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アマゾンジャパン、「ほしい物リスト」を巡って一騒動

――"個人の嗜好"が検索で分かってしまう?




アマゾンジャパンが実施する「ほしい物リスト」を巡って、ネット上で騒動が巻き起こっている。「ほしい物リスト」とはその名の通り、アマゾンで販売している商品のうち、自分が欲しい書籍やCD・DVDなどを登録しておける機能。友人や知人などがそのリストを見て、誕生日のプレゼント選びに活用できるものだ。 ではなぜ、この「ほしい物リスト」が騒動の原因になったのか――。それはその登録情報が初期設定では「公開」となっており、まったくの第3者でも「名前」か「メールアドレス」を入れて、検索をかけると、登録者の情報が見れてしまうからだ。 実際、ネット上では有名人の名前や、ネット上でメールアドレスを公開している匿名の有名ブロガーなどの「ほしい物リスト」が検索され、商品情報のほか、隠していた本名なども明らかになったケースもあるようだ。 アマゾンジャパンでは「『公開』にするか『非公開』にするかはユーザーが選択できる。好ましくないと思うならば、非公開にすれば良い」としている。ただ、初期設定で「公開」となっている以上、そのまま気が付かずに「公開」とするユーザーは多いよう。自身の持病に関する本など、他人には知られたくない情報や、アダルト系商品といった人目に晒したくない趣味嗜好が「ほしい物リスト」を見ると分かってしまう可能性も高く、「気持ち悪い」「何で初期設定で『公開』にするのか」など、疑問の声もあがっている。


趣味嗜好がばれてしまう

前述したが「ほしい物リスト」とはユーザーが欲しい商品を登録しておき、友人や知人に「おねだり」する機能だ。すでにアマゾンでは2000年から同機能を開始しており、多くのユーザーに利用される機能となっている。「欲しいものリスト」は専用ページにある「ほしい物リストサーチ」に名前やメールアドレスを入れると、当該者のリストが閲覧できるようになっている。これが今回の騒動の原因となっている。このサーチ機能を使えば、本来の目的である友人・知人の閲覧だけでなく、全くの第三者でも「ほしい物リスト」を見ることができるからだ。
実際、「佐藤」や「田中」などで検索してみると、ずらっと「ほしい物リスト」が表示される。中には「他人には見られたくないだろうな」と思うような自身の趣味嗜好が分かってしまうようなDVDなども見ることができた。

匿名の意味が・・・

そうした趣味嗜好が分かってしまうということに加え、騒がれているのは「メールアドレス」でも検索できるという点。ネット上には諸問題からメールアドレスは公表しているものの、匿名で活躍するブロガーも多い。そうしたブロガーの本名が分かってしまうという。もちろん、それにはアマゾンに登録し、かつ「ほしい物リスト」を使っている必要があるが、そうしたブロガーの多くはネットのコアユーザーであり、両方に登録している可能性は高い。そうしたユーザーのメールアドレスを入れ、「ほしい物リストサーチ」で検索すると、商品情報のほか、本名の場合が少なくない「アカウント名」が分かってしまう。
このため、ネット上では面白がって、有名人や有名ブロガーの「ほしい物リスト」を検索するなどの悪ふざけをするユーザーが現れる事態となった。こうした問題は当初、ネット上の掲示板や一部のブログサイトなどで取り上げられ、その後、ネット系のニュースサイトへ。最後には大手新聞社も記事化するなど、大きな騒ぎに発展した。

なんで今さら・・・

こうした騒動について、アマゾンは困惑の色を隠せない。前述したが、「ほしい物リスト」はすでに2000年の年末から、開始している。当時は「ウィッシュリスト」という名称でスタートしたが、機能的には現在の「ほしい物リスト」とまるで変わらない。つまり、今、騒動となっている問題も実は2000年から騒がれていても不思議ではなかった。アマゾンも本誌の取材に対して「もう何年も同じサービスを行っているのに・・・」と「なんで今さら」感を隠し切れない。
どうしてこのタイミングでの騒ぎとなったのか。真相は不明だが、「ウィッシュリスト」から現在の「ほしい物リリスト」に名称を変更したのは今年の3月で、つい最近のことだ。それで改めて、同機能の存在が注目され、実際に使ったユーザーの中で、この問題に気付いてしまった人が出たと思われる。

「公開」するのは当たり前

タイミング云々は別にして、騒動の発端は「ほしい物リスト」が初期設定では「公開」となっていることがある。もちろん、後からユーザー自身が「非公開」や「知人のみ公開」などに変えることは可能だが、やはり、初期設定に気が付かないユーザーも多い。つまり、アマゾン側で初期設定を「非公開」などにしておけば、よい話だと思うが、アマゾンは譲らない。「この機能は目的を考えれば、皆さんに『公開』することが当たり前。米国では欲しいものをリスト化して友人や知人を渡すという行為は一般的で、米アマゾンでも特に問題は出ていない。嫌な場合は、『非公開』にすればいいし、そのことはサイト上でも記述している」(同社)としている。
また、メールアドレスで検索した場合、ブロガーなどの本名が晒されるという点についても「アカウントの登録時にも『非公開』という設定もできるし、本名ではなく、ニックネームで登録しておけば問題ない」とすべてはユーザー次第というスタンスも崩していない。

「対応しない」とは言ったものの・・・

今後の対応について聞いたところ、「特に問題はないと考えているので、現時点では何も考えていない」としていた。ただ、3月18日現在、「ほしい物サーチ」を使ってみると、以下のような文面が出てくる。

「申し訳ありません。システム内部にエラーがありました。問題はすでに記録済みで、今後調査を進める予定です。ご迷惑をおかけして申し訳ございません。」
 
少し前まで検索可能だった「佐藤」や「田中」など複数の苗字を検索してみても、やはり上記のような文面が出て、事実上、「ほしい物サーチ」は休止しているようだ。やはり、あまりにも騒ぎが大きくなりすぎたために、アマゾンとしても無視することができなくなったようだ。

自分たちの「常識」はユーザーの「常識」ではない

この件は他のEC事業者にとっても対岸の火事では済まさせない問題だ。アマゾンは「ほしい物リスト」の公開は米国では一般的なものであり、また、「欲しい物」を友人・知人に伝え、買ってもらうという本来のこの機能の目的を考えれば、全く問題のないと考えていた。ことさら、個人情報が流出したわけではないため、「そこまで騒がなくても」という困惑は理解できる。
ただ、問題はこうしたEC事業者側の「常識」はユーザーにとって見れば、「常識」ではなかったということだ。いかに米国では一般的な制度にしても、ここは日本であり、価値観は変わってくるのは当然だ。また、「公開」の件にせよ、確かにユーザー側に選択権はあるわけだが、多くのユーザーにそれが伝わっていなかったからこそ、大きな騒ぎに発展しているわけだ。
EC事業者は新サービスを始める際や、日常の顧客対応などが果たして、自社都合ではなく、ユーザーの要求にあっているか。また、何かを変更する際、きちんと分かるように告知したかともう一度、見つめ直してみたらいかがだろうか。いかに便利なサービスであれ、失った顧客の信頼を再び、取り戻すには長い期間とコストが必要になるかも知れないからだ。【編集部・鹿野利幸】

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