2008.1 無料公開記事      ▲TOP PAGE


「TVでネット」普及へ、家電連合の本懐

久松 龍一郎 アクトビラ副社長




「テレビで見た商品をその場(テレビ画面上)で購入する」――。テレビという最も利用者が多い端末でショッピングが完結できればECの裾野は大きく広がる。ただ、「テレビでネット利用」はこれまでいくたびも試みられてきたが普及した事例がない。そんな中、家電メーカーなど6社が結集した「アクトビラ」が有料動画サービスに続き、ネット販売についても本腰を入れ始めた。「(これまでのサービスと)同じ轍は踏まない」――。アクトビラの目指す「テレビでEC」のロードマップとは。(聞き手は本誌・小西智恵子)


同じ轍は踏まない 全機種搭載で普及


家電5ブランドが結集で雪辱を期す

――アクトビラの設立経緯とサービス内容を教えてください。

当社はパナソニック(松下電器産業)、ソニーとソネット、シャープ、日立、東芝の家電5ブランド(社数では6社)が基本的に同じシェアで出資した、新しいテレビ向けネットサービスの会社です。ブロードバンド対応テレビ向けに映画や音楽、ドラマなどの映像配信と、ニュースや天気など情報コンテンツの提供を行っています。

――過去にも「テレビをネットにつなぐ」サービスはありましたが、普及には至りませんでした。


そうですね(笑)。私自身は「テレビをネットにつなぐ」事業に関わって12年を迎えました。当時から将来的に可能性がある分野とされ、さまざまな事業者が現れて――「ピピンアットマーク」や、記憶に新しいのは「イーピー」など――ダメでしたね。ご存知の通り、連戦連敗(笑)。

――今回の「アクトビラ」は同じ轍を踏まない?


過去の失敗事例と比べると納得しやすいでしょう。まず、至極当たり前のことですが、インターネットなりテレビ放送なり、サービスというものは全てのプロダクト(端末)で受けられないとお話になりません。例えば「イーピー」は専用端末を購入する必要がありました。一方、「アクトビラ」はテレビだけで済みます。現在、参加するメーカー各社はこれから販売するテレビの全機種に「アクトビラ」を搭載すべく粛々と動いています。現在は松下とソニーのテレビを購入すれば、どれでも「アクトビラベーシック(静止画)」が搭載されています。動画サービスの「アクトビラビデオ」についても、他のシャープ、ビクター、東芝、日立についても対応機は急速に広がっています。

――そのほかには。


ビジネスモデルが大きく違います。従来の失敗の要因として、買い上げビジネスであったことが挙げられます。まずハードですが、先ほど申し上げたとおり、発売されているテレビはそもそも「アクトビラ」が搭載されているわけで、弊社はリスクを一切負ってはいません。さらにコンテンツやインフラさえもすべてレベニューシェアで運営していきます。どうしてこんなに弊社の都合よく、理想どおりに話がまとまったのかといえば、とりもなおさず、家電メーカー結集の本気度を感じてもらえたからだと思います。

――利用者はどうやって増やす?


初期の段階では、メーカーさんのプロモート。今のテレビの売り方は限界にきています。画像がきれい、音がいい、大画面――と、店頭では販促していますが、お客様はやっぱり価格に弱いですよね。ちょっとでも機能で差別化がないとテレビは価格だけの販売合戦になってしまう時代です。ですから、「アクトビラ」を差別化戦略の1つとして提案していきます。加えて、ブロードバンド加入の販促も同じく限界にきています。NTTさんを初め、通信キャリアは店頭で「IPフォンが使える」「速度が早い」と販促してももう目玉じゃなくなってきている。テレビを売りたいメーカーおよび小売り、ブロードバンド回線を売りたい通信キャリアが三位一体となって店頭でプロモーションを行っていきます。

――次の段階として、アクトビラ対応TVが家にあるけども"使ってはいない"という状況を回避しないとなりません。


VODコンテンツに力を入れています。分かりやすく言うと、「もうレンタルビデオ屋はいらない」(笑)。レンタルビデオというものは、新作が全て借りられていることがままあります。それから広い店内で作品を探すのも大変なことです。「アクトビラ」では借りたかったけど借りられなかった映画を家に居ながら見ることができ、リモコンでザッピングしているうちに「そういえばこれを見たかった」などロングテールの需要にも応えます。手間がかからないため、ロングテール需要は当たると確信しています。

――「アクトビラ」はECにも活用できる?


非常に注目しています。注力するコンテンツとしてビデオサービスを先に挙げましたが、それはビデオサービスが分かりやすいためです。ショッピングに注目している理由は2つあります。1つはEC市場の拡大が今後も続くと明白である点。当然、テレビでもそこは狙いたい。2つ目は、そもそもテレビ通販市場は大きく、今後も拡大できると考えているためです。深夜帯を中心にテレビ通販番組は多いですが、オンデマンドでいつでもアクセスできれば可能性は広がります。

――テレビ通販市場は確かに拡大していますが、テレビ通販はあくまで受動。よほど通販好きでないと「アクトビラ」の通販コンテンツを見に行きにくいと思います。


そうですね。まずは映画を中心としたVODで「アクトビラ」のトップページの価値を上げることが先になります。そしてこれが成功したとき、ここのトップページは凄い価値を持つわけです。ですから、「アクトビラ」に画面を切り替えたとたん、「ビリーズブートキャンプ」が始まる、というようなそういう仕掛けを考えています。

――現在展開しているショッピングコンテンツはどのようなものですか?


まずトップページからショートカットで飛べる「楽天市場」と、携帯電話のような"公式サイト"の2パターンです。この2つは(契約形態の違いがあり当社にとって)狙いが違います。公式サイトは基本的にどなたでも出店することができますが、階層は少し深い。公式サイトの費用は初年度が70万円で次年度は更新料に20万円。これはQAにそれなりに費用がかかるためで、必要経費と捉えています。こちらは売り上げに応じたフィーは発生しません。場所代だけですね。一方、トップにリンクしている「楽天」とはガツンと組んでいるわけです。(注:契約形態は明らかにしていないが、レベニューシェアになっている模様)
テレビですから、画像を大画面で訴求できます。まずこの画面(アクトビラポータルサイト)は一般的なHTMLの空間です。現在、静止画のみの対応ですが、今後はここも動画になります。するとこの画面中央で、動画で惹きつけ、その脇に簡単な予約ボタンや在庫照会などができれば、とてもスムーズに購買行動が進むというわけです。

――売れていますか。


正直、まだ母数が少ないので、大きく売れる状況にはないです。出店事業者側も、決済機能をつけている方が少なく、これは普及台数100万台程度までは、決済システムを入れる投資はまだ早いと考えているようです。楽天さんも次の段階では動画に対応し、決済機能も近く、搭載される見込みです。

テレビ通販にもECにも 双方の拡大に対応



将来はオープンなECサイトに、PCに勝つ


――インターネットなのに、既存の通販サイトをそのまま、「アクトビラ」上で出すわけにはいかないのですか。


閉鎖的にしたい、という意図ではありません。理由は3つあります。1つはテレビのCPUのクロック数が違うため、一般のECサイトを表示しようとすると、非常に時間がかかってしまう。2つ目は"フラッシュ"や"ウインドウズメディアプレイヤー"などを使っているサイトは非常に多いですが、テレビはこれに対応していません。するとそこは表示できず、画面はガタガタになってしまいます。3つ目はマウスとリモコン操作の違いです。リモコンは上下左右・決定のみですから、通常のECサイトをリモコンで操作するのは難しい。以上の理由から、現状では"閉じた"方がいいだろう、ということです。

――iモードでいえば、公式サイトだけでなく、勝手サイトが許されたからこそ、今の盛り上がりがあるといえます。


そうですね。テレビでもそうなると思います。ただ、現段階では「ノー」です。iモードもそうでしたが、サービス開始当時はハードがプアです。ある程度時間が経って「アクトビラ」に利用者がたまると、家電メーカーもCPUのクロック数を上げるなど対応せざるを得ない。そのときは、開放していきます。むしろ私はPCのインターフェースを超え、PCに勝つという意気込みでいます。映像処理では常にテレビが勝っており、あとはプロセッサーの処理速度さえ上げれば勝てると考えています。

2011年までに普及台数7000万台 接続率は20%以上


――ネット販売事業者が、「アクトビラ」に出店するメリットはどこにありますか。


 2011年(地上波アナログ放送の停波)までに「アクトビラ」対応テレビは(日本のテレビ総数1億台に対して7割普及の)7000万台普及させますと掲げております。このスケール感、パイの大きさです。それから前回アンケートで明らかになったことですが、非常に高齢者の利用が多い点。パソコンも携帯電話も使えない層にリーチできるメディアです。誰でも簡単に使えることから、売り上げ増が期待できると考えています。

――普及目標台数7000万台に対して接続率はどうみていますか。


 2007年2月からサービスを開始して、現在接続台数は20万です。「アクトビラ」は静止画の「ベーシック」と最近開始したVODが見られる「ビデオ」の2種類がありますが、「ベーシック」の時代は接続率10%。そしてまだこう発表するには時期尚早ですが「ビデオ」は接続率が30%となっています。初期のユーザーは新しいもの好きで飛びつきやすいので、割り引いて考えなければいけませんが、それでも20%はいけると考えています。
7000万台の20%というと、1400万台です。メディアとしては立派な数字になります。また、「WOWOW」や「スカパー!」など有料チャンネルでしかも別途ハードウエアが必要なサービスが現在、利用者数400万〜500万前後であることを考えると、テレビだけで済み、しかも月額利用料のかからない「アクトビラ」であれば1400万世帯は無理な数字ではないと考えます。

――家電メーカーがハードの開発を強化し、コンテンツプロバイダーも積極的に「アクトビラ」へラインアップを拡充するには、初期、どれだけ立ち上げられるかにかかっています。


そうですね。いわいるマーケティング戦略は08年の1年間がもっとも大事だと捉えています。08年度末に少なくともアクティブで100万台を超えることが成功のラインとしています。その段階でECの活用も本格化してくるのではないかと思います。


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