2008.11 無料公開記事      ▲TOP PAGE


医薬品ネット販売、「なぜ規制必要?」

――規制改革会議VS厚労省で公開討論




「何故、店舗販売が優でネット販売が劣なのか、根拠を示して頂きたい」。10月7日、規制改革会議が開催した公開討論で、委員から厳しい追求の声が相次いだ。テーマは医薬品のネット販売に関する規制強化について」。追求を受けたのは、厚生労働省の高井康行医薬食品局長ほか、医薬品ネット販売規制強化を盛り込む「薬事法施行規則等の一部を改正する省令案」(省令案)の作成作業に当たった医薬食品局総務課等の面々である。
ネットで販売できる医薬品をビタミン剤等の「第3類医薬品」に制限する内容の省令案に対し、ネット販売業者から反対の声が続出しているが、公開討論では、厚労省の規制根拠に疑念を抱かせる場面もあり、医薬品ネット販売規制の見直し等を求める声がさらに高まりそうな気配を見せている。




懸念される薬店や消費者への影響


今回、厚労省が9月17日に公表した省令案は、「薬事法」の改正に伴う一般用医薬品販売制度の見直しを受けたもの。概要は、医薬品を副作用リスクの程度に応じて第1〜第3類に区分し、販売体制や情報提供に関する規定を設けたこと、薬剤師以外の専門家として新たに設ける「管理販売者」にも医薬品の取り扱いを認めることになる。
省令案では、ネット販売で扱える医薬品を「第3類医薬品」に制限する内容を盛り込んだが、これはネット販売を手掛ける事業者にとって、規制強化にほかならない。現在、ネットでは、通販で取り扱いを認められる薬効群に基づき、胃腸薬や解熱鎮痛剤、水虫薬なども販売されているが、省令案がこのまま通った場合、新たな販売制度で「第2類医薬品」に区分されるこれらの医薬品が販売ができなくなる。
因みに、現在ネットで販売されている医薬品は推計300〜400億円で、このうち、「第2類医薬品」に該当するものが6割以上とされている。それだけ、ネット販売を行う薬局・薬店、顧客に大きな影響を及ぼす問題なのだ。
現状、「第2類医薬品」に該当するものも含め、医薬品ネット販売で特に問題は起きていない。にも関わらず、厚労省が規制強化の拠りどころとしているのが、顧客に対する情報提供体制。ネット販売では、専門家が書面を用いて顧客に直接情報提供を行う"対面の原則"が担保できないというものだ。
これに対し、ネット販売業者は、ITの活用により"対面の原則"は担保できると反発。医薬品ネット販売の規制強化は、消費者の利便性を害するとして、省令案の見直しなどを求める活動を行っている。

販売規定そのままでも省令で規制?


医薬品ネット販売の規制強化は、国民生活に影響を及ぼす問題と捉え、規制改革会議は、厚労省との公開討論を開催した。
まず、俎上に上がったのは、医薬品ネット販売に規制をかける法的な根拠。福井秀夫委員から、医薬品ネット販売自体の法的な位置付けを問われた厚労省は、ネット販売が「薬事法」制定時に想定されていなかったもので、グレーに近いとしながらも、「ギリギリ適法」との見方を示した。確かに、違法であれば、医薬品のネット販売自体を禁止するはず。だが、厚労省は医薬品ネット販売での対応に関する通知を出しており、この点からも適法であることは間違いない。
次の論点は規制強化の法的な根拠で、厚労省は、医薬品販売時における情報提供を規定する「薬事法」36条の6等を挙げた。これは、今回の「薬事法」の改正で新たに盛り込まれたもの。厚労省側の見方としては、医薬品販売制度の見直しの柱の1つに、全ての医薬品販売業者に必要な情報の提供を求めることがあるため、"対面の原則"が担保できないネット販売で扱えるのは、情報提供規定のない「第3類医薬品」しかないというわけだ。
これに対し福井委員は、今回の「薬事法」改正で販売について規定している37条(販売方法等の制限)に手が加えられていない点に着目し、「販売に関する規定が変わっていないのに、適法と判断するネット販売を省令で規制することができるのか」と指摘。厚労省側は、国会審議を経たものであることなどを主張し、法解釈に関する議論は平行線をたどった。

メールは記録の残る立派な文書!!


一方、医薬品ネット販売に対する規制の大もとにあるのは、"対面の原則"、 つまり、ネット販売では、薬剤師等の専門化が書面を用い、対面で顧客に情報提供する店販と同等の体制を構築できないということだが、これについても委員からは疑問の声が上がった。
既に、ネット販売業者側では、メールやPDFファイルなど、ITを活用することで"対面の原則"を担保することは可能と主張しているが、規制改革会議委員も、「メールは立派な文書で記録も残る」と指摘。これに対し、厚労省側は、情報提供の即時性の違いなどで対抗した。
だが、購入客側が回答を得るまでにある程度の時間がかかる承知した上でネット販売を利用していることは明らか。何かの疾病ですぐに薬が必要なら、最寄の薬局・薬店、あるいは病院にいくのが普通だろう。この点については、委員も言及し、「即時回答ができないまでも、例えば24時間以内に回答することを表示しているサイトは多い」(福井委員)と切りかえした。
医薬品は副作用リスクを抱えるだけに顧客への情報提供は不可欠な要素ではある。だが、ITを活用した情報提供に対する十分な検証が行われないまま、"対面の原則"を理由にネット販売だけを規制しようとするのは、あまりにも拙速なのだ。

ネット経由の事故発生状況は不明


厚労省が適法と認める医薬品ネット販売だが、わざわざ狙い撃ちの規制をかけなければならないほど危険なものなのか。これについては、ネット販売で購入された医薬品の事故がどれだけあるのか、また、ネット販売固有の理由で事故が発生しているのかを検証する必要があろう。
だが、実際には、ネット販売で購入された医薬品の事故は報告されていない。正確に言えば、医療機関から医薬品が原因と思われる事故の情報を収集する仕組みはあるが、その先の購入経路については、厚労省でも把握できていない。これも、公開討論で改めて明らかになったことだが、規制を掛ける以上、ネット販売経由の被害状況を把握していて当たり前のはず。また、医薬品の副作用は、製品に含まれる成分や顧客の体質等の問題に関連することを考えれば、ネット販売に限らず全てのチャネルが同じリスクを抱えていることになる。

影響は少数?"弱者切捨て"の規制論


医薬品ネット販売の規制は、消費者の利便性を損なうことにつながる。これは、医薬品を扱うネット販売業者の多くが主張している点で、公開討論でも、松井道夫委員が厚労省側に見解を求めたが、その回答は、"弱者切捨て"とも受け取られかねないものだった。
松井委員の質問は、地理的な問題などで、なかなか薬局・薬店に行けない顧客がネット販売を使い利便性を感じているのに対し、今回の規制でこの道を閉ざすことをどう考えているのか、といった内容。これに対する厚労省の回答は、「普段ネットを利用している方の多くが禁止されても、影響がないとする調査結果もある。利便性がどこにあるのかという議論も出てくる」というものだ。
素直に言葉通りに受け取れば、影響を受けるのは少数派だから規制をかけても問題がないという理論で、実際に、医薬品ネット販売の利便性を感じているユーザーがいることについても、議論の余地があるということになる。
だが、少数派に含まれるのは、地理的な条件や高齢など何らかの問題で、薬局・薬店に行くことが難しい人。これを省みない厚労省の発言は、"弱者切捨て"と受け止められかねない。
同時に問題となったのは、厚労省側が医薬品ネットは販売のニーズが低いとする根拠にあげた"ある調査"。調査対象の大多数がネットでの医薬品購入未経験者である調査に対し、委員は「医薬品のネット販売が制限されて困るか問われて"困る"と回答するはずがない」と指摘。さらに同調査を引用した厚労省に対しても、「自分が(医薬品ネット販売を)使っていないから他人にも使わせるなという多数決で、少数者の人権が制約されることが本当に許されると思っているのか」と詰め寄った。
バイアスがかかっているとしか言えない調査を提示した厚労省の対応は、やはり問題と言えよう。

理不尽なネット販売規制、追求の手緩めず


今回の公開討論で改めて浮き彫りとなったのは、厚労省側の規制根拠が脆弱であること。省令案の公表を受け、既にケンコーコムやヤフーなどが省令案の見直しや再検討の場を設けることなどを求め、パブリックコメントを提出しているが、さらに公開討論で明確な規制根拠が示されなかったことを踏まえ、楽天や日本オンラインドラッグ協会が規制の見直しを求めるパブリックコメントを提出。規制改革会議でも、引き続きこの問題を扱っていく構えを見せている。理不尽な医薬品ネット販売規制を追及する動きは、さらに広がっている。【編集部・後藤浩】

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