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動き出した次世代モバイル放送

――MediaFLOが実証実験を開始



KDDIと米クアルコムの合弁会社、メディアフロージャパン企画が11月27日、携帯端末向け映像・情報配信技術「MediaFLO(メディアフロー)」の実用化に向けた屋内実証実験を開始した。従来の実証実験は有線接続による実験だったが、今回はMediaFLO波を利用した初の無線方式による実証実験となる。2011年に地上波のテレビ放送が完全デジタル化に移行。現在、使用されているアナログの周波が「空き帯域」となる。同帯域は恐らく新たな「モバイル放送」に割り当てられることになるが、様々なビジネスモデを携えた事業者が周波数獲得に動き出しており、総務省がどの事業者に割り当てるか現在、審議会等で協議を重ねている。MediaFLOは数多くの立候補者の中でも有力と目される1社だ。どの事業者が「空き帯域」を獲得するかは未だ不明だが、2011年以降は確実に現在の「ワンセグ」のような新たな「モバイル放送」が誕生するのは確かだ。視聴者を多く抱える媒体に成長すればEC事業者にとっても、新たな「売り場」として活用できる可能性もある。今からその動向に注目しておく必要がありそうだ。


初めての無線での実証実験


「MediaFLO」とは、米クアラルンコムが開発した携帯端末に動画や静止画、音声、テキストなどのコンテンツを配信する技術。通常放送のようにリアルタイムで動画や音声を配信できることに加え、利用者が好きなときに再生できる「クリップキャスティング」などの配信もできる。米国では07年3月から、全米52の都市で動画配信を中心に商用サービスを開始している。メディアフロージャパン企画は空き帯域を獲得後、米国と同様、同技術で有料の携帯電話向けテレビ放送サービスを開始したい意向だ。
今回の実証実験は実用化に向けた室内利用での実験が大きな目的。東京・原宿のKDDIのショールーム「KDDIデザイニングスタジオ」で実施。実証実験に必要な実験局と受信用端末を設置して、スター・チャンネルやFOX、NHK、吉本興業などのコンテンツホルダーが番組を提供、来場者が直接、端末を操作できる形とした。同社は06年から、有線接続による基礎実験を行なってきた。同実験を元に、今回はMediaFLO波(無線)を利用した屋内電波伝搬状況や実験番組の画質・音声の品質などの確認。また、来場者からの評価実験なども行ない、実用化に向けた各種データを蓄積したい考えだ。実験は07年11月27日から09年3月31日まで実施する予定。

ネット販売への活用は?


「メディアフロージャパン企画」をはじめ、フジテレビやスカパーなど5社連合で同じく次世代モバイル放送の開始を目指す「マルチメディア放送企画LLC合同会社(MM)」なども各種フォーラムやイベントで実験サービスなどを公開。来るべき日に備え、実証実験と総務省を含む外部へのアピールを進めている。
ただ、こうした次世代モバイル放送はEC拡大に寄与するのか、要はネット販売実施企業によって、通販媒体として活用できるものなのだろうか。もちろん、サービス自体が実証実験段階であるために、各社とも具体的な利用方法は描けていない。ただ、可能性として挙げられるのは専門のショッピングチャンネルの設置や、「ユーザーの携帯利用行動などでセグメントし、ターゲティング広告のような形で視聴者属性に合わせたCMの放映などが考えられる」(メディアフロージャパン企画・金山由美子課長補佐)ようだ。
また、対抗馬であるMMでも同社は「ワンセグ」等の地デジ放送ですでに使用されている放送技術、ISDB-T方式を次世代モバイル放送でも利用するために「『ワンセグ』でできること(データ放送と連動させた通販など)はほぼすべてできる」(MM・企画部の岡村智之氏)。また、2011年段階では相当、普及が進んでいる「ワンセグ」をポータルとして、「例えば『ワンセグ』で放送されている短い通販番組にリンクを貼り、興味を持った視聴者は我々の放送でより詳しい商品説明などを行う通販番組を閲覧してもらうことなども技術的には可能」(同)としている。
各社とも実証実験段階であり、そもそも空き帯域を獲得できるかどうかもはっきりとは分かっていない。他にも有料サービスが日本でユーザーに受け入れられるか。ユーザーがお金を出してまでも見たいコンテンツを十分に確保できるか、などなど次世代モバイル放送には越えなければならない壁はある。ただし、2011年以降、登場するであろうサービスが新たな「販売の場」として機能するかどうか。ネット販売実施企業は注目しておく必要がありそうだ。【編集部・鹿野利幸】


           

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