2008.12 無料公開記事      ▲TOP PAGE


すべての施策はテナントのためにある

松浦 義幹 買う市代表取締役社長 




楽天、ヤフー、ビッダーズのいわゆる"3強"の寡占が進む仮想モール市場。現在、ECにおいて最も成功が困難な分野と言えるだろう。そうした中、虎視眈々とその座を奪うべく準備を進めているのが、プロミスグループで、ライブドアから「ライブドアデパート」を引き継いだ買う市だ。ほぼ大勢が決しつつある現在、果たしてどのような戦略で風穴を空けていくのか。元ITメディアから買う市社長へと異色の転身を遂げた松浦氏は、「買う市は生まれ変わった」と語る。(聞き手は本誌・河鰭悠太郎)


「ライブドア」のブランドはアドバンテージになり得る

ECサイトの「メディア化」を促進


――「ITメディア」から「買う市」社長へ。異例の転職でしたね。


半年前に社長に就任しましたが、最近になってようやく態度がデカくなってきました(笑)。私は20数年メディアの世界にいましたが、現在はECサイトがくちコミ情報を持っているなど、「メディア化」しています。で、ECサイトが「メディア」であるなら、自分のキャリアも活かせるんじゃないか、と。事実、今のところこれまでの経験が活かせていると思うので、来て良かったと思っています。

――現在のEC事業の状況を教えてください。


現在は、仮想モールの『ライブドアデパート(LDD)』、『LDリサイクル』、直販で本を扱う『LDブックス』、それに『買う市ショッピングモール』の4つのECサイトを運営しています。今年の春からブランディング戦略を変更し、『ライブドア』の冠がつくサイトを前面に出す方向に変えました。ネットの世界では知名度が重要。『ライブドア』という名前が持つイメージにまだ良し悪しはあると思いますが、ブランドを持っていることはアドバンテージだと思います。
『買う市ショッピングモール』は、今後はOEM的なECサイトとして、他社との業務提携を通して利用していく形にします。また、もう1つ考えているのが『フィードサイト』としての役割。いわば情報発信サイトですね。モールの形を保ちながらも、他のショッピングサイトの情報を横断的に検索できる仕様にするつもりです。消費者にとっては「欲しいものがそこに行けば見つかる」とことが一番重要。LDDの中で欲しい物が見つかればいいし、仮に無かったとしても、連携している「買う市モール」で検索して、他のサイトで欲しい物が見つかればお客さんにはメリットがある訳です。LDDはショッピングモールとして、買う市モールはフィードサイトとして、両方を運営していくことで顧客満足度を高めていくつもりです。
テナントが一番欲しいのはユーザーですから、顧客満足度を高め、リピート率を上げることが結果的にはテナントの満足につながっていくと考えています。すべてテナントのため、ということですね。それに、例え今までLDDで買い物をしていたお客さんが「買う市モール」で検索して、提携する他のサイトで買うとしても、集まる母数が倍になれば実際の購入者数は上がるでしょう。

――他にはどのように集客していくのでしょう。


来月、フリーペーパーの『R25』を丸ごと1冊買い切り、52ページ全て使ってLDD特集を組み、東京、神奈川、埼玉、千葉で30数万部配布します。MG(ものぐさ)というテーマで、「MGな若者にとっての最適なネット販売」という特集です。そこでLDDや商材を紹介してもらいます。あと、ヤフーとの提携を見据え、ヤフーの井上社長と弊社の平松(元LD社長)の対談も誌面では扱う予定です。ネット広告などと並行して、こうしたイベント的な施策も積極的に行っていくつもりです。

――EC面の流通総額や出店者数は。


売り上げ、流通総額は非公開です。出店社数は現在2000店ぐらいですね。商品は、今は家電やアパレル、ヘルス&美容関係などを中心に約100万商品あるのですが、これを来期は倍に増やすつもりです。

――現在、仮想モール市場は楽天を筆頭にヤフー、ビッダーズなどが独占している状態です。入り込むのは簡単ではないと思いますが、風穴を開けるための戦略は。


我々は来期の戦略を表すキーワードとして、「ターゲティング」「オープン化」「グローバル」「プロフィタブル」「貢献」の5つを掲げています。
まず、「ターゲティング」ですが、これは顧客層を絞ったマーケティング戦略を展開するということです。例えば、我々はLDとの親和性が高い。で、LDは「LDブログ」を持っていますよね。我々はこの「LDブログ」に集まる20〜40代のユーザーを、買い物やネット、あるいはブログに対してこだわりを持っている「ライトおたく」だと捉えています。こうした知識やこだわりを持ったユーザーにキチンとリーチできるマーケティングをしていこうと考えています。

多方面での支援で差別化を


――オープン化については。


これは2つの意味があります。まず1つは「アライアンスのオープン化」です。つまり色々な会社と手を組んでいこう、ということですね。
例えば、先日セシールさんと提携し、ポイントの相互交換を始めました。今は顧客満足の向上に最も力を入れているので、できる限り顧客に利益を還元していくという意味で、ポイントを強化しています。セシールは10月末にLDDにも出店しています。もともとLDの関連会社で、我々とは親戚のようなもの。なので今後も色々と協力していくつもりです。
他に提携先としては、先ほどヤフーの名前が出ましたが、例えばヤフーと提携し、ヤフーショッピングの商材が検索できるようにするなども視野に入れています。競合ですが、先ほど言ったようにそれで訪問者全体の母数が増えれば購入率も上がるわけですから。

――双方がオープンに商品データなどを提供しあう、と。では、2つ目の意味は。


2つめの意味は、「業務のオープン化」です。今までは仮想モール事業のみ手掛けてきましたが、現在我々が考えているのは、モールへの出店だけではなく、テナントの周辺に対するサービスの提供です。これを事業化し、積極的にやっていくつもりです。

――具体的には。


例えば、テナントさんが物流をもっと効率化したいと考えたとしますね。で、我々は直販の「ライブドアブックス」を運営しているので、厚木に1千坪の専用の倉庫を持っています。つまり、既に物流機能を持っている訳で、これをモールのテナントに使ってもらおう、ということです。今後、ECの市場規模がますます拡大していけば、ECに特化した物流の効率化はますます波が大きくなっていくはずです。共同配送などでコストダウンは図れると考えているので、これを実現していけば、テナントにとってメリットになるのではと思います。

――サービス開始のメドは。


一部もう始まっているところもあります。出店テナントには既に大々的にアナウンスをしているので、まずはテナント向けにサービスを提供していきます。

――LDDに入っていない他のECサイトにも提供するのですか。


今後検討していきます。LDDのテナント以外から話があれば、柔軟に対応していく方向で考えています。

――ただ、近年はそうした物流支援サービスが活発で、同様の取り組みをされているところが増えてきています。どう差別化していくのでしょうか。


我々が他社、例えばサイト構築会社が提供する物流サービスなどと違うところは、「モールを持っている」ということです。ワンストップソリューションの中に、ショッピングの場所を用意しているというのはLDDを持っている我々の強みである訳です。ネット販売は誰でも簡単にできますが、問題は集客です。物流支援サービスを行っている企業で我々のようにモールを持っていなければ、集客でサポートできるのはアドバイス止まりでしょう。我々は売るための場所も同時に提供できるので、それがテナントを呼び込むためのポイントになると思います。

――楽天やアマゾンなども物流支援を行っています。


そうですね。そうしたところとは、物流以外でも支援していくことで差別化を図る必要があるでしょう。

インターネットの世界で"囲い込み"は絶対成功しない


「囲い込み」から「オープン化」へ


――物流以外の支援とは。


マーケティングやシステム部分の支援も行っていきます。例えば、あるテナントが自社で一からサイトを立ち上げるより、LDDにまず出店していれば、LDDのURLをミラーリングし、URLを変えれば独自ドメインになる、という仕様にするつもりです。仮に、楽天に出店して、LDDにも出店して、というテナントがいたとします。当然、力が付けば自社サイトを立ち上げたいと思いますよね。LDDに出店していれば、独自サイトを出す体制はできていますから、難なく始められる訳です。独自サイトに我々から送客すればこちらにはアフィリエイト収入が入るので、良好な関係が保てると思います。
これまでのインターネットショッピングは『囲い込み』でしたが、これからは『オープン』になっていきます。インターネットでは囲い込んだビジネスは絶対に成功しません。つまり、利用者の利便性が最大限にならないと失敗する、ということですね。

――「グローバル」については。


中国の富裕層向けに日本の商材を販売するサイトを立ち上げます。サーバーはこちらに置いて。中国に日本から商品を送る形です。

――中国でECを行う動きは活発化していますが、撤退しているところもあり、なかなか難しいようです。


全部を自分たちだけでやろうと思ったら難しいので、現地企業と組むことを視野に入れています。商材はこれから絞り込んでいきますが、関税分もかかる訳ですから、安さを売りにするものにはならないでしょう。中国には高くても買いたい、という富裕層は多くいますから、そうした人に対し訴求できるものを売るつもりです。テナントにとっても、LDD以外に、中国市場で自分たちの商品が売れるかどうかを試せるなどのメリットがあると思います。ただ、最初からモール的な展開は難しいので、ドロップシッピングのような形で、我々が窓口となって代理販売する仕組みを想定しています。

――「プロフィタブル(利益確保)」というのは。


コスト削減ですね。オープン化と重なりますが、すべて自社で行うのではなく、外注を考えることでコスト削減につなげていきます。
もう1つ。弊社には現在、LDから来ている人、プロミスから来ている人、そしてプロパーの人と、3種類の人間がいます。当然それぞれ得意分野が違いますので、それぞれの得意を活かすことが効率化につながると考えています。例えばプロミスから来たひとは金融、決済面を任せるとか。
正直、今までは3社から人が寄り集まっている状態なので、ギスギスしている部分もありました。しかし過去の経緯を知らない私が社長になったので、何も気にせず人を組み合わせ、色々なプロジェクトを立ち上げることができます(笑)。

――決済と言えば、独自の決済サービスを手掛けていますね。


それが5つ目のキーワード、「貢献」です。プロミスグループとして、ネットの世界でお客様に貢献するということですね。
そのための中核会社として作ったのが決済サービス会社「Doフィナンシャルサービス」です。主なサービスは、ネット上で使えるカードレスのクレジット決済「Do―Link決済」です。LDDには始めから入っているサービスで、月に6回締め日があるので、早く現金化されるのがメリットです。運転資金に困っているテナントにとっては非常にいいサービスではないでしょうか。ユーザーにとっても、その場で2万円まで「即審査、無利子」でお金が使えるので、便利だと思います。正直言って、これまではこの決済の普及が今ひとつでしたので、今後はどんどん広めていくつもりです。

――将来的には他のECサイトにも提供していくのでしょうか。


サービス自体は我々が直接やるわけではないので言いづらいですが、他社と提携していく中で当然、「Doフィナンシャル」を紹介していきます。我々はプロミスグループなので、やはりEC上でもファイナンス面で貢献しなければならないと思っているので、生まれ変わった買う市では、そこの部分を担っていければいいなと思っています。
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