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日テレとセブンがネット通販で新会社

――活かせるかテレビの"実力"




日本テレビ放送網は11月26日、セブン&アイ・ホールディングス(7&@HD)、電通と共同で、ネット通販を手掛ける新会社を設立すると発表した。ポータルサイトを開設するほか、独自商品の開発やテレビとインターネットを連動させたクロスメディア広告なども手掛ける。日テレの媒体力と7&@グループの持つ店舗網や物流網、商品の開発・調達力などの「小売りインフラ」を併せ持つ新会社だけに、今後の展開に大きな注目が集まる。


新会社の収入はアフィリエイト

新会社の「日テレ7(セブン)」は07年12月に設立、営業開始は08年4月を予定している。出資比率は日テレ51%、7&@HD 20%、セブン―イレブン・ジャパン(SEJ)、イトーヨーカ堂、セブンアンドワイ(7&Y)はそれぞれ5%、電通14%。社長には日テレ・グループ・ホールディングスの山根義紘副社長が就任する。
 新会社は通販展開する商品を、日テレの番組やテレビ通販で宣伝。新設するポータルサイトに視聴者を誘導し、商品購入を促す。ただ、ポータルサイトはランディングページの要素が強く、実際にはユーザーはヨーカ堂の通販サイトや7&Yなどで購入する形となる。そのため、新会社の売り上げは厳密にはECではなく、紹介料と広告収入が主となる。
こうした商品は、ウェブ以外でもセブンイレブンやヨーカ堂、さらには西武百貨店などグループの店舗でも販売していく。カギとなるのが日テレ7の取り分が大きい独自商品の開発だ。
「例えば、一つの工芸品にも何かしらのドラマが隠されている。こうしたドラマを紹介することで、販売に結び付けていくような番組作りもできるはず」(7&Y・鈴木康弘社長)。例えば、番組で紹介した商品をウェブやネットで販売したり、テレビドラマの登場人物が着用した衣服を販売したりとさまざまな展開が考えられる。
こうした商品の企画は、小売りに長けた7&@グループのSEJやヨーカ堂が担う。システム開発は7&Yが、物流や在庫管理などはグループが請け負う形になる。「(グループ会社が出資することで)それぞれの会社の役割分担を明確するとともに、責任の所在を明らかにする」(7&@HD・村田紀敏社長)。

セブンイレブンで商品受け取り


インフラの活用という点では、商品の販売や開発だけにとどまらない。セブンイレブンをはじめ、ヨーカ堂、西武百貨店などグループ店舗での受け渡しを可能にしていく。これは、書籍のネット通販を手掛ける7&Yが実施しているセブンイレブンでの無料引渡しサービスを踏襲したものとなる。
「商品によって検討するが、基本的に配送料は全商品無料を目指していきたい」(7&Y・鈴木社長)。書籍やCD・DVDを販売する7&Yとは違い、さまざまな商品を扱うだけに難しい部分もありそうだが、7&Yはコンビニでの無料引渡しを強みとして拡大してきただけに、実現すれば大きなインパ
クトを与えそうだ。 商品はテレビと相性の良いアイテムとして、まずは食品、美容、健康関連などからスタートするが、書籍やCDなどあらゆるジャンルの取り扱いを考慮する。日テレ7の開発した独自商品に加え、7&@グループ各社で取り扱う商品をサイトから購入できるようにしていく。

通販を放送外収入の柱に


 放送と通信の「融合」に実店舗も絡めた今回の新会社。各社の思惑はどこにあるのだろうか。
新会社設立の会見に臨んだ日テレの久保伸太郎社長は、「テレビが持つ強力な媒体を活かした、広範な連携による新しいタイプのテレビ通販だ」と胸を張った。広告収入の減少が続く民放各局にとって、放送外収入の重要性は大きく増している。かつてのドル箱だった巨人戦の視聴率低迷が続く日テレも、広告収入の減少を補うべく中期経営計画で放送外収入の強化を打ち出している。
その中でも成長著しいのがテレビ通販への期待は大きい。2007年9月中間期のテレビ通販売上高は、前年同期比77.3%増の40億8000万円。通期の売上高は80億円に達する見込みだ。数年前まで日テレの通販事業売上高は、他局に見劣りする10億円に満たない数字だったことを考えると、驚異的な伸びといえる。
成長の大きな要因として挙げられるのが「通販枠の拡大」だ。ただし、番組の総枠量に限りがある以上、通販に使える枠には限界がある。そのため、「(テレビ通販にも)必ずや曲がり角がくるだろう」という久保社長の認識が示すように、近い将来に踊り場を迎えることは明らかだった。
これまで日テレは、通常番組に通販コーナーを付加する「通販付番組」で通販枠とは別に「売り場」拡大を模索してきた。また、ネットと連動した「売り場」拡大のほか、今後のワンセグを活用した通販展開やネット通販強化を踏まえ、通販事業部を増員するなど、テレビ通販以外の販路拡大に取り組んでいた。
今回の新会社は、通販事業を成長軌道に乗せるための「次の一手」といえるだろう。日本の小売業トップの7&@グループと組むことで、自身の持つ媒体の力を最大限に発揮した通販を展開していく狙いがあるようだ。

ポータル中心にサイトの連携進める


 一方の7&@グループは、日テレとの連携で新たな販売チャネルを開拓することで、伸び悩む既存店のテコ入れを図る。7&@HDの村田紀敏社長は会見で「店頭だけでは伝えきれない情報を消費者に提供できる」と提携のメリットを説明した。
 例えば、ヨーカ堂では店頭に並ぶ商品の情報を公開する「顔が見える食品。」シリーズに取り組んでいる。これをさらに進めることで、「どんな苦労をして野菜を作ってきたか。生産者の"想い"をより効果的に伝えることができる」(7&Y・鈴木社長)。
 日テレ7のサイトは7&@グループの通販サイトのポータルとしても位置付けられるため、1つのIDでヨーカ堂の通販サイトや7&Yなどの商品を購入できる形になる。今後はサイト同士の連携を進めていくが、結果として「グループのサイトが統合される可能性もある」(鈴木社長)という。

カギは商品と密着した番組作り


テレビで誘導した見込み客をグループの通販サイトに送客するポータルサイトとしての役割と同時に、商品開発や商品の魅力をより効果的に消費者に伝える役割も担う日テレ7。携帯電話向けサイトの立ち上げも予定しており、売り上げの半分程度を占める見通し。初年度売上高は「堅めに見積もって」(日テレ・久保伸太郎社長)10億円。3年での黒字化と4年での累損解消を目指す計画だ。
7&@グループの全店舗と日テレのテレビという媒体力を活用する巨大なサービスだけに、その動向には大きな注目が集まるが、具体的な商品展開などはまだ決まっていないようだ。ただ、実はすでに深夜枠などで、食品の紹介などテスト的な試みはスタートしているらしい。もっとも、店舗で響く商品とテレビで響く商品は異なるだけに、小売りに長けた7&@のマーチャンダイザーといえども苦戦を強いられているようだ。
やはり、あくまで「テレビからの誘導」がメーンとなるだけに、魅力ある商品の開発は大前提となるが、テレビと店舗、ウェブが連動するという「物珍しさ」で終わらないためにも、商品開発と密着した番組作りをどこまで進められるかがカギとなる。
「テレビの持つ力」を殺さず、いかにネット通販に結びつけることができるか。「成功の方程式」の確立が日テレ7の生命線となりそうだ。これが順調に進めば、他のキー局をもその気にさせ、放送と通信の「融合」が一気に進む可能性もあるだろう。【編集部・川西智之】


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