ――3月には「時報広告D」の販売を開始しました。 趣旨を説明するのに時間がかかる商品なので、じっくりと売っていきたいと思っています。ただ、コカ・コーラや明治製菓のような大手も配信しています。従来のネット広告というよりも、ブランディングを重視したCM的な使い方に向いているかもしれません。木曜日と金曜日の夜の時報広告では、おすすめ商品に誘導するなど、物販への取り組みも行っています。 ――吉本興業やエイベックスなどと提携を結んでいますが、通販関連と組むという考えは。 通販事業者様にも利用していただきたいとは思っています。時報ももちろんですが、ニコニコ動画の1コーナーとして、通販事業者が動画を製作し、そこから自社サイトなどに誘導するという企画も面白いですね。先日ヤフーとの提携を発表しましたが、ヤフー!ショッピングのオーナーが動画を作ったらどうか、という話はしていますよ。もちろん、市場には自社の商品を登録するわけです。 ――動画をECに活用したいという事業者は非常に多い。 そうした流れに、ニコニコ動画の"共有感"をミックスすることができれば、売ることそのものがクリエイティブ化していくかもしれません。動画での見せ方を工夫する、商品をきちんと見せるということもあるでしょうし、面白おかしく見せるということもあるでしょうし、いろいろな表現方法がありますよね。そのためにも、事業者が気軽に利用できるようにツール化して提供していきたいと思っています。 ――ただ、何かしらネタになる動画でなければユーザーが相手にしてくれないということもあるのでは。 例えば、アマゾンやヤフーという「物を売る場」なら商品をきちんと見せた方がいいでしょう。ニコニコ動画では、ユーザーがある種の「ノリ」で商品を購入するわけですから、売り方に関しては売り手が頭をひねる必要があります。もちろん、当社からも情報は提供しますが、顧客に合わせた売り方は小売りの方々が一番知っているはずです。ただ、セオリーがないので時間はかかるでしょうね。単に「買ってください」というアプローチをするだけでは、見事に「スルー」される可能性が高い。通販会社側にどんなユーモアセンスがあるかが重要になるでしょう。創意工夫を込めたコンテンツを作ることができれば、期待する効果を挙げられるのではないでしょうか。 ――最後に今後の抱負を。 今以上にコミュニティー要素を強くしていきます。ネットを使うすべての人がニコニコ動画上でコミュニケーションを取ったり、情報交換をしたりというのが理想です。一時であっても"生活の場"として機能するようなサービスにしてきたいですね。 注: @ニコニコ市場 動画視聴画面の下部に関連商品を利用者が登録、購入数に応じて同社に手数料が入る仕組み。現在はアマゾンのほか、Yahoo!ショッピングにも対応 A初音ミク クリプトン・フューチャー・メディアから発売された音声合成ソフト。バーチャルアイドルに自然な音声で"歌わせる"ことができる。ニコニコ動画の投稿作品から火がつき、記録的な売り上げとなった。ニコニコ動画にはオリジナル、二次創作を問わず、多数の作品が投稿されている Bねこ鍋 土鍋で猫が丸くなって寝ている動画。愛らしさが話題となり、DVD化 C陰陽師 ゲーム「新・豪血寺一族」に収録された「レッツゴー!陰陽師」というプロモーションビデオのこと。初期のニコニコ動画で人気を博し、CD化された D時報広告 ある時刻に動画を視聴している全ユーザーに、動画上部のバナーを利用してリアルタイムで情報を通知する「時報サービス」を利用したCM
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