2008.12 無料公開記事      ▲TOP PAGE


楽天、当日配送サービス開始の威力は?

――カギを握るのは「物流代行」




楽天が08年10月23日から、仮想モール「楽天市場」で商品を受注後の翌日にユーザーまで配達する「あす楽」を開始した。08年夏から、肉や魚、野菜、惣菜、米・麺・パン、水、ワイン、調味料など10ジャンルの食材、約600点を対象とした「グルメスピード便」。掃除機やアイロン、電子レンジ、エアコン、テレビ、デジタルカメラ、ビデオカメラ、パソコン、オフィスサプライ用品など12ジャンル、約4300商品を対象とした「家電・即日配送便」などジャンルを絞った翌日配送を実施してきてきた。それらの売り上げが好調に推移しているとして、「翌日配送」の対象ジャンルを生活雑貨や化粧品・健食などまで拡大。対象商品を約5万点超まで拡大し本格化させた。08年6月までに全ジャンルに広げる計画のようだ。「今日、注文した商品が明日、自宅に届く」となれば、楽天が狙う「日常使い」が増える可能性も出てくる。ただし、いきなり日用品を購入するくらいまでの「日常使い」とはスタート当初はならないだろう。そのためのステップとして「グルメ」等のお取り寄せ商品に近い、言ってみれば「どうしても欲しい魅力的な商品」を"客寄せパンダ"としてまずは「あす楽」や「楽天市場」の利便性をユーザーに知ってもらうことが肝要となるはずだ。


欲しい商品は翌日配送されない?


ただし、現状、「あす楽」は翌日配送とは言っても、例えば、北海道に住むユーザーが「あす楽」を利用して翌日に商品を手にしたい場合、北海道近隣に店舗やオフィスを構える出店者の商品でなくてはならない。つまり、「あす楽」が全ジャンルに拡充しても、自身の住まいの近隣に「欲しい商品を販売している店舗」がなければ、当該商品は買えず、「楽天市場」を日常的に使うには、ハードルは高い。
「日常使い」を実現するのは、魅力的な商品の翌日配送をいかに拡大させるかにあるはずだが、現状の「あす楽」は完全に店舗の物流に頼っているため、魅力的な商品を販売する出店店舗があったとしても、当該店舗の物流体制が貧弱であれば、広域での翌日配送おろか近県でも対応が困難というケースもあるだろう。
こうした問題を解決する手段として、楽天が進めたいのが、08年5月から開始した楽天市場の出店者向け物流代行事業「楽天物流代行サービス」だ。楽天が店舗に替わり、物流業務を代行することで、当該店舗は「あす楽」への参加などが可能となるため、一挙に翌日配送対象商品を増やせることになる。同時に実験的に始めている別店舗の商品をまとめて同梱し配送する「多店舗同梱」なども可能となり、「配送料」というユーザーのハードルを引き下げられる可能性をも秘める。楽天が期待する「あす楽」の威力は、同時に進める物流代行サービスをいかに拡げられるかにかかっていると言えそうだ。

5万点超の商品を翌日配送に


楽天が「あす楽」として翌日配送の対象としたのは「グルメ」「家電・PC・ゲーム」「キッチン・日用品・ベビー用品」「ヘルス・ビューティー」「ペット用品」「フラワー・フラワーギフト」の6ジャンル、約5万3000点。ただし、「あす楽」対象の五万点超のすべてが全国のユーザーに翌日配送されるものではない。「関東」や「北海道」など地域ごとに翌日配送が可能な商品を集め、10地域に分けたもの。
具体的には各出店者(スタート時点の参加出店者は約600店)が翌日配送の可能な商品および地域を登録。ユーザーは自身の在住地域を選択し、注文すると、出店者は当日正午までの受注分を翌日までに配送する仕組み。つまり、北海道在住者が「関東エリア」の商品を購入しても翌日配送はされない。
 今後は翌日配送対象ジャンルを「衣料品」などにも拡げ、09年6月までに全ジャンルに広げる計画としている。その全ジャンルへの「あす楽」拡大の上で、重要となってくるのが出店舗向け物流代行サービスだ。現在、各店舗が独自に行っている配送業務を楽天が請け負う物流代行サービスを強化することで、翌日配送対象商品の拡大を図っていくようだ。

10社の物流業務を代行


楽天は08年5月から「楽天市場」の出店者を対象に「楽天物流代行サービス」を開始。出店者の商品を専用倉庫にあらかじめ集め、検品やピッキング、梱包、配送などの関連業務を代行している。08年10月末時点では関東を中心に全国で7つの専用倉庫を借り受け、約10社の物流業務を代行しているが、「すでに70社程度から物流代行の希望を受けている」と楽天の武田和徳常務は明かす。
楽天は今後も専用倉庫などを増やすなどして、物流業務を代行する出店者をさらに拡大していきたい考えだ。無論、物流代行業務という新たな収益源の獲得も目的だろうが、やはり、狙いは「あす楽」の参加店舗の拡大にありそうだ。いかに楽天サイドで「全ジャンルで翌日配送します」と言っても、一定規模の業績がある出店者であれば可能だろうが、すべての店舗が翌日配送が可能な物流の仕組みを保有しているわけではないことは明白だ。
それならば、一定規模の店舗のみに「あす楽」への参加を促せばよいのだが、生キャラメルを販売する「花畑牧場」のように話題の商品を販売している出店者を無視することは、ユーザーの期待を大きく裏切る。「花畑牧場」のような魅力的な商品を販売している出店者は往々にして、規模が未だ小さかったり、物流体制がきちんと確立できていないこともある。
こうした店舗の物流業務について、楽天が代行することで、当該店舗の商品に関しては、基本的に当日配送対象商品となるため、可能な限り、物流代行サービスを拡大していきたい考えのようだ。

多店舗同梱で配送料負担軽減へ


物流業務代行先が一定数、増えた段階では、さらにユーザーの「日常使い」を誘発させる"仕掛け"を発動することが可能になるようだ。楽天は08年10月14日から、テスト的に多店舗同梱配送「多店舗同梱サービス」を開始している。これは利用者が「楽天市場」で複数の出店者から商品を購入した場合、通常では、別々に配送されるが、「多店舗同梱配送」では異なる店舗の商品でも一緒に同梱し配送するため、ユーザーが負担する配送料金は1回分で済むことになる。やはり、ECを含む通販の利用で1つのネックとなるのは配送料金で、こうした利用者の配送料負担を軽減することで、購買促進に貢献させる狙いだ。ただし、同サービスを行うには一定以上の「楽天物流サービス」導入店舗が必要となる。もちろん、同じ倉庫に商品が在庫されているからなせる技だからだ。つまり、より多くの物流代行導入企業を増やすことが同サービスの本格展開につながってくるわけだ。
 ちなみに「多店舗同梱サービス」の第1弾は「楽天市場」に出店するラーメン店8社の即席ラーメンを対象とした「楽天市場らーめんコロシアム」という特集企画を実施した際、同サービスを用いた同梱配送を開始している。ユーザーは1袋単位で各店舗から商品を購入でき、配送は一括でまとめられ、購入金額総額が3000円以上の場合は配送無料。3000円未満では700円を徴収していた。三木谷社長によれば、売上高の結果も平均客単価があがるなど、狙い通りとなった模様だ。
 ともあれ、2010年〜2012年までに「翌日配送商品の売上高を全流通総額の5〜10%のシェアとする」と自信満々に答えた三木谷社長。この実現のためには、全ジャンルを翌日配送対象とする09年夏までに物流代行導入店舗をどこまで増やせるかにかかっていると言えよう。その先にこそ「楽天市場の日常使い」があるのかも知れない。【編集部・鹿野利幸】

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