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経済産業省が仮想モール設立へ

――「ネット販売の予備校」の行く末は?



経済産業省が2008年度中に30の仮想モールと、その入り口となるポータルサイトを開設する計画を明らかにした。"地域おこし"を目的に、分類した30の地域に1つずつ仮想モールを設置。ネットに習熟していない農家などの生産者を入れ、特産物を販売するというものだ。月々のサービス使用料などの関係からこれまで二の足を踏んでいた生産者に対し、テナントを「格安で」開放。同省では、"ネットで物を売る"という行為に対する抵抗感を取り除き、ノウハウを身に付けさせる、いわばネット販売初心者にとっての「予備校」としての役割もあると見ているようだ。
こうした取り組みは、EC事業者にとっては市場全体の底上げにつながることが期待できるため、歓迎すべき試みと言える。だが、いまや国内に無数に存在する仮想モールの事業者にとってみれば、これはテナントを奪う「商売敵」であり、「民業圧迫」という批判が出ることは想像に難くない。開設に向けて本格的に動き出すのはテナントを募る4月以降になると見られ、現段階では未定の部分が多くを占めているが、5億円の予算を投入して展開する同取り組みの行方に、今から注目しておく必要はありそうだ。


30の仮想モールを設置


経産省が開設するのはポータルサイト「にっぽんe物産市(仮称)」と、分類した30の地域に1つずつ置く仮想モール。1つのモールにつき1千万円の補助金を投入し、ポータルサイトの構築やマーケティング費用には2億円をかける。ポータル、モールの構築・運営は、それぞれ公募で選ばれた運営者に完全に委託する形となるようだ。運営者を選定する基準について、同省では@財政基盤が整っていることA地域おこしに知見があることB顧客の掘り起こしができることC堅実なビジネスモデルを構築できること――などを挙げており、対象としては「ある程度の公共性があり、営利目的ではない」(情報政策課)NPO法人などを視野に入れているようだ。

出店料は年間「1万円」


モールを設置する地域の基準は特に設けず、「都道府県レベルではなく、特産品がたくさんある地域であれば市や町単位でもいい」(同)。出店者に関しては、農産物や水産物の生産者や、伝統工芸品などの作り手を予定。モールへの出店者数の基準などを設けるかどうかについては未定としている。
買い物をするユーザーについては一般消費者の他、レストランやスーパー、百貨店などの事業者の利用も想定する。ある程度の品数を揃えることで特産品などの食材の調達に苦心するこれら事業者にもアプローチできるとしており、こうした点で他の仮想モールと差別化を図っていくようだ。
モールへの出店にかかる費用は、契約時に支払う1万円のみとなる見込み。年1回の更新のため更新時には再度契約料を支払う必要があるが、やはり他モールと比べると「格安」と言える。費用がかからない分、システムとしては簡素にならざるを得ず、物流や決済機能などは実装していない。そのため、消費者とのやりとりは基本的にすべて販売者が請負う形となり、同省としてはあくまで「情報を提供する場」というスタンスで運営していく考えだ。
だが、いくら簡素なシステムとは言え、それが「仮想モール」であることには変わり無い。となれば、そのあまりにも安い料金体制は他のモール事業者にとっては脅威だ。とは言え、EC事業者からすれば、新たな仮想モールの登場によって市場が活性化し、全体の底上げが期待できるため、こうした動向はむしろ歓迎すべきことではあるだろう。

他の仮想モールとの棲み分けは?

では、果たして他の仮想モールとの棲み分けは可能なのか。同省では、基本的にモールに入る販売者は、料金面などでこれまで「ネット販売」に二の足を踏んでいた生産者を予定しているため、あくまで「予備校」のような"訓練の場"であり「大きな売り上げは期待していない」(同)と話す。
また、そうして力を付けたテナントは次のステップとして、楽天やヤフーなどの大手仮想モールに行くこともできるとしており、「棲み分けは可能」と考えているようだ。ただ、国内に存在する仮想モールは楽天やヤフー以外にも無数に存在しており、そうしたモールのほとんどは独自性で勝負する中小モール。中には「ご当地」などを売り物にする仮想モールも多々あり、これらのモールにとって「出店料が安い」という強いウリを持つ同省のモールは決して面白い存在ではないだろう。
とは言え、これまで限られた販路しか持たなかった生産者にとっては、こうした販路の拡大を実現する取り組みが"福音"であることに違いはない。経産省の主導の取り組みとあって、消費者としても安心して買い物ができる場が増えることは無論歓迎すべきことであるだろう。詳細はまだ明らかになっていないが、ネット販売市場にいい影響をもたらす存在になることを期待したい。
【編集部・河鰭悠太郎】


           

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