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ドコモ、「メニューリスト」の順位を入札制へ
――モバイル通販への影響はいかに?





NTTドコモは6月26日から、iモードのポータルサイトである「iメニュー」内で公式サイトをカテゴリごとに表示する「メニューリスト」の表示順位を現行のアクセス数順から、入札による広告型に変更する。言わば、リスティング広告の体裁を採るもの。ドコモでは「従来の利用者数順の表示では順位に変動がなく、特定のサイトが常に上位となっていた。(入札制導入で)利用者に様々なサイトを紹介し、活性化したい」としている。
 モバイルビジネスを展開する各社にとって、「メニューリスト」の表示順位はビジネスに大きく直結する。ドコモは番号ポータビリティ制の開始以降、競合に押され気味とは言え、契約者数はやはり断トツ1位の携帯キャリア最大手。膨大なドコモ利用者がモバイル通販を含めたネット利用を行う際、多くは「メニューリスト」を経由するためだ。
 それだけに今回の入札制による表示順位の決定はモバイルユーザーのネット上での行動に大きな影響を及ぼすことは必至。果たしてモバイル通販へも影響が及ぶのだろうか。

入札は月1回、1万円から


 ドコモによれば、「メニューリスト」における公式サイトの表示順位に入札制を導入するカテゴリは6月のスタート時点では10カテゴリ。「働く/住む/学ぶ」「着うたフル」「着うた/着モーション」「「着信メロディ/カラオケ」「メロディコール」「待受画面/フレーム」「ゲーム」「占い/診断」「コミック/書籍」「デコメール」となる。
では、入札制が導入されると、具体的に表示順位はどうなるのか。「メニューリスト」は「大カテゴリ」→「中カテゴリ」→「小カテゴリ」の3階層となっている。利用者は「天気/ニュース/ビジネス」「着うたフル」「ショッピング/チケット」など様々なジャンルが羅列される「大カテゴリ」から、利用者順にいくつかの公式サイトが表示される「中カテゴリ」へ下る。「小カテゴリ」はその下の階層で当該カテゴリのすべての公式サイトが表示されるものだ。今回の入札制は「中カテゴリ」に導入される。
 前述したが「中カテゴリ」はこれまでアクセス順、利用者数順で表示順位を決定してきた。6月からはより高い金額を支払った事業者の公式サイトが上位表示されるようになる。最低入札単価は1万円だという。ちなみに「小カテゴリ」に関しては、従来通り、利用者の多い順で表示される。
 ドコモによれば入札は月1回で初入札は6月上旬にドコモ子会社で広告事情を行うディーツーコミュニケーションズを通じて実施される予定としている。

「ショッピング」にも入札制導入?


上記のように表示順位の決定に「入札制」を導入するのは「着うた」等のデジタルコンテンツのカテゴリが大半。「コミック/書籍」に関しても、電子書籍を展開するサイトが主で、アマゾン等の「本の物販」は含まれていない。広義で見ればデジタルコンテンツもモバイル通販であり、また、「占い」を行う事業者が物販を行っているケースもある。モバイル通販に全くの影響がないと言えないことはないが、とりあえず、いわゆるモバイル通販企業にとっては大きな影響は出ないようだ。
 とは言え、ドコモの公式サイトで物販事業を行うモバイル通販事業者にとっても「対岸の火事」というわけにはいかなそうだ。それは今後、入札制が「ショッピング」を含め、他のカテゴリに広がることを示唆しているためだ。今回、入札制導入を10カテゴリとした理由についてドコモに聞いたところ、「まずは順位の変動が極端に少なかったカテゴリから始める。いきなり全カテゴリというのは混乱が起こる可能性もあるためだ。まずはスモールスタートで…」(ドコモ広報)としている。
 ドコモは入札制開始の理由について「順位を変動させることによる活性化」としている。これも理由の1ではあろうが、無論、本当の狙いは「順位」を広告商品化することによる収益性確保だろう。そういった観点で見れば、入札制である検索連動型広告等を盛んに活用しているEC事業者の「ショッピング」カテゴリにも入札制を導入するのは当然の流れであり、その時期はさほど遠くないと見るのは自然なことだろう。つまり、ドコモの公式サイトを持つモバイル通販事業者は今のうちから、「ショッピング」カテゴリの入札制導入を視野に入れて、自社のモバイル通販戦略を考えておく必要がありそうだ。

「チャンス到来」か「コスト増」か


 では近い将来、実際に「メニューリスト」の「ショッピング/チケット」カテゴリの順位決定に入札制が導入された場合、どういった影響が出るのだろうか。
 まず、現在、「中カテゴリ」に表示されていない事業者にとっては大きなチャンスとなる可能性も出てくる。ドコモも認めているように利用者数によって、順位を決定している現状では、有名なサイトや大手サイトなど限られた事業者だけが、「中カテゴリ」の順位争いを繰り広げており、大半の事業者は順位どころか「中カテゴリ」にも表示されない状況だからだ。
 やはり、ユーザーの大半は「中カテゴリ」に表示されている公式サイトにアクセスすることが多い。入札制の導入で、仮に「中カテゴリ」に表示されれば、これまでとは格段に送客数が変わってくることが予想される。安くはない入札料金を支払っても、それが費用対効果に合致すれば、問題ないわけで、「小カテゴリ」に沈む事業者や新規にモバイル通販に参入した企業にとって、入札制導入はモバイル通販の業績を飛躍させる「チャンス到来」ということになるだろう。

入札額高騰の懸念も


一方で、現在の利用者順で上位表示されている事業者にとってはどうか。当然、順位決定のロジックが変更されるため、現状の位置をキープするのは困難となるためだ。最悪、「中カテゴリ」に掲載されない事態が起きれば、送客数は極端に減り、業績に大きなダメージを与えることになるだろう。ただし、現在、「中カテゴリ」の上位にいる事業者の大半は体力のある大手中堅企業が多い。そのため、新たに導入される入札制を活用すれば、順位をキープできそうだ。
つまり、実際のところ、「中カテゴリ」を巡る戦況の体勢には大きな変化は起こらなそうだ。入札制導入で現状の「中カテゴリ」に表示されている上位グループに加え、体力に余裕のある大手企業が参戦する構図が予想される。
しかも、検索連動型広告のように数限りない「キーワード」の入札ではなく限りある「カテゴリ」への入札のため、入札額が小規模なモバイル通販ではとても手が出ないほどに高騰することも予想される。
これでは前述した「小カテゴリ」の事業者たちにとって「チャンス到来」というわけには行かない。また、現状、「中カテゴリ」に君臨する大手事業者も新たなコスト負担が生じる。期待する順位変動もあまり起こらず、結局はドコモの丸儲けで、既存事業者にとっては、うれしくない結果となる可能性が大きい。

公式対策はカテゴリと検索の順位に


 前述したように結局、入札制導入は新たな収益獲得にためのドコモの広告ビジネスに過ぎないようだ。これまでも利用者順とは言っても、「クリック型広告」などを使い、アクセス数を稼ぎ、上位をキープしてきた企業も多かったという実情があり、必ずしも「利用者の数」による順位ではなかった。ドコモとしては恐らく、外部の広告事業者に儲けさせるよりも、自社で行った方が良いとの判断もあったのだろう。
様々な思惑があるにせよ、ドコモがこうした動きを採る以上は、通販事業者は今後、モバイル通販戦略を考える際、台頭してきた「検索」への対策と並行して、近々にも入札制導入が開始されるかもしれない「メニューリスト」の対策を講じる必要はあろう。限られた予算をどう効率的に活用するか。動きが早く、変化が生じやすいモバイル市場において、その見極めこそが企業の明暗を分けることになるのかも知れない。【編集部・鹿野利幸】





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