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成長"と"淘汰"の二極化時代を生き抜く

小林 靖弘 アクセルマーク代表取締役社長




通販(物販)の伸長でモバイル関連市場の市場規模は今や9,285億円(MCF調べ)にまで成長した。ただ、モバイル市場を語る上では市場の4割を握るデジタルコンテンツの動向も抑える必要がある。両者は広義では同じモバイル通販であり、片方の浮沈は互いに、またモバイル市場全体に大きな影響を与えるためだ。通信速度や携帯端末の向上・進化で都度、大きく方向性を変える、ある意味で不安定な同市場は今後、どのような道を辿るのか。3月に株式公開を果たしたアクセルマークの小林社長は「権利獲得」がカギを握るという。(聞き手は本誌・鹿野利幸)


権利獲得ができるかできないかで明暗分かれるデジタルコンテンツビジネス


「着メロ」から「着うた」へ


――3月18日に東証マザーズに株式公開しました。上場の目的から教えてください。


外部環境よりも内部状態がよければ、いつのタイミングであっても、上場したいという想いがありました。株式市場は全体的に低迷中で外部環境は決して良くはないですよね。ただ、株式公開時の公募価格が17万円に対して、初値は23万5000円でした。少し株価は下がりましたが、現在も23万円くらいでキープしています。この時期にしてはむしろ良い評価を頂いたと考えています。また、資金調達という側面もありました。今回、調達した資金は7億6,000万円で1/3くらいずつ、システム投資、プロモーション、権利獲得などに使う予定です。

――「権利獲得」とは何ですか。


当社ではモバイルに特化して大きく2つの事業を行っています。1つはいわゆる着メロや占いなどのデジタルコンテンツ(以下、DC)の配信、もう1つは広告事業です。先ほどの「権利獲得」はDCのビジネスで非常に重要となります。

――なぜですか。


携帯電話を巡る環境はここ数年で大きく変化しています。通信速度の向上やパケット定額サービスなどの料金体系の変化でDCも主流が変化してきています。2G(第2世代携帯電話)の時には「着メロ」が主流でしたが、現在では「着うたフル」に変わっています。また、大容量のデータを配信できるようになったため、アニメなどの「動画」なども人気コンテンツです。
我々のようなコンテンツプロバイダーは環境の変化などで廃れていくDCと並行して常に最新機種向けのDC配信を行っていく必要があります。これは競合他社も同じですが、現在、モバイルにおけるDCビジネス実施事業を見ると「成長している企業」と「淘汰されつつある会社」に二極化が進んでいる現状があります。その種を明かしますと、実は「権利獲得」が大きなポイントとなっています。
DC配信ビジネスでは初めに楽曲やコミックの権利を持つ「権利元」に「配信してもよい」という許諾頂くというところからスタートします。この許諾には簡単なものと、難しいものがある訳です。そして、まさに現在、DCの主流となりつつある「3Gコンテンツ」である音楽、書籍、動画などは権利獲得が非常に難しいという側面がある訳です。

権利獲得はパイプと信頼感


――何が難しいのでしょうか。


例えば、「待受画像」の場合、スタッフが作成すれば、それは会社の権利となります。「着メロ」の場合は、作成後にJASRAQに申請するだけ。つまり、これまでのDCでは一定の金額を権利元に支払えば比較的、簡単にビジネス展開ができました。
しかし、3Gコンテンツの場合、許諾を採るのは容易ではありません。「着うたフル」はCDと同じ楽曲そのものですし、「コミック」は漫画雑誌そのものです。そうしたコンテンツを携帯電話で配信するには、CDやコミックを発売する時と同様に、相応の手間と実績、経験、権利元との関係性などが必要となります。3Gコンテンツは成長分野であり、誰もが配信したいわけですが、そうはいかないというのが現状です。

――御社ではそうした権利獲得は問題ないわけですか。


現状ではうまくいっています。その理由の1つは権利獲得のための人材がいることです。権利獲得には権利元との関係性が重要となります。当社の場合、担当役員にもともと音楽系のビジネスをやっていました。それで音楽系企業とのパイプがあり、権利獲得のためのノウハウがあったと。現在、人材登用を進め、彼らにそうしたノウハウを移管するよう進めています。
2つ目はやはり、権利元の信頼感ではないでしょうか。当社の場合、広告事業をやっている関係上、広告主に毎回、広告の表示数などを報告しています。権利元の皆様にも広告主と同じように、「どのコンテンツがどれだけダウンロードされたか」が専用の管理画面から確認できるようにしています。情報をここまでオープンにしているコンテンツプロバイダーは以前は少なかったですね。こうした試みを先行してやってきましたので、信頼関係を深め、スムーズな権利獲得が可能になったのでは、と考えています。

通販はまだまだテスト段階


――通販事業なども手がけていると聞きましたが、DC配信以外の事業の状況について教えてください。


広告事業はmixiモバイルやグリー、モバゲータウンなどの広告商品を販売する「メディアレップ事業」とモバイル専用のアフィリエイトシステムを構築し、「モバイルアフィリエイト事業」を行っています。売上比率はメディアレップとアフィリエイトで8対2くらいです。広告事業は非常に安定していると言えますね。

――通販事業については。


物販は非常に有望なビジネスだと考えています。我々は「デジタルコンテンツ」という商品を販売してきた訳ですが、物販を行ったことはありませんでしたので、デジタルとリアルの商品の違いや、顧客の反応などを探るという目的でおととしくらいからブランド品を中心とした「ヒメブラVERTEX」というモバイル通販サイトを開設しました。現在は3キャリアで公式サイトとして展開しています。

――テストの結果はいかがでしたか。


まだ、テスト中ですね(笑)。月次ベースの売上高はまだ100万円くらいのレベルですから。正直、手が回らないんですね。主力事業である3Gコンテンツをやりきっていませんし。今はノンプロモーションでサイトの作り方とか見せ方などを本当に研究している段階ですね。ただ、携帯電話でモノを売るという行為自体は、非常に可能性を感じています。

――物販とDCは違いますか。


違いますね。「着うたフル」などのDCの場合、楽曲というすでにユーザーが認知している商品で購入基準も「自分がダウンロードしたいアーティストがいるかどうか」というところです。料金もCDシングルの金額とか、DVDレンタルの金額など何百円の世界です。一方、物販はそうはいきません。ただ、ユーザーを引き付けるサイトの作り方などにはDCの方で、経験や実績を持っています。そうした強みをECに落とし込むなどして、商品選定を含め、引き続き、ECを研究していきたいと思っています。カタログ通販では実績はあるが、モバイル通販は芳しくないという企業がございましたら、是非、一緒に手を組んで携帯ならではの通販というのを共同で研究していきたいと思います。お声がけ下さい(笑)。

有料モデルがなくなることはないが単一のビジネスモデルには依存しない


今後のDCの主役は「動画」に


――中長期的な業績の目標を教えてください。


今期の売上高予想は約36億円となります。今後、モバイル広告の市場規模は3ヵ年で172%増、3Gコンテンツは142%程度の成長が予想されています。このマーケット成長率を越える成長をしたいと思っています。

――そのためには何がポイントになるのでしょう。


まずはDC配信ビジネスをより強めていきたいと思っています。この先、2011年にはまた、携帯の通信速度が速くなり、配信できる容量も増えます。これに伴って、今後のDCの主役は「動画」になっていくと考えており、先行して取り組んでいきたいですね。

――違法か合法かは別にして現状、楽曲や映像がネット上では無料で視聴、閲覧ができます。モバイルのDCビジネスでも有料の"課金モデル"から、無料でDCを提供し、そのトラフィックで広告売り上げを稼ぐ"広告モデル"が増えています。有料モデルに対する不安感はないですか。


面白いコンテンツに対して、対価を支払うというのはリアルの世界では当然で、CDを購入したり、DVDをレンタルする時にはお金がかかります。これはネットの世界でも同じで、そこは守られると思います。有料でも「このコンテンツは見たいんだ」というのはなくならないはずです。
ただ、我々はどちらの状況となっても我々は対応できる体制を整えています。つまり、今後、DCの世界では無料モデルが多くなり、有料モデルがシュリンクしていった場合、恐らくそれが現実化した時には有料コンテンツ販売が小さくなり、逆に無料コンテンツのサイトに人が集まっています。その時には我々のもう1つの事業であるメディアレップ業でそうしたサイトの広告商品を作り、売り上げを立てることができます。
私は単一ビジネスモデルに依存しない経営を常に意識しています。単一ビジネスモデルに依存し、そのビジネスモデルが崩壊したら駄目になってしまうというのは経営者としては絶対に避けなくてはいけませんからね。

――今後のデジタルコンテンツビジネスをどう見ますか。


DCビジネスは短期的に見ると、思わぬ規制がかかったり、これまで良いと思っていたカテゴリーが駄目になったりなど大変なことが生じますが、人々が携帯を持ち続けるということはもはや不変なものですし、今後、確実に携帯の機能はさらに向上しますし、携帯電話だけがモバイルではないという状況になっていきます。「WiMAX(ワイマックス)」(次世代高速移動無線)の時代になれば、「iPod(アイポッド)」も通信機能がつき、十分に今の携帯電話の代わりになると思います。こういったところでもデジタルコンテンツの販売は可能であり、市場は拡大していくだろうと思います。

――是非、市場拡大のためにも、EC事業もがんばってください。


がんばります(苦笑)。カタログ通販企業の皆様、我々と一緒にモバイル通販に取り組みませんか(笑)。
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