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携帯フィルタリングの問題打開で第3者機関設立
――悪質サイトの基準は誰が決める?





18歳未満の未成年者の携帯電話利用者に実質、加入を義務付ける有害サイトのアクセス制限サービス、いわゆる「モバイルフィルタリング問題」が新たな局面を迎えている。
アクセスが制限される「悪質サイトの定義」が議論されることのない「見切り発車」で、総務省の指示の通り、各携帯電話キャリアが開始したフィルタリングの強制加入の実施は、内容に関係なく、コミュニティサイトを一律でアクセス制限をかけるというもので、「芽吹き始めたモバイルビジネスの発展を阻害する」という声をモバイルビジネス事業者から挙がっていた。
これを受けて、「公正に有害サイト」の定義をジャッジ」する第三者機関が設立、動き出した。モバイル通販でもコミュニティサイトを集客や販促の場として活用することも増え始めており、モバイルフィルタリング問題の行方は気になるところ。
一方で、モバイルだけではなく、インターネット全体について、未成年者の悪質サイトの制限などを法律で縛ろうという動きも出てきた。与野党の議員はそれぞれ議員立法を作成。法制化を睨み、協議を続けている模様だ。
モバイルフィルタリングでも問題となったように、確かに未成年者を保護する何らかの仕組みは考える必要はあるが、メディアの規制に国が介入することは、市場を萎縮させることにもつながる危険性を秘める。十分な議論がないままの「規制」は国による「検閲」に他ならない。ECを含むネットビジネス事業者は「携帯フィルタリング問題」および「ネット規制法」の行方を注視する必要がありそうだ。

第3者機関の「EMA」が発足


モバイル関連事業者の業界団体、MCF主導の下、モバイルサイトの内容などを審査・認証する第3者機関「モバイルコンテンツ審査・運用監視機構(EMA)」が4月8日に設立した。同機関は「有害サイト」の閲覧制限サービスの加入を18歳未満の携帯電話利用者に原則、義務付けるフィルタリングサービスの実施を各携帯電話キャリアが発表後、事業者の間で噴出した「不満」に対応したものだ。
各携帯電話キャリアのフィルタリング強化実施は「出会い系サイト」などで未成年が犯罪に巻き込まれる事件が後を絶たないため、「有害サイト」の閲覧を制限するよう昨年末、総務大臣が携帯電話キャリア各社に要請。この要請を受けて、各社が足並みを揃えてフィルタリング強化に踏み切ったものだ。
各社とも多少の違いはあるものの、フィルタリングの方式として、「ホワイトリスト方式」と「ブラックリスト方式」を用意している。違いは前者が「公式サイトのみしか閲覧できない」。後者は「一般サイトの閲覧は可能だが、出会い系・アダルト系サイトなど有害サイトを制限する」もの。
閲覧を公式サイトに制限するホワイトリスト方式にも問題はあるが、事業者の不満の種となったのはブラックリスト方式だ。そもそもの目的である出会い系サイトの未成年者の閲覧を防ぐために、「コミュニティサイト」のカテゴリの閲覧を一律で制限するためだ。
 つまり、いわゆる「出会い系サイト」も、必ずしも有害サイトとは言えない「モバゲー」や「魔法のiらんど」といった人気コミュニティサイトや学校、学習塾などの掲示板、コミュニティ機能を実装する通販サイトを含むモバイルサイトなども一緒くたに閲覧制限対象となってしまう。これではモバイルビジネスの今後の発展に水を差しかねないため、各事業者は反発を強めていたわけだ。
 こうした声に対応し、総務省は検討会を開き、フィルタリングの方向性を改めて協議。ユーザー毎に閲覧できないサイトを選択できる「マイホワイトリスト」の必要性や優良なコンテンツの基準を策定する第3者機関の必要性などを挙げた。ここでの議論を受けて設立されたのがEMAだ。閲覧制限を行う「有害サイト」の基準、要はユーザーに「見せる」「見せない」という判断を現状のようにキャリアが個別で決定するのではなく、第3者機関のEMAに公平に判断させるというものだ。

悪質サイトの基準を決める


今後、EMAではサイトの管理体制が健全であるかどうかなどの基準を策定。当該基準に基づき、サイトの認定(※金額は未定、価格はサイトの規模によって異なる)と運用監視を行う。サイトの認定は「6月にも開始したい」(EMA)としており、その後は携帯電話やPHSの各キャリアと連携し、認定サイトをブラックリスト方式の制限対象から外すなどの対応を進めるようだ。
 基準の策定や認定などだけではなく、日本広告審査機構や日本通信販売協会などモバイルビジネスに関連の高い広告表示や通販などの関連団体とも連携し、ユーザーのクレームの窓口となったり、未成年者が自己判断とでモバイルコンテンツを健全に利用できるように、啓発・教育プログラムなども進めるなど「モバイルビジネス全般の健全発展も担う団体」(同)という役割もあるようだ。

ネット全体の規制の動きも


 未成年者を犯罪に巻き込む入口となる「出会い系サイト」は看過できるものではなく、対策を行う必要がある。ただ、十分な議論がなされぬままの見切り発車は、成長途上であるモバイルインターネットを阻害するものとして事業者など内外から大きな反発を招いた。しかし、こうした反省も踏まえず、今度はPCも含むインターネット全体を規制するといった動きも出始めているようだ。 
一部の報道によれば、インターネット業界に携わる事業者に対して、未成年者が有害サイトを閲覧できないようにする法案を与野党がそろって提出しようとしているようだ。与党、自民党では「青少年の健全な育成のためのインターネット利用による青少年有害情報の閲覧の防止等に関する法律案骨子」、民主党は「子どもが安全に安心してインターネットを利用できる環境の整備等に関する法律案」(以下、民主党案)を議員立法として作成した。両案ともに18歳未満の未成年者がいわゆる「有害サイト」の閲覧ができないような措置を講じる内容だという。

違反すると罰金や懲役も


 規制の対象は恐らくEC事業者を含むPC、モバイルのウェブサイト管理者、インターネットサービスプロバイダー、携帯電話会社、PVなどのハードウェアメーカー、ネットカフェ業者などネットに関わる事業者全般。これら事業者は未成年者が有害サイトにアクセスできないような措置を講じない場合、立ち入り検査のほか、懲役刑や罰金などの罰則が課されるなど極めて、重いものとなっているようだ。
 モバイルフィルタリング問題でもそうだったように、確かに「有害サイト」を野放しにするわけにはいかず、何らかの対策は講じる必要があろう。ただし、ここでも「有害サイト」の定義はあいまいで、かつ、そうしたネットビジネスの現場もよくわからない議員による「法律」によるネット規制は発展途上であるインターネット市場を萎縮させ、成長を阻害する可能性もある。
 法律による規制は事業者の自浄努力をまずは促し、最終手段として検討しかるべきものだということ。インターネットに携わる事業者は国による検閲に対して、声をそろえて反対の立場を表明するべきだろう。そうでなければ、ECの未来は閉ざされてしまう可能性がある。【編集部・鹿野利幸】




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