2008.6 無料公開記事      ▲TOP PAGE


大切なのは"ユーザーの信頼"

中村 壮秀 アライドアーキテクツ代表取締役社長




「第6のメディア」――。ECを知り尽くした男を再び、駆り立てたのはこのキーワードだった。中村氏はゴルフダイジェスト・オンライン(GDO)の創業メンバーとして、同社のEC事業をゼロから立ち上げ、成功に導き、EC企業として数少ない勝ち組に押し上げた。05年に突如、同社を退職し、ベンチャー企業を立ち上げた。中村氏が手がけるのは「バズマーケティング」。ECを知り、ネットを知り尽くした同氏がまた戦いを挑む。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


「第6のメディア」であるCGMに面白さとチャンスを感じた


もっと大きなフィールドで


――GDOの時、以来ですね(数年前、GDOの取材時に本欄担当記者と面識有)。独立されたようですね。


そうですね。05年にGDOを退職して、アライドアーキテクツというベンチャーを立ち上げました。

――確かGDOの前は商社にいらっしゃいました。そもそもGDOに参画したきっかけは何だったんですか。

以前は住友商事にいましたね。GDOには住商を退職して、2000年に創業とともに入社しました。99年頃、インターネットビジネスのチャンスを探していました。私の趣味はゴルフでしたし、当時、日本では「ゴルフ」と「インターネット」を組み合わせた成功事例はありませんでした。「これはいける」と考えて、ゴルフダイジェスト社にコンタクトを採り、事業の提案をしに行きました。その時に「君と同じようなことをやろうとしている者がいる」と紹介を受けたのが石坂さん(現GDO社長)で私も一緒にビジネスを開始することになりました。

――住商の出資先ということでお話をしに言ったんですか。

アポイントを取る時は「住友商事です」として行って、会った途端に「実は個人でやりたいんです」と豹変したんですよ(笑)。

――住商という安定した地位を失ってまで参画したのは、相当、「いける」という確信があったんでしょうか。

大いなる勘違いをしていたということもあったんでしょうね(笑)。私は当時、社会人になって3年目でした。様々なことが一通りできるようになってきて、次はもっと大きなフィールドでやりたい、という思いが強かったんですね。あんまり難しいことは考えていませんでした(笑)。

――実際、GDOに入社しECをやってみてどうでした。

 最初はうまくいかなかったですね(笑)。モノは全然、売れなかったですし。特につらかったのは価格でした。「楽天市場」などで安売りのゴルフグッズがたくさんありましたし、価格以外の何かが必要だと思っていました。それで目を付けたのがいわゆるCGMでした。

"そういうこと"が好きだった


――具体的には何をしたのでしょうか。

 それまでも様々なことを行ってきましたが、一番は05年に立ち上げた「GDOブログ」です。今では約7000人くらいのプロゴルファーはここでブログを書いているのではないでしょうか。GDOは広告、物販、ゴルフ場予約の3つの柱でシナジーを図り、総合力で勝つという戦略だったので、GDOブログは物販事業にも大きく貢献したのではないでしょうか。
私は02年に「スコア管理」というシステムを作りました。これは未だにGDOで一番、利用されているシステムですが、各ユーザーがスコアカードを入れていくことで、「集合知」を蓄積。これを使って「今、最もフェアウェイキープ率の高いドライバーはなにか」などを調べることができます。私はもともとそういうことが好きだったんですね。ユーザーに何かを書いてもらって、その「集合知」を使って何かを調べたり、明らかにするようなことが。

――せっかくそうした仕組みを作ったのに、すっぱりとGDOを退職された。きっかけは。

 「スコア管理」などもそうですが、私はECの現場にいて、4大マス、インターネット、この次に出てきた「第6のメディア」である「個人メディア」が影響力を持ち始めてきたのを、肌で感じていて、凄く魅力的に見えてしまいました。まだ良く分からないけれど、これから、もっと面白くなってくるだろうと思っていて、これをもっと「いじりたい」と思ったのがきっかけです。

くちコミはお金では買えない


――独立後、現在はどんなビジネスを行っているんでしょうか。

 現在はWEB制作事業とバズ&メディア事業を行っています。主軸は後者です。もともと独立したきっかけは「CGMを活用したビジネスをやりたい」ということでしたが、どう考えても時間がかかるだろうと。まだ、CGMを使ったビジネス自体、きちんとした収益モデルもありませんし。ちょっと長期戦を予想していたので、前者も行っていますが、基本的には後者に力を入れています。

――主力事業である「バズ&メディア事業」とはどういったものですか。

 端的に言うと、ブロガーを使ってネット上でバズを発生させて、広告主の商品やサービスの販促を支援するバズマーケティング事業です。

――その種のビジネスは他社がすでに行っています。違いは。

私は既存のバズマーケティングのように「くちコミをお金で買う」という行為にずっと否定的でした。それを「何とかクリアできないか」ということで考えたのが、我々のビジネスです。
月間100万人以上が来訪するブロガーのコミュニティサイト「エディタ・コミュニティ」(会員数=6万5000人)を立ち上げ、その上にバズによる販促を行いたいEC事業者などの広告主がバズマーケティングを行える「モニタープラザ」などを展開しています。
確かにバズマーケティングを手がける事業者は多いですよね。サイバー・バズも有名ですし、我々もセプテーニHDと合弁で「バズマーケティング」という専門会社を立ち上げています。
ただ、それらを我々は大きくことなっています。最近、バズマーケは案件が大型化してきており、「100万円以下」の広告主の案件はなかなかできにくくなっているようです。つまり、現状のバズマーケはナショナルクライアントといった大企業向けなんですね。
本当は中小規模の企業も使いたいはずです。我々のコンセプトはここにあります。つまり、「中小規模の企業でも活用できるバズマーケティング」なんです。

月額5万円のくちコミモール


――どういうことでしょうか。

我々の「モニタープラザ」はいわゆるモール形式です。費用は一律で月額5万円。ここに広告主が出店すると「エディタ・コミュニティ」内にブロガーに対して、手軽にバズマーケができる仕組みです。具体的には「モニタープラザ」内に企業側がコミュニティを作ります。そこで例えば、食材のEC事業者であれば、「レシピ募集」を募って、優秀なレシピをブログで紹介したブロガーには「新鮮野菜の詰め合わせ」なんかをプレゼントしたりします。

――そういったビジネスモデルを展開している競合はないんでしょうか。

私が知る限りありません。今までブロガーと企業が直接、出会える場所はなかったと思うんですよ。間に必ず事業者が入っており、牛耳ってしまうわけです。当社の場合、基本的にはブロガーと企業をマッチングしているという状況です。
それと繰り返しになりますが、利用料金は5万円の月額製です。一般的なバズマーケティングはどんと100万、200万をかけて、1000人に記事を書いてもらうというところが多いのですが、効果があるのは、他のネット広告と同じように一時だけです。本質的なバズマーケティングはそうではなく、あくまで企業とブロガーの間のリレーション作りだと思っています。
リレーションが構築できれば、効果が一時で消えるはずはないでしょう。企業が何かブロガーを巻き込む企画を実施したら、それに呼応したブロガーが50人集まってきて、その人たちと手を結びましたと。それで、次の企画をやったら、また100人に賛同して頂いたと。これで累積150人になり、1年ぐらいをかけて自社の広報宣伝マンが1000人育成できました。こういう世界なんですね。我々と他社のバズマーケティングはまったく別物だと捕らえています。

「売ってくれ、売ってくれ」ではなく、まずは「love me」が大事だ


強要するばかりでは嫌われる


――そのリレーション作りが難しい。

私は「love me」と「buy me」とあると思ってて、「売ってくれ売ってくれ」ではなく、まずは「love me」が大事だと思います。「うちのことを好きになってよ」という関係構築が重要です。人間関係と一緒で、関係も出来ていないのに、いきなり強要ばかりする人というのは嫌われるわけです。まずはやはり、1つのことについて語り合ってみるとか、そういうムード作りをしてブロガーとのリレーションを作っていくと、たまに新規キャンペーンをやったから今度宣伝しといて、とお願いできる関係になるわけです。

――効果はどうなんですか。

ブロガーとブロガーの記事を読んだユーザーにもPRできますから、効果は高いといえます。過去のデータでも、バナーのクリックレートが平均で通常より15%UPですね。普通、バナーのクリック率は0.1%と言われていますが、「モニタープラザ」のブログ記事だと3%、良い場合は10%ぐらい行ったこともありました。関係性を高知記できたブロガーさんがあるネタを自分の言葉で、自分の読者に向かって咀嚼するので、読んでる人にもすっと入るわけです。だからバナーのクリックレートが高いだろうと僕らは予想しています。ただ、やはりすぐに効果というわけには行きません。「楽天市場」でも同じですよね。出店してから、儲けが出てくるのは半年後です。地道にブロガーとの関係性を作っていくことが大切です。

――今後の展開を教えてください。

とにかく「モニタープラザ」の店舗数(広告主)を増やすことです。現在はまた数十ぐらいですが、年内には数百に持っていこうと思っています。

――ECに未練はないですか。

やはり、モノを売るのは好きですよ。物販は非常に面白いです。なのでまた、どこかで物販はろうかなと思っています。今も実はブロガーさんを使った物販の面白いやつをやろうかなと思っています。詳しくは言えませんけどね(笑)。
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