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ゼイヴェル、住商と資本提携でテレビに「売り場」拡大へ

――住商も成長子会社の弱点補完で「渡りに船」か?




ゼイヴェルが「携帯」から「テレビ」へ"売り場"の拡大を開始した。4月16日に住友商事と業務提携したと発表。4月28日からは住商のテレビ通販子会社でCS通販専門局を運営するジュピターショップチャンネル(JCS)経由でテレビ通販を始める。 JSCと言えば、好調なテレビ通販業界の中でも一際、存在感のある急成長企業。2212万世帯という膨大な視聴可能世帯数を確保して年商はすでに1000億円を突破。つまり、「通販の売り場」としては非常に高いポテンシャルを秘めていると言える。 一方、住商側もゼイヴェルの力を使い、「20代」というJSCの弱点だった新たな顧客の取り込みを図りたい考えだ。もちろん、ゼイヴェルとJSCの主要顧客にズレがあることは否めないものの、モバイル通販とテレビ通販を言わば、代表する両社の提携の行方は注意深く見守る必要がありそうだ。


本気の証左か?資本提携も

通常の小売り企業はもちろん、カタログ通販企業やネット通販企業が売り場の拡大を求め、テレビ通販を開始するという例はことさら珍しいことではない。ただ、そうした例と今回が異なるのは、業務提携だけでなく、資本提携にまで踏み込んでいることだ。ゼイヴェルは住商との業務提携と同時に、グループの「ファッションウォーカー」に住商から「数億円程度」(住商)の出資を受け入れている。
「ファッションウォーカー」はゼイヴェルが"肝いり"で設立した「PC通販」を展開する通販子会社だ。日本最大のポータルサイトを運営するヤフーも共同出資しており、言わば「モバイル通販企業という殻」からの脱却をかけたゼイヴェルにとって最も重要な子会社だと言えよう。同社への資本参加を受け入れるということは、ゼイヴェルが今回の業務提携、つまりテレビへの進出について本気である姿勢を表す証左とも言える。
確かにモバイルで成功を収め、PCへの進出も果たしたゼイヴェル。ただし、その知名度の割に、本誌の推定ではあるが、年商は100億円の大台を突破していない模様だ。
いかに6万人を集客するというファッションショー「東京ガールズコレクション」を運営し、知名度は高まってきたとは言え、やはり、「売り場」の主戦場はモバイルという未だ市場としては発展途上にあるメディアであることは間違いない。しかも、前述した通り、モバイルやイベントではすでに一定の成功を収めており、取り込める潜在顧客の多くは採ったのではないかと思われる。
つまり、これまでと同じ手法での「売り場」や「集客策」では成長が鈍化する恐れがある。そこでテレビという同社にとっては未知の、ただし、膨大な視聴者(潜在顧客)を抱える「売り場」に大きな興味を持ったことは想像に難くない。

ゼイヴェルの力で20代の取り込みへ


一方、提携先である住商側もゼイヴェルとの提携は渡りに船だったに違いない。住商は通販事業に積極的な総合商社の1つ。ただ、ここ数年で通販戦略を大きく変更している。06年4月には95年から自社で手がけてきたテレビ通販事業「住商ホームショッピング」の事業運営権をインデックス子会社に譲渡。続いて07年12月にはカタログ通販子会社の「住商オットー」の保有株式のすべてを合弁先の独オットー社に売却。住商の通販の代名詞とも言える2つの事業を手放した。それは住商の通販子会社の中で急成長株であり、今後も高い成長性が見込めるJSCの拡大に通販の経営資源を集中させるためとの見方もある。
今回のゼイヴェルとの業務資本提携もこの一環。つまり、JSCの成長のためにゼイヴェルで「弱点」を補完する狙いだ。JSCもこれまで順調に業績を拡大させてきたとは言え、直近の決算である07年12月期の売上高伸長率を見ると、06年までの数十%の伸び率に比べ、07年は前期比2.6%増にとどまっており、売上高の伸びは鈍化傾向にある。
今後も成長力を維持するのは新規顧客の開拓、もっと言えば、既存の視聴者以外の新たな層の開拓が必須だ。とは言え、視聴世帯数をこれまでのようにケーブルテレビ局経由で伸ばし続けるのは、天井に近づきつつあるようだ。そうであれば、これまでとは異なる層の顧客化、つまり主要顧客層である40代以外の層も取り込めるような商品や番組作りを行う必要があった。ゼイヴェルの力を借り、20代というJSCにとってはこれまで弱かった層の開拓を図る狙いだろう。

番組名は「ファッションウォーカーアワー」


こうして思惑が一致した両社、具体的には何を行っていくのか。ずばり、「ファッションウォーカー」の名前を冠とした深夜枠での番組だ。4月28の深夜1時から「ファッションウォーカーアワー」(仮題)の放送を開始。ゼイヴェルが得意とする「アルバローザ」など20代女性に人気の高い衣料品などを販売していくようだ。これにより、ゼイヴェルは未だ同社を知らない、もしくは購入したことのない潜在顧客の獲得を図る。一方、JSCは同番組により、その時間帯まで起きている若年層を引き付け、従来、午前1時以後、低下する視聴率を食い止め、売上高九台を狙う考え。今後、半年程度、視聴者の反応を見ながらさらにもう一歩、踏み込んだ提携、番組作りを推進していくようだ。

一歩、踏み込んだ先には・・・


そのもう一歩、踏み込んだ先にあるのがVIP顧客、新規顧客向けの各種イベントの実施、プライベートブランド(PB)商品の共同開発、相互顧客誘導だという。具体的な中身は現状、不明だが、発表によれば「テレビ媒体とネット媒体、イベントや全国の流通網を巻き込んだ戦略的クロスメディア展開の更なる強化を図ることで、媒体価値向上、顧客層の拡大を共に目指す」としている。
つまり、ゼイヴェルにとってはモバイル通販の成功で実証されている強い商品提案力をテレビというメディアでも展開。膨大な視聴者から潜在顧客を獲得するだけでなく、これまで簡単にはいかなかった粗利の取れるPB商品を住商という商社の力を借り、実現できるようになるメリットが生まれる。また、住商にはドラッグやスーパー、ペットなど各種小売事業を手がけており、場合によってはこうした店舗網も「売り場」として機能する可能性もあるということかも知れない。
JSCもゼイヴェルおよび「ファッションウォーカー」の共同出資会社であるヤフーの力などを使い、テレビ通販の拡大はもちろん、ECのテコ入れなども実施していく公算もある。
テレビ、ネット、店舗というチャネルを活用した物販は日テレとセブン&アイグループなどの共同出資会社「日テレ7」などでも展開を始めている。ただ、「日テレ7」と住商も出資した「ファッションウォーカー」との違いは後者の場合、出資企業が「通販」でつながっているということだ。
テレビ通販とモバイル、PC通販の提携という今までありそうで実はなかった組み合わせが、今後、どんな事業を行っていくのか。まずは期待したい。【編集部・鹿野利幸】
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